路面電車(トラム)

「©(公社)とやま観光推進機構」

 

富山市中心部は、全国的にも珍しい多種多様な路面電車が東西南北に行き交う〝鉄軌道のまち〟として知られています。その歴史は100年を超えていますが、一躍有名となったのは、2006年の富山ライトレールの開業です。開業にあたっては、全車両に超低床車両である次世代型路面電車(LRT)が採用され、日本初の本格的なLRT路線の導入事例として全国から注目を集めました。

 

■脱炭素化とコンパクトシティへの注目

少子高齢化を背景に、住宅や生活に必要な施設を路面電車沿線に高密度で近接させる「コンパクトシティ」構想を実現しようと、富山市が街づくり改革に踏み切ったことがLRT導入のきっかけとなりました。排出ガスを出さない路面電車は脱炭素化に寄与する移動手段として世界的に関心が高まっていました。また、2015年に北陸新幹線が開業し、東京―富山間が新幹線でつながり、首都圏からの観光客が増えたことも注目度が高まる追い風となりました。

 

実は、富山市も他の地方自治体と同様に、自動車の普及に伴って路面電車の利用は減少しました。1972年には路面電車の一部区間が廃止されています。

 

しかし、少子高齢化に優しい街づくりに路面電車が有効であると世界的にも見直されました。自動車の運転が難しい高齢者にとって、低床のLRTはお年寄りにも使いやすい公共交通機関です。栃木県宇都宮市が2023年8月のLRT開業を目指し、富山市同様にLRTによる街づくりに動き出しています。富山市には多くの路線が残っていたこともあり、宇都宮市よりも10年以上先駆け、LRTを核とした街づくり改革にかじを切っています。

 

09年にはJR富山駅前と市の中心部を結ぶ路面電車の環状線が開業し、37年ぶりに市内に環状線が復活。さらに、20年には、駅を境に南と北に分断されていた路面電車が接続され、乗り換えの手間も運賃もかからず、市内の南北を行き来できるようになりました。

 

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■均一運賃&多い運行本数で高い利便性

市内を走る路面電車は、通勤や通学、買い物の足として多くの市民に利用され、「市電」の呼び名で親しまれています。特に雪国である富山の場合、積雪した際は車や自転車での移動が困難になるため、安定して走行できる市電の利用者は冬に増えます。

 

そして、富山市の路面電車の魅力は高い利便性にあります。市内電車は均一運賃で「大人(中学生以上)210円、小児(小学生以下)110円」(運賃後払い方式)で、富山観光で初めて乗る人にとっても分かりやすい料金設定です。運行本数も多く、5~15分間隔で運行しています。

 

ちなみに、いろいろな車両が走っていますが、乗り方はすべて同じです。駅や停留所で電車に乗り、降りたい駅のひとつ前の駅を出発したら、車内にある停車ボタンを押します。降車時に、運転手さんの側にある運賃箱に乗車賃を入れる―という流れです。

 

また、南富山駅前、大学方面と市内環状線、富山港線間は乗り継ぎができます。乗り継ぎの際は、乗り継ぐ前の電車の運転士に乗り継ぐ旨を伝えると、無料で乗り継げる「乗り継ぎ券」がもらえます。観光客にはうれしい市内の路面電車の「1日乗り放題券」も販売しています。

 

■魅力的な最先端のLRT車両

市内を路面電車が走る路線は全部で6路線あります。1系統(南富山駅前~富山駅)、2系統(南富山駅前~富山大学前)、3系統(環状線)、4系統(岩瀬浜~南富山駅前)、5系統(岩瀬浜~富山大学前)、6系統(岩瀬浜~環状線)。昭和時代のレトロ車両から最新のLRTまで個性的な車両が走っており、鉄道マニア「鉄っちゃん」垂涎の景色が広がります。

 

ポピュラーな「デ7000形」は1965(昭和40)年に製造された車両で、2023年1月現在は11両が現役で活躍しています。その中でグリーンとベージュのツートンカラーに塗られた「7018号車」は唯一の旧塗装車で、見られたらラッキー。

 

さらに、「7022号車」はクラシカルにリニューアルされた「レトロ電車」として人気です。13年に富山軌道線100周年を迎えたことを記念してJR九州新幹線などの列車を手掛けた水戸岡鋭治氏によりデザインされた観光電車です。メタリック塗装でモダンな外装はもちろん、床やベンチ、テーブルに温かみのある木をふんだんに使った内装も特徴です。

 

一方で、近未来的なデザインのLRTは3種類あります。

「セントラム(CENTRAM)」は中心部(セントラル)と路面電車(トラム)を組み合わせたその名称通り、中心市街地をぐるりと回る環状線を走ります。カラーリングは白、銀、黒のカラーリングの3種類です。

 

「サントラム(SANTRAM)」は、セントラムよりも小ぶりな車両ですが、名称の由来である「3(サン)」両編成が最大の特徴。真ん中の車両は車輪がないフローティング車体となっています。

 

富山港の東、岩瀬浜までをつなぐ「ポートラム」は、「港」(ポート)と「路面電車」(トラム)を組み合わせた名称です。立山の新雪をイメージした白を基調とし、車体には虹にちなんだ7色の異なるアクセントカラーが編成ごとに施されています。

 

ちなみに富山市の西隣、高岡市には、同市出身のまんが家藤子・F・不二雄さんの代表的キャラクター「ドラえもん」をあしらったLRT「ドラえもんトラム」が走っています。

 

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■なぜ富山市に路面電車が残った?

車の普及で路面電車は車の渋滞の原因となるとして全国で路面電車の廃線が相次ぐ中で、なぜ富山市では路面電車が生き残り、さらには発展していったのでしょうか。

 

その理由は明確にはなっていませんが、運営する富山地方鉄道(20年に富山ライトレールを合併)によると、大きく3つの理由があるといいます。

 

一つ目は、富山駅から中心市街地、学生が集まる富山大学、富山地方鉄道との乗換駅がある南富山と、路面電車の停留所は人が多く向かう拠点にうまく分散しており、終日利用者が一定数確保できていたこと。

 

二つ目は、路面電車の軌道上に自動車が入り込むポイントが少なく、市電運行の遅れや、車の渋滞の原因にならかったこと。

 

三つ目が約5分間隔で運行しており、安定した運航と利便性が確保できていたこと-としています。

 

富山市内で今も路面電車が繁栄している背景には、運営する鉄道会社に加え、県や市など自治体の努力があります。とはいえ、環状線の復活や沿線の延長などにより、市内では路面電車と車との衝突事故も発生しています。今後も安全に路面電車が運行され続けるには市民の理解と協力も不可欠です。

 

そうしたかいもあり、路面電車が南北接続する前年の14年に1万2179人だった1日平均の輸送人員数は、19年には約20%増の1万4638人まで拡大するなど、路面電車の利用者数は着実に増えてきています。