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富山市ガラス美術館(TOYAMAキラリ)

富山市の中心街を歩いていると、氷の岩脈のようなひと際目立つ外観の建造物が目の前に迫ってくる。富山市ガラス美術館や富山市立図書館本館などが 入居する複合施設「TOYAMAキラリ」だ。富山の名産であるガラスやアルミで彩られた外壁に太陽光が当たると、さまざまな角度に反射し、人や街をキラキラと照らすその様子から名付けられたという。

■建物そのものが〝光〟のアート! クールな外観、ホットな館内

2015年8月にオープンしたTOYAMAキラリを設計したのは、2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となった新国立競技場の設計も手掛けた隈研吾氏だ。そのコンセプトは建物の名前が示す通り〝光〟である。

 

地下1階、地上10階からなる高さ約57メートルの建物外観は、アルミとガラス、御影石の3種類の細長いパネルをちりばめ、立山連峰の峰々の山肌を表現した。季節や天気によって見え方も異なり、冬に青空が広がった日には氷柱が折り重なったような表情をみせ、鉛色が広がる曇り日には岩肌がゴツゴツした岸壁のようにそびえ立つ。自然のようでありグラスアートのような特異な外観は見た人に強い印象を与える。

 

面白いのは、その外観からは想像できない、ギャップある館内の雰囲気だ。外観がどこかクールさを醸し出す一方、館内は木と太陽光の温かみにあふれた空間となっている。2階から6階までは、四角い木枠を回転させながら積み上げたような「スパイラルボイド」と呼ばれる広大な吹き抜け構造になっており、訪れた人は吹き抜けの天井に吸い込まれていくような感覚を覚えるだろう。

 

南から射す太陽の光がめいっぱい床まで届き、館内全体を輝かせる角度に天窓が設置されている。そこから差し込んだ太陽光が周りの杉板やガラス、鏡にも反射して、やさしい光が館内を満たし、館内の木々に一層のぬくもりを与える。

 

■現代ガラス美術の巨匠・チフーリの常設展は一見の価値あり!

建物のメインとなる美術館は、2階と3階が企画展、4階が常設展示、5階が創作活動を行っている方の発表の場として貸し出しているスペースとなっている。現代ガラス美術に特化し、世界にも強力な発信力を持つ作品を展示するという趣旨から、6階には現代ガラス美術の第一人者である米国出身のデイル・チフーリ氏によるインスタレーション(空間全体を作品として体験させる芸術)作品が並ぶ「グラス・アート・ガーデン」が楽しめる。

 

眼帯姿で有名なチフーリ氏の作品は、カラフルな色の組み合わせと流動的な形が特徴だ。その鮮やかな色合いと斬新なデザインの作品は、他のガラス彫刻家のものとは一線を画す。世界的にも評価され、その人気は高い。チフーリ氏の作品を鑑賞できるのは国内でも箱根ガラスの森美術館などに限られており、間近に作品を見られるのはかなり貴重だ。

 

ちなみに、グラス・アート・ガーデンの観覧料は1人200円という安さ。

■図書館やカフェも併設

また、館内の3~5階は富山市立図書館が併設されており、見えない部分を極力排除した開放的な空間で蔵書を閲覧できる。

 

一般図書、児童図書約45万冊の蔵書に加え、気軽に読めるファッション誌やビジネス誌、芸術誌など書店では見つからない専門性の高いものまで約500タイトルをそろえる。とりわけ、ガラス美術館と同居することから、ガラス工芸の入門書や専門書も数百冊そろえており、ガラス美術に興味ある人にはおすすめだ。

 

そして2階では、慶応元(1865)年創業の金沢の老舗〝麩〟専門店「加賀麩不室屋」がプロデュースする和カフェ「不室屋(ふむろや)」の味を堪能できる。麸を現代の感覚に合わせてアレンジしたランチやスイーツを提供しており、一風変わった日本の伝統食を味わえる。

 

しかも、図書館の一部の蔵書は貸し出し手続きを行う前にカフェに持ち込んで読むこともできるというから、ついつい長居してしまいそうだ。

 

■ガラス製品が富山の名産である理由とは

ガラス美術館が建てられるほどのガラス文化が富山で根付いたか理由を探ると、300年以上の伝統を受け継ぐ「富山の売薬」に由来したことに行きつく。明治・大正期には、薬を入れるガラス瓶の製造が盛んに行われ、富山市は全国でもトップシェアの生産量を誇っていた。戦前は、富山駅を中心に溶解炉をもつガラス工場が10社以上あったといわれる。

 

しかし、太平洋戦争末期の富山大空襲でガラス工場の大半が被害を受け、加えて軽く割れないプラスチック容器の登場でガラス容器の需要は激減。ガラス生産は下火となった。

 

そうした中、高いガラス加工技術を持つ職人を多く抱えていた富山市は、培ってきたガラス文化をどうにか再興できないかを考えた。そこで、ガラスのアートや実用品としての将来性や発展性が見込めると判断し、市はガラス産業の振興を図るために1985(昭和60)年に生涯学習の拠点として「市民大学ガラス工芸コース」を開設。創作学習を通してガラス工芸を市民に浸透させることに努めた。

 

91年には全国初の公立のグラスアート専門学校「富山ガラス造形研究所」を設立。ガラス造形作家の養成に本腰を入れ始めると、研究所の卒業生やガラス作家が制作の場として利用できる「富山ガラス工房」を94年に開館した。

 

そして、ガラス文化再興に向けた〝学び〟と〝制作〟に力を入れてきたこの約30年間の集大成となったのが、〝鑑賞〟の場としての機能を持つ「富山市ガラス美術館」なのである。

 

■行き方

所在地:富山県富山市西町5番1号

●電車:富山駅から富山地方鉄道環状線「グランドプラザ前」下車、徒歩約2分。同南富山駅前行き「西町」下車、徒歩約1分。

●バス:富山地鉄バス「西町」下車すぐ、「総曲輪」下車 徒歩約4分

●車:富山ICから約20分。専用駐車場なし。