富山の魅力を自転車で伝えたい 私、こうしてサイクリングガイドになりました

高橋尚子さん HAPPY CYCLING代表

アウトドア用品大手「モンベル」の立山店でスポーツバイクの専門スタッフとして働く傍ら、サイクリングツアーを企画・運営する「HAPPY CYCLING」の代表も務める高橋尚子さん。日本サイクリングガイド協会認定サイクリングガイドの資格を持ち、自転車を通して富山の魅力を発信するスペシャリストだ。国内外を旅し、行きついた先は故郷の富山。どんな思いを抱き、今に至ったのか。

 

 

「富山に来県するサイクリストの受け皿がないことに危機感があった」

 

Q 現在の仕事内容について教えてください

メインとしている職場はモンベルヴィレッジ立山(富山県立山町)のサイクル部門で、自転車に携わって今年で6年目になります。それ以外に2020年、「HAPPY CYCLING(ハッピーサイクリング)」というサイクリングツアーを企画、運営する事業を立ち上げました。

それ以前にも個人のサイクリングガイドとして富山県からの委託を受ける形でガイドをしていたのですけど、自転車人口が増え、もっと富山県を自転車でアピールしなければいけない流れの中で、国内外からのサイクリストの受け皿がないという状況は危機的だなとずっと感じていたんです。何とか受け皿を作りたいと思い、2020年に創業しました。

現在は、ハッピーサイクリングでの仕事以外の日は、モンベルでパートタイマーとして週4回、スポーツバイクの販売と修理などのメンテナンスを担当するスタッフとして勤めています。

当初はモンベルでフルタイムで働こうと思っていたのですけど、自転車についてある程度の組み立て知識と修理に必要な技術を習得させていただいたので、さらなるステップアップとして自分にできることを考えたときに、サイクリングツアー業に行きついたんです。

今はモンベルの方の出勤数を少し減らして、それ以外の時間をハッピーサイクリングの仕事の方に少しずつベクトルを移しています。

 

Q 自転車に携わる仕事を始めたきっかけは?

今の仕事をやる前は富山市内で飲食業に10年間携わっていました。モンベルで仕事をするきっかけとなったのは、もともと登山が好きな上、モンベルの店舗が自宅から近くて子供の保育園の送り迎えもできるからでした。

当初は登山用品を専門にしたスタッフとして仕事するつもりだったのですけど、自転車のスタッフが足りないという話になって。ただ、モンベルのスタッフって登山好きが本当に多くて、知識や経験も私よりも豊富で、この中に入ったら自分は埋もれると思ったんです。それで、「自転車に行きます」という感じで決めましたね。

自転車の専門スタッフは県外から来られていた社員の方だったのですが、ものすごい自転車に詳しい方で、その方が在籍した約3年の間、修理やメンテナンスについてみっちりたたきこまれました。

 

Q サイクリングガイドの資格はその後に取得されのですか?

そうですね。日本サイクリングガイド協会が実施しているサイクリングガイドの認定試験が富山県で行われたことがきっかけですね。例年は広島と沖縄での持ち回りで試験を開催していたのですけど、富山県で初めて開催されたんです。

その際に知り合いのサイクリストの方から「ちょっと受けてみない?」と声をかけていただいたのがきっかけで、「こういう仕事もあるんだ」と初めて知りました。その時、自転車をひとつの道具として何か社会に貢献したいというか、何か自分がいる意味があるようなことをしたいという気持ちが少しあって、そこにピタッとはまったんですね。それで試験を受けてみようと思いました。

 

 

「富山で誰もやっていないことに挑戦する使命感のようなものを感じている」

 

Q サイクリングツアー事業を手掛けてみて、手応えはありますか

女性のサイクリストも確実に増えていますし、ロードバイクやクロスバイクも含めて自転車に乗る人、愛好家は確実に増えていると感じています。

モンベルで働いていると、お客さんが望んでいることがよく分かります。女性にとってはこれがないと困るとか、やはり男性はこういうものを求めているんだなとか、マーケティングができますよね。そこでの対応で、どんなことがお客さんに喜ばれるのかを注意深くみながら、そこで気づいたことが事業になるという発想を持って取り組んでいます。

サイクリストの年齢層は幅広いですけれど、サイクリングツアーに多くの人が参加できるよう、その敷居はもっと低くしたいですね。

 

Q ゼロから事業スタートは大変ではなかったですか

自分はこれまではずっとお給料もらう側として働いていたので、何もないところから収入を発生させるということを上市での座禅と組み合わせたサイクリングツアーを行ったときに初めて経験したんですね。これまでと異なる充実感のような、「すごい」という感覚がありました。こんなにも、ゼロから収入を得ることがありがたいものなのだなと思って。

自分の中で、この仕事をこれからも続けていきたいという思いと、プロとしてしっかりとしなければいけないとい思いが芽生えました。誰に対しても、恐れずにぶつかっていこうという気概を持たなければいけない、より強いプライド持って仕事に当たらないといけないという責任感を持って今は取り組んでいます。

 

Q 今後、ハッピーサイクリングをどのようにしていきたいですか?

まずは、(国が日本を代表するサイクリングルートとして認定する)ナショナルサイクルルートとなった「富山湾岸サイクリングコースを」もっと国内外にPRして、しっかりとしたコンテンツを作り上げたい。

現在、モンベルのアウトドア本部(MOC)や、ほくでんツアーズさんと提携しサイクリングツアーを企画し募集しています。コロナ後は、以前のように大型バスをチャーターして、団体旅行でサイクリングを楽しむような時代ではなくなると思っています。今後は少人数で楽しむサイクルツアーが主流になるとみており、10人程度に参加者を絞り込み、単価を上げて色々なサービスも組み合わせ、参加者にとって至れり尽くせりのツアー作り、募集を始めたところです。

そうしたツアーを旅行会社に首都圏や関東圏、海外に宣伝していただき、ハッピーサイクリングが受託する流れを作りたい。それから、レンタルロードバイクを導入したので、初心者でも気軽にサイクリングを楽しめるツアーも考えています。今後も県内のさまざまな魅力を感じられるツアーをひとつひとつ作っていくつもりです。富山は一見、地味ではありますが、こうした自然を肌で感じられるツアーが今後フューチャーされていくだろうと勝手に推測してます(笑)。

 

 

Q ちなみに、自転車に携わる前はどのような生活をされていたのですか?

私は旅が好きで、観光ビザで長く行けるタイとオーストラリアに行きたくて、お金をためていた時期があって、そのころは夜はアルバイトで富山市内の沖縄料理屋に勤めていました。

その後、オートバイの免許を取得して、ためたお金でキャンプ道具をバイクに積んで沖縄にいきました。一冬越して、春に富山に帰ってくるつもりだったんですけど、お金を現地で稼ぐためにアパートを借りて働くことになり、1年間くらい沖縄に住みましたね。

沖縄は住みやすくて人も面白くて良いところだったのですけど、結局両親も友達もいて、生活のベースになる富山に帰ってきました。その後子供(女の子)も生まれたのですけど、籍は入れず、事実婚が5年間ほど続きました。

 

Q その後、離婚されたと

はい。シングルマザーになったのですけれど、それほど特別なこととは受け止めておらず、生きる上での選択肢の一つかなと。まだ小さかった子供にも時間をかけながらちゃんと説明してきました。子供にとっても完璧な母親なんていませんから。笑  それと両親の住む実家の近くに住んでおり、安心感はありました。

 

Q 富山でもっと女性が暮らしやすくなるためには何が必要だと思いますか?

女性(母親)に対しての『当たり前』をもっとルーズに捉えてもらえれば。

海外や沖縄に行って感じたことですが、女性は本当に働き者。富山の女性も然り。仕事が終わって買い物へ行き、息つく暇もなく家族の夕食の支度や洗濯物の取り込みなど。もちろん、社会生活では女性でも責任ある言動は必要ですが、男性と同等に働きながら帰宅後も家事育児などの「無償の仕事」が男性に比べて負担がまだまだ多いのかなと。女性だから、母親だからという固定観念を、本人も含め周りももっとルーズ(いい意味で適当)に捉えれれば富山でも暮らしやすいかなと思います。ちなみに、私は子供が小さい頃から、「ママは完璧じゃないから色々大目に見てね」と言っています。笑

 

 

Q 娘さんは高橋さんの仕事についてどのように感じられてますか?

娘は今、11歳になりました。娘にはママは自転車を使って好きな仕事をしていると伝えています。それで、娘には「自分で何かひとつでもいいから好きなこと見つけたら、それを全力でやってごらんと。ママはそれは応援するよ」と話しています。

娘がどんなふうに感じているかは分からないですが、生きていく中で「好き」をたくさん見つけてほしいと思っています。

 

Q 富山県外にまた住んでみたいと思いますか?

若い時は富山から出たいと思ったこともありました。実際に沖縄と石川で住んだことも。

例えば娘が20歳になって独立しするとなったら、富山にずっと住み続けるかは正直分からないですね。今住んでいる家にずっと住み続けたいという気持ちもないというか。どこかに何かきっかけがあれば、動いてもいいなという気持ちはやっぱりあるんです。そのときの状況の変化があれば、違う所に進もうという気になるかもしれないですね。