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富山県美術館

〝五感で楽しめる美術館〟。そんな表現がピッタリの「富山県美術館」は、展示された作品を「目でみて」堪能するという従来の美術館の枠から逸脱したユニークな仕掛けが満載だ。「聴いて」「触れて」「嗅いで」「味わって」…。館内の作品や施設だけでなく、富山県特有の自然を含めた周囲のあらゆる環境演出が加わることで、唯一無二の特別感が醸し出される。

■〝目〟で楽しめるのは展示作品だけではない

富山市内にあった富山県立近代美術館の老朽化に伴い、移転・新築計画を経て2017年に誕生した富山県美術館。世界一美しいとされるスターバックスがあることでも有名な富岩運河環水公園内に建てられており、富山駅から徒歩圏内というアクセスの良さも魅力だ。公園から美術館へと続く川沿いの道では、美しい水の風景や野鳥が飛び交う運河の景色を楽しめ、美術館までの道のりでもさまざまな発見がある。

 

そして、たどり着いた先に姿を現すのは、木材やアルミを使用して作られたガラス張りが特徴の富山県美術館の外観だ。建築を手がけたのは、安曇野ちひろ美術館や島根県芸術文化センターなどを手掛けた東京大学名誉教授の内藤廣氏。土地の持つ特徴を取り込んだ建築物に定評があり、この富山県美術館もそのひとつである。

 

美術館がある環水公園全体を「座敷」として見立て、美術館の位置を「床の間」としてイメージして設計された。美術館から見える富山の景観を楽しめるよう、東側の壁は全面ガラス張りになっている。晴れた日には立山連峰が借景となり、まるで屏風絵のように表具される。

 

建物には富山の素材も使われており、2階の中央廊下には県産材の「ひみ里山杉」を、外装や壁、天井には県の主要生産品である「アルミ」がふんだんに使用されている。外観や内装も見どころのひとつとなっている。

■〝触れて〟〝座って〟心躍る

20世紀美術の巨匠であるピカソやロートレックなどの作品、シュルレアリズムや抽象美術など多彩な世界の近代・現代アートに加え、もちろん富山を代表する作家の作品も数多く展示されている。

 

また、世界ポスターはトリエンナーレが開催されるなど県内でも鑑賞機会が増える「ポスター」作品約1万4000点が収蔵されているのは特徴のひとつだ。


 

一風変わっているのは、このうち約3500点はデジタルアート制作で有名な「チームラボ」と凸版印刷と共同開発した大型タッチパネルでデジタル展示されている点だ。タッチパネルに次々と浮かぶポスター画像の中から気になる作品をタッチすると、そのポスターの作家などの詳細や関連するポスターが表示される仕掛け。自分の好きなデザインの傾向を直観的に確認できる。

 

もうひとつ面白いのは、約240脚の椅子の展示である。国内外の名作椅子が並ぶ展示室にはサグラダファミリアを手掛けたガウディがデザインした貴重な椅子も。中には実際に座れるものも用意されており、その〝座り心地〟の体験を通して、「お気に入りの一脚」を見つけるのも楽しい。

※コロナウイルス感染症拡大防止のため、現在椅子にはお座りいただけません。

■全身で〝触れて〟〝聴いて〟童心に帰るのもあり!?

この美術館で大人から子どもまで幅広い年齢層が楽しめる大人気スポット言えば、屋上庭園「オノマトペの屋上」である。デザインしたのは、ロッテのガムなど数多くの商品ロゴを作成してきたグラフィックデザイナーの佐藤卓氏。「アート・あそび・学び、全てが混ざっている場所」をコンセプトに仕上げられた。

 

オノマトペとは、フランス語で「うとうと」「ふわふわ」「ぐるぐる」といった擬音語や擬態語を意味しており、そうした擬音を感じ取りながら遊べる8つの遊具が庭園に並べられている。

 

例えば、庭園の中心にあるバルーンドームは、裸足でその上に飛び乗るとトランポリンのように跳ね、「ふわふわ」を体験できるというものだ。飛び跳ねるのもよし、転げまわるのもよし。その人、その人の「ふわふわ」を感じ取れる。

 

パイプを通して離れた人と会話ができる「ひそひそ」は、様々な方向に出た管はどこかにつながり、ひそひそ話ができる遊具。


可愛らしいキノコの間に吊られたハンモックでは「うとうと」と寝転がることができる。中には「ぷりぷり」という子どもが大好きな「うんち」の形をした遊具も。大人も童心に帰って、少し変わったアート体験をしてみたくなる遊び心満載の空間である。

 

庭園を彩るカラフルな遊具は写真映えも抜群だが、晴れた日に屋上から眺められる雄大な立山連峰や環水公園の全貌は壮観だ。

 

無料開放されていることでも人気の屋上庭園だが、オープン期間は3月16日~11月30日までの期間限定なので、訪れる際は注意してほしい。

■〝鼻腔〟をくすぐり、〝舌鼓〟を打つ

そして、新たに館内で注目を集めているのが、2021年春にオープンしたレストラン「BiBiBi&JURULi(ビビビとジュルリ)」だ。ユニークな店名はアートで感性を〝ビビビ〟と刺激し、イートで食欲を〝ジュルリ〟と刺激するという「アートとイート」のコンセプトに由来。オノマトペの庭園から得た擬音のインスピレーションも受けたようだ。

 

富山を前面に打ち出した店づくりにこだわっており、提供するメニューの食材は県内の15市町村全てから旬を調達している。富山市のエゴマや滑川市のホタルイカ、砺波市の雪タマネギなど地元特有の食材を中心に集め、富山の農産物生産者の応援する意図があるという。さらに盛り付ける器にも富山の職人の技術が生かされており、陶器に見える器はアルミを加工して作り上げられている。

 

イチ推しのメニューは「富山の彩り〝コンポジション〟プレート」。富山の旬の食材をふんだんに使った一品で、春は豚肩ロースの香草パン粉焼きをメインに、ホタルイカのペペロンチーノ風や昆布を使ったサーモンマリネなどが彩りよく並べられ、まさに〝富山尽くし〟を味わえる。

 

アートで心を潤した後は、食事でおなかを満たして、五感の満足を得て美術館を締めくくる―。なんと乙なことであろうか。

 

■行き方

●所在地:富山県富山市木場町3-20

●富山駅から北口から徒歩で約15分、タクシー・車で約3分。車で富山ICから国道41号経由し、約15分。