日本庭園と茶室を設えた ゆったりとした時を過ごせるそば処

美しい黒松並木が海沿いに連なる「古志の松原」で知られる富山市浜黒崎。雄大な景色をたたえる景勝地からほど近い田園地帯にそばと薄茶を楽しむことができる店があります。カウンター6席のみという小さなそば処にも関わらず、店を切り盛りする前田圭一さんが丹精込めて打つそばと、ゆったりと茶室で過ごすひと時を求めて2020年のオープン以来、多くの客が訪れています。
 

 

『松濤庵』と名付けられたその店は、前田薬品工業株式会社の創業者・故前田實氏の自宅があった場所にあります。優美な日本庭園を設え、かつては、富山の医薬品業界の社交場として人々に愛された場所でもありましたが、1996年に火事で全焼。幸い庭園のシンボルだった赤松が焼け残ったため、思い出の場所を残そうと翌年に茶室が建てられました。しかし、茶室の完成から程なくして前田氏は他界し、茶室と庭園はほとんど使われることなく長年、荒れ放題となっていました。そんな背景を持つこの場所に再び命を吹き込み、かつてのように人々が集う場所を作るべく、同店は誕生しました。

 

 

 

開店することが決まり、全くの未経験からそば打ちやそばの知識を一から学んだという前田さん。幾度も試行錯誤を重ねながら2年の準備期間を経て開店へと至りました。そんな前田さんが打つ自慢のそばは、野趣あふれるシンプルな田舎そば。石臼で丁寧に挽かれた福井県産の粗挽きと細挽きの2種類のそば粉とつなぎを独自の配合でブレンドし、のどごしのよい二八そばに仕上げています。そのため、深みと香りが強くそばの風味を存分に楽しむことができるのが特徴です。
 

 

そばに欠かせないそばつゆも、鰹、宗田鰹、鯖の削り節で取ったそれぞれに個性が違う濃厚な出汁に、濃口醬油をベースにしたかえしを合わせています。かえしは、1カ月ほど寝かせて醤油の角を取ることでまろやかで上品な味わいに。キリっとした中にも、ほどよい甘みと丸みを帯びた塩味がそばの風味をより一層引き立ててくれます。
 

 

また、そばに使用しているのは、上市町の名水「城山の湧水」。毎週2回汲みにいっており、飲み水やそばつゆにも使われています。茶室での薄茶もこの水を使用しており、まろやかで雑味のない湧水もまた、同店では欠かせない厳選素材のひとつです。
 

 

メニューは、定番の「ざる蕎麦」や、ぶっかけやとろろ、温かいそばのほか、岩手県産合鴨を使用した「鴨汁ざる蕎麦」(2日前までの要予約)があり、こちらも人気。また、「すだち蕎麦」など季節限定のメニューもあります。
 

 

そばを存分に味わったら、薄茶と共に茶室で過ごすのが同店のもうひとつの醍醐味。敷地の奥へと歩みを進めると、丁寧に手入れが施された日本庭園が目の前に広がり、日本庭園の右手側には茶室があります。中に入ると、季節の花々がいたるところに飾られており、細やかな心配りが随所に光ります。
 

 

 

柔らかな光が差し込み厳かな雰囲気の茶室は、凛とした佇まいの中にも、不思議な居心地の良さがあります。柔らかな光が差し込む厳かな雰囲気の茶室は、設えの細部まで細やかな装飾が施され、伝統的な技法を用いた贅沢な造りとなっています。茶室から望む庭の景色もまた格別です。奥の広間には縁側があり、庭を一望することができます。
 

 

 

湧き水で点てられた薄茶と愛らしい琥珀糖をいただきながら、物思いにふけるもよし、おしゃべりに花を咲かせるのもよし、ここでの過ごし方は十人十色です。凛とした佇まいの中にも、不思議な居心地の良さがありゆったりとした時間が流れています。
 

 

予約なしの来店でも時間帯やタイミングによっては入れる日もありますが、1日に打つそばの量が限られているため、事前予約をした方がベター。大切な人や気の置けない友人とのひとときや、ひとりでリラックスしたい時でも利用したい同店。白い暖簾をくぐった先にある穏やかな非日常の空間で心静かに時の流れを感じてみてください。
 

 

 

■DATA

店名:松濤庵
住所:富山市浜黒崎242
TEL:080-7557-3419
営業時間:11:30~15:00(LO14:30)
定休日:木・金曜 ※茶室は木・金・土曜休み
URL: Facebook、Instagramあり

 

■アクセス

バス: 地鉄バス『浜黒崎小学校前』下車、徒歩8分
車:富山駅より車で約25分