富山ブラック

「©(公社)とやま観光推進機構」

 

県外から訪れたお客さんが、その見た目の黒さからブラックラーメンと呼び始め、全国にその名が広まった富山を代表するB級グルメ、通称「富山ブラック」。衝撃的なしょっぱさが「癖になる」と愛好家をうならせる一方、「しょっぱ過ぎる」と拒絶する人も少なからずいます。だが、賛否があるからこそ一度は食して判断してみたい。そんな好奇心をかき立てる不思議な魅力があります。

 

■正体は昭和の労働者向けラーメン

 

富山ブラックが誕生したのは昭和20(1945)年ころ。第2次世界大戦終戦間際の昭和20年に空襲を受けた富山市内には、復興による建設需要を目当てに労働者があふれていました。そんな汗をかく肉体労働者のための塩分補給として、味の濃いスープのしょうゆラーメンを作ったのがはじまりとされています。

 

当時は弁当箱に白米やおにぎりを詰めて、屋台のラーメン屋に持参するのが当たり前でした。屋台主はご飯と一緒にラーメンを食べることを意識し、濃口しょうゆを使った塩辛いスープに、濃い味付けのチャーシューやメンマを添えて、白米をおいしく食べてもらえるよう工夫したそうです。

 

■〝元祖〟富山ブラック

 

その屋台は昭和22年創業の「大喜」というラーメン屋でした。後に「西町大喜」という店を構えると、塩辛く濃い味付けの〝食べるおかずの中華そば〟は噂に噂を呼び、市内で大きな祭りがあるときなどは1千人規模の行列を作ったこともありました。最盛期には1カ月に1万杯もの注文があったそうです。

 

「流行に左右されないこだわりの味を頑固に守ってきたからだと自負している」。創業者でオヤッさんの愛称で親しまれた高橋青幹氏(故人)が、決して万人受けしないながらも、創業当時からの味を変えずに提供し続けました。

 

平成12(2000)年にオヤッさんが引退する際、有限会社プライムワンに大喜の運営権を譲渡。その志を受け継いだのが現在の「西町大喜」です。ラーメンの味はもちろん、屋号と昭和臭が残る当時のお店をそっくりそのまま引き継ぎました。中心街である西町すぐそばにある太田口通り商店街の入り口に、その歴史は今もたたずんでいます。

 

ちなみに同店のメニューには、「富山ブラック」という表記はされておらず、ラーメンは中華そば小(並)、大、特大の3種類という潔さです。調理場が狭いという理由から、長らくライス(白米)を提供していませんでしたが、多くの人の要望に応え、2015年ころからメニューに加わりました。創業時のように、かつてはライスやおにぎりを持ち込むのが一般的でしたが、現在は持ち込めません。

 

とはいえ、昭和から続くこだわりと歴史をいまなお感じられるところが、この店が〝元祖〟と呼ばれるゆえんです。

 

「©(公社)とやま観光推進機構」

 

■ラーメンショーで5度の優勝で全国区に!

 

富山ブラックは徐々に市内の各ラーメン店でも提供されるようになりましたが、全国的に有名になったのは最近です。

 

大きな転機となったのは2009年に初開催された日本最大級のラーメンイベント「東京ラーメンショー」です。約100店舗が参加する3日間の売り上げを競う対決で、「富山ブラック」を提供した「麺家いろは」(射水市)が4041杯を売り上げ優勝。これを機にメディアからの取材が殺到し、一躍有名店の仲間入りを果たしました。

 

その後、同店は2012年まで3年連続で優勝。これまでに5度に渡り日本一に輝き、創業者の栗原清氏直々監修による魚介風味を効かせた漆黒のしょうゆスープが特徴のカップラーメンなども販売されました。県内外で新店舗開店も相次ぎ、富山ブラックブームの火付け役となりました。

 

 

 

■王道VS邪道?多様化する富山ブラック

 

このブームをきっかけに県内外にさまざまな富山ブラックが誕生します。インターネットで検索すれば県内だけでも提供する十数店舗が見つるでしょう。今では、それほど塩辛くない、あっさり味の富山ブラックを提供して人気となる店も出てこれば、「それは邪道」とかたくなに塩辛さを追求してコアなファンを楽しませる店もあります。

 

さらに最近では、富山県入善町のエビみそを入れた「入善ブラウンラーメン」や、麺に唐辛子を練り込んだ「入善レッドラーメン」、富山県小矢部市のブランド豚を使ったとんこつスープの「おやべホワイトラーメン」などブラックから逸脱したラーメンも登場。富山カラーラーメン競争とも呼ばれる独特の多様化に、ラーメン愛好家も注目しているようです。

 

ちなみに、富山ブラックにインスピレーションを受けた「富山ブラックサイダー」なる炭酸飲料も販売されています。どんな味かは飲んでみてのお楽しみ。他にも「富山ブラックソーセージ」などの黒にまみれたあやかり食品も続々と登場しており、商魂たくましく、話題作りに余念がありません。