ホタルイカ

「©(公社)とやま観光推進機構」

 

富山県の代表的な海の幸として知られるホタルイカ。海岸近くまで数百万匹のホタルイカが押し寄せ、闇夜に光り輝くその現象は世界でも例のない珍しい光景です。富山のホタルイカは水揚げの際に傷がつきにくい定置網で漁獲され、また漁場から漁港までが近いため鮮度も抜群。富山にとってホタルイカは幻想的な観光資源であり、舌鼓を打つ食材でもあるのです。

 

■漁獲量は2位なのになぜ有名?

ホタルイカを漁獲しているのは主に、兵庫、鳥取、京都、福井、石川、富山、新潟の7府県。その中で実は、ホタルイカの漁獲量では兵庫県が日本一で、富山県は2位という構図が定着しています。にもかかわらず、兵庫県を差し置いて富山のホタルイカが全国で圧倒的に有名で価値があるのはなぜでしょうか。

 

ホタルイカは、春に生まれて1年でその一生を終えます。日本海を中心に分布しており、深海200メートルから600メートルにすむ、胴長7センチメートル、重さ10グラムほどのイカです。富山湾では毎年3月1日が漁の解禁日。漁は6月まで続き、最盛期は4月~5月初旬あたりです。

 

早春から晩春(3~5月)にかけ、富山湾の深海底にすむホタルイカは夜になると、産卵の時期を迎え、一斉に浅い海へと浮上してきます。産卵した後は再び深海へ降下して岸を離れる行動を群れごとに繰り返します。オスはメスに精子を渡すとそのまま死んでしまうため、夜に浮上してくるのはメスだけです。

 

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■圧倒的理由その1「富山湾の独特の地形」

数百万匹のホタルイカが海岸に押し寄せてくる理由は、海岸から急に深くなるという富山湾独特の地形に由来します。岸から沖に向かって急にストンと深くなるすり鉢型の海底地形になっており、海岸から深海が近いため、ホタルイカにとって岸に寄りやすくなっています。ちなみに、生きたままの状態で見つかるのは珍しいとされるダイオウイカも、この海底地形のおかげで生きたまま岸で発見されることがあります。

 

ホタルイカは産卵後、海の底へ戻っていきますが、方向を見失ったり潮の流れに捕まったりすると、海岸へ打ち上げられて二度と海へは戻れません。このとき浜に打ち上がったときの刺激でホタルイカが襲われていると感じ、波打ち際に光ながら打ち上げられる現象が「ホタルイカの身投げ」と呼ばれています。

 

一般的に2月下旬から5月にかけてみられ、数が数万匹にも及ぶときには、海岸線が青白くイルミネーションのように輝く幻想的な光景が浮かび上がります。

 

ただ、天気や風などの条件がそろわないとなかなか見られません。月が出ているとホタルイカは浅瀬にやってこないので、新月の日の前後2日間、午後9時くらいから翌未明の時間帯が最も出現確率が高いといわれています。これは、ホタルイカは月の光を目印に自分の位置を把握しており、月明かりのない新月の夜に方向を見失ってしまい、深海へ戻ることができないことが理由と考えられています。

 

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また、富山湾の中でも特に常願寺川右岸から魚津市にかけて約15㎞の沖合、約1・3㎞の海面は「ホタルイカ群遊海面」として国の特別天然記念物に指定されています。この一帯では漁の時期、ホタルイカの神秘的な光や漁の様子などの貴重な瞬間を観光船から見学できる「海上観光」を実施しています。ただし、人気のツアーのうえ席数は限られています。予約が始まる3月の早期予約をおすすめしますが、天候の都合でせっかく予約ができたとしても見られない可能性もあることを承知しておきましょう。

 

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■圧倒的理由その2「新鮮で傷が少ない」

富山県でのホタルイカの主な漁法は定置網漁で、県の漁獲量の70%以上を占めています。これは沿岸の海面に浮かべた定置漁場へ行き、藁(わら)などで作った網に入った魚を水揚げする漁法です。漁期が終われば藁の網を沈めて自然にかえします。富山県で考案されて各地に伝わったとされており、定置網によるホタルイカ漁は全国でも富山でしかおこなわれていません。そして沿岸に設置されたこの網にかかるのは、産卵期の丸々太ったメスだけです。

 

一方、山陰沖などでは海底まで重い網を沈めて引き回す底曳網漁のため、まだ太っていないメスや痩せたオスが獲れることもあります。底曳網漁は深い水底をさらい一網打尽にすることで一気に多くの魚を取れる利点があります。兵庫県がホタルイカの漁獲量で日本一なのはこの底引網漁のおかげでもあります。

 

しかし、この漁法は魚を傷つけてしまうだけでなく、そこに棲むほかの海生生物の環境を壊すと問題視されています。

 

対して、富山の定置網は産卵後に深海に戻ろうとするメスのみを捕獲できるように設置場所も考えられており、ホタルイカのストレスが少ないことや水揚げの際に傷がつきにくいことから品質を落とすことなく、おいしさだけでなく資源も保つことにもつながっています。

 

また、富山湾は沿岸が漁場となるので港や加工場にも近く、鮮度が損なわれにくい利点もあります。さらに、3000メートル級の立山連峰から富山湾に注ぎこむ水は、高低差4000メートルもの急流となって海流を起こし、豊富な栄養分を海底まで届ける役割を果たすため、魚の育ちがよいとされます。

 

これが富山のホタルイカがおいしいといわれる理由です。

 

■深海の冷光は謎だらけ

産地である滑川市には、天正13(1585)年頃にはすでに漁獲された記録が残っています。昔は地元で「まついか」と呼ばれていました。その名が「ホタルイカ」になったのは明治38(1905)年。東京大学教授の渡瀬庄三郎博士が、ホタルのように美しい発光をするイカであることから「ホタルイカ」と名付けました。

 

ホタルイカは体全体に約700~1000個もの発光器を持っています。外敵から身を守るための目くらましや自分の影を消す役割のほか、仲間同士の合図として光るとされています。

 

刺激を与えたり驚かせると簡単に発光しますが、この光は熱をもたないため「冷光」と呼ばれています。発光物質に発光酵素が作用することによって発光する昆虫のホタルの発光と同じ仕組みです。しかし、発光する物質や酵素の構造は異なっており、その生態はいまだ謎に包まれています。

 

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■手軽に貴重体験!ホタルイカミュージアム

そんなホタルイカの生態を詳しく知りたいならば、「ホタルイカミュージアム」(滑川市)がおすすめです。ホタルイカの生息する富山湾の神秘をはじめ、その発光メカニズムなどの生態を楽しく学べる施設です。

 

魅力は何と言ってもホタルイカの発光ショー。ライブシアターで青白く光るホタルイカの姿を間近で見ることができるだけでなく、直接触れることもできます。謎多き深海生物であるホタルイカは水槽飼育が困難なため、ミュージアムの職員がわざわざ毎日漁についていき、展示するホタルイカを捕獲しているとのことです。

 

この貴重な体験ができるのは、ホタルイカの旬の次期である「3月20日~5月31日」だけです。それ以外の日は発光性プランクトン「龍宮ホタル」によるショーとなるので注意しましょう。

 

ちなみにこのミュージアムでは、毎年4月に「春のホタルイカ祭り」という催しが行われます。中でも、「ホタルイカ目玉飛ばしコンテスト」はボイルしたホタルイカの目玉だけを飛ばすコンテストは、まさに〝目玉〟です。過去最高記録(10・5メートル)の更新を目指し、是非参加してみましょう。