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「入居者の満足、質の高いサービス、雰囲気の良い職場作り」 この3つを理念とし、入居者、利用者の方が安心して過ごせる介護施設を目指す。

株式会社ナカヤ / 介護職(夜勤専従)

インタビュー記事

更新日 : 2024年07月31日

島根県出雲市にて2017(平成29)年に設立された介護施設。在籍する職員約20名は、若い職員からベテラン職員まで、互いに尊重し合い、協力しながら業務に取り組んでいる。それぞれの持ち場を活かし、意見交換を積極的に行うことで、より良いサービスの提供を実現しており、明るく前向きな雰囲気に満ちている。職員同士の信頼関係や毎日の笑顔は、入居者や利用者にも安心感と信頼感を与えており、入居者の満足や質の高さに繋がっている。

株式会社ナカヤ 事業概要

【事業内容】

《通所介護》

対象者:要支援1、2の方/要介護1~5の方

利用定員:25名

《住宅型有料老人ホーム》

対象者:60歳以上で自立又は要介護度が、要支援1、要支援2、要介護1~5の 介護認定を受けた方

利用定員:24名(1人部屋)

《訪問介護》

介護予防訪問介護サービスの提供

《訪問看護》

自宅療養の病気や障害のある方への支援・医療機器の管理・医療処置 服薬管理・ターミナルケア

 

2017(平成29)年4月、島根県出雲市にて不動産業を営む株式会社ナカヤ代表取締役 中島浩司社長の祖父である初代社長が、介護施設「ナカヤ寿楽」を設立。家族の負担を軽減し、介護を社会全体で支えることを目的とした介護保険制度の導入が2000(平成12)年。そこから20年近くが経過していた当時、高齢化社会の進展に伴い介護施設の需要が高まっていたが、市内には介護施設は少なく、多くの高齢者が自宅で介護を受ける状況だった。そのような状況の中、先代の中島社長は高齢者の生活を支えたいという強い意志と地域貢献への熱い想いから、地域における介護サービスを充実させるため介護施設を立ち上げることを決断した。

介護施設の立ち上げは単に施設を建設するということだけでなく、様々な課題をクリアする必要があった。介護業界の深刻な課題である人材確保、経営管理など多くの課題を乗り越え、現在のナカヤ寿楽がある。現在も引き続き、理想とする入居者ファーストの充実したサービスの提供にとどまらず、地域との連携を強化し、高齢者が安心して暮らせる地域社会づくりへの貢献を重要な課題として捉えている。

株式会社ナカヤ 代表取締役 中島 浩司

 

「三方よし」の精神を先代社長の祖父から受け継ぐ

 

「ナカヤ寿楽」を運営する株式会社ナカヤの代表取締役 中島 浩司社長は、自身も福祉を学び、20歳でナカヤに入社。先代社長の経営手腕や地域貢献への姿勢を実際の仕事を通じて指導を受け、知識、技術などを身に付けながら、5年間祖父である先代社長と二人三脚で働いてきた。

「先代社長から受け継いだ精神は、【三方よし】。これは、『商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる』という経営哲学のひとつとして広く知られている近江商人の考え方です。私たちも単に利益を追求するだけでなく、事業を通して地域社会の発展に貢献し、持続可能な経営を目指すことを目標にしています。」

株式会社ナカヤの社訓は「豊かな心で社会に奉仕」であり、この【三方よし】の理念が基になっている。27歳で社長を受け継いだ中島社長は、2024(令和6)年現在31歳。先代社長から大きな影響を受けた。

「先代社長は、誠実で責任感があり、地元で事業を営んできたことから、多くの人々から信頼されていました。一方、厳格で怖いという印象を持つ人も中にはいたようです。仕事に対する真摯な姿勢がそのような印象に繋がったのかもしれません。基本的に争いごとを好まず、いつも私に話してくれていたのは『怒ったら負け』の精神でした。」怒りは冷静な判断を曇らせると考えており、感情に流されることなく、常に冷静に行動することを心がけていたという。

「仕事をしていく中で騙されたり嘘をつかれたりした苦い経験が少なからずあり、先代社長は様々な苦労を経験したようです。だからこそ私には同じ苦労を背負わないようにと熱心に仕事を教えてくれた、とても優しい祖父でした。私が社長を受け継ぐ4年前くらいから、先代社長の心身の衰えが目に止まるようになってきました。1935(昭和10)年生まれで当時85歳でしたから仕方のないことかもしれませんが、その頃は私にとってもつらい時期でした。」

中島社長は、先代社長と一緒に過ごした時間の中で学んだ多くのことが、今の自分を形成する大切な要素となったと考えている。特に、「お年寄りが好き」になったという気持ちは、単なる感情ではなく、先代社長との深い絆に基づいたもの。それが、中島社長が介護の仕事に携わる原動力の一つとなっている。

 

 

介護事業と不動産事業の両立という二刀流に挑戦

 

ナカヤ寿楽が開設された当時、日本が急速な高齢化社会を迎えようとしていた頃と重なる。しかし、出雲には介護施設がまだ少なく、介護が必要になった高齢者は、自宅で家族が介護するケースがほとんどだった。折しも核家族化や共働き世帯の増加により、家族だけで介護を続けることが難しくなっていた。そうした社会的なニーズに応えるために先代社長は必要な介護サービスを提供し、地域の高齢者の生活を支える重要な役割を担うことを目的として、介護施設を立ち上げることを決意したのだった。

ナカヤ寿楽は、介護施設が少なかった時代に設立されたというだけでなく、「三方よし」の精神をもとに地域貢献を理念とした経営、利用者一人ひとりに寄り添った介護、地域との連携など、様々な点において先駆的な役割を果たしていくことになる。

株式会社ナカヤは、不動産事業から介護事業への参入という新たな可能性に挑戦する。介護事業への参入は不動産事業との両立という難しい課題も伴ったが、不動産事業の知識や経験は介護施設の立地選定や建設など様々な場面で活かされた。

介護施設の立ち上げは、専門知識と経験が必要とされる大変な作業だ。特に、利用者の安全と快適な生活環境を確保するためには、適切な介護サービスを提供できる人材を確保することが不可欠であり、質の高いサービスを提供できる経験と知識を持つ人材の確保が、事業の成功を左右すると言っても過言ではない。先代社長が銀行からの紹介で採用した2人の人財は、その介護の経験と知識を活かして、事業立ち上げに大きく貢献することになる。

その時の採用者が、後ほど登場する佐藤施設長だ。

「私は福祉の学校を卒業後、他の介護施設への就職を予定していたのですが、祖父の誘いで自社に入社することを決めました。」と中島社長は振り返る。「当時は、会社を継ぐ考えは全くありませんでしたが、祖父である先代社長の熱意に押されて入社を決意しました。」 介護事業と不動産事業の両立を図るために、合格率は約15~18%と言われる宅地建物取引士(宅建士)の資格も取得した。

 

 

ナカヤ寿楽で、心身ともにリラックスできる充実した生活を

 

ナカヤ寿楽は、2017(平成29)年に開設されてから2024(令和6)年現在で7年を迎える。住宅型有料老人ホーム、訪問介護、デイサービス、訪問看護ステーションを併設しており、施設理念を「入居者の満足・質の高いサービス・雰囲気の良い職場作り」を施設理念に掲げ、入居者、利用者が安心して過ごせる施設を目指している。

訪問看護ステーションの増設は、昨年2023(令和5)年10月。自宅で療養する病気や障害のある方に看護師等が医療ケアや身体ケアを提供するサービスだ。看護師3名を雇用し、今軌道に乗りつつある。

「利用者の皆さんに落ち着いた雰囲気で安心してご利用いただける環境を第一に考えています。

当施設には4種類のお風呂があり、人工ラジウム鉱石効能のある中浴場、ユニットバス、車いすの方でも入れる浴槽、特浴と一人ひとりの状態に合わせて入浴することができます。居心地の良い空間と充実した設備で、心身ともにリラックスできる毎日を過ごしていただきたい。」

食事や排泄、入浴などの日常生活動作の介助はもちろん、心身のケアにも力を入れており、様々なレクリエーションイベントも開催している。

「レクリエーションを通して、利用者同士の交流を深め、心身の活性化を図る目的があります。体操やカラオケ、季節のイベントなどデイサービスを利用している方、有料老人ホーム利用の方、職員も併せて施設全体を巻き込んで楽しんでいます。特にうちの職員たちは、イベント好きが集まっていますので、コロナ前などは近所の皆さんやご家族の皆さんにも声がけをして季節ごとに祭を開催したり、とてもにぎやかです。」と中島社長はにこやかだ。

 

 

理想的な介護施設運営を支えるチームワークと相互尊重

 

ナカヤ寿楽の魅力は何かと問いかけた。すると即座に中島社長は「うちは、とにかく明るい職場です」と答えが返ってきた。介護施設は、高齢者が安心して暮らせる生活を支える重要な役割を担っているにも関わらず、現状では人材不足などをはじめ、さまざまな課題が山積しており、運営が厳しい状況にある施設も少なくないというのは周知のとおりかと思う。

「少子高齢化の影響で人口が減少していることもあり、近年、福祉系学校の学生数は減少傾向にあると言われています。この学生数の減少は新卒採用にも大きく影響しており、中途採用は、福祉業界にとって貴重な人材確保源となっています。福祉業界は、未経験者でも活躍できるチャンスがたくさんあります。日々の業務を通して必要な知識や技術を学ぶことができますし、資格を取得することもできます。何より人と接することが好きな方であれば、なおさらやりがいを感じられる仕事になると思います。」

中島社長は、不動産事業と掛け持ちのため、介護施設には毎日勤務しているわけではないが、全権を委任している佐藤施設長を中心としたチームワークには強い信頼を寄せている。「会議を含め、週に何度か施設を訪れますが、その度に彼らのチームワークの良さを実感するからこそ、安心して任せることができます。」

佐藤施設長のリーダーシップと職員同士の相互尊重によるチームワークの良さは、利用者への質の高いサービス提供にもつながっている。職員同士が協力し合い、利用者一人ひとりのニーズに合わせたケアを提供している。

 

ナカヤ寿楽 施設長 佐藤 純

 

元上司のはなむけの言葉「おまえは一生介護の道を貫け」

 

ナカヤ寿楽の立ち上げから現在までその中心人物のひとりとして走り続けているのが、施設長の佐藤純さんだ。32歳の時に入社して7年。施設の経理、人事、利用者の送迎などの裏方担当を含め運営全般に関わっており、人手不足の時には現場のサポートにも入る。佐藤施設長の経歴は、よくある介護職のキャリアパスとは少し異なっている。かつて刑務官として働いていた経験を持つ佐藤施設長だが、「自分が思い描いていた仕事内容と大きく異なり、やりがいを見出せなかった」ことが原因で退職を決意したのだという。その後、介護の仕事に就いている友人の姿に感銘を受け、佐藤施設長は自身の生きがいを見出すべく、福祉の道へと歩みを進めることになる。介護福祉士の資格は、働きながら取得。全く異なる職種から介護福祉士へというキャリアチェンジに向けて、彼の背中を押してくれたのは刑務官時代の元上司だった。

「刑務官を辞め、介護の道に進もうと決めた時、直属の上司に『ならば、おまえは一生介護の道を貫け』と言われました。」と佐藤施設長は当時を懐古する。しかし、その元上司は残念ながら、すでにこの世を去ってしまったという。「だから、この道を貫くしかないんです。」と佐藤施設長は言う。そのはなむけの言葉は、彼にとって今でも重責であり、励みであり、そして決してぶれることはない。持ち前の情熱と行動力で、困難を乗り越え、介護の道を歩み続けている。

「いつか自分たちがやりたい施設を作って介護事業をやりたいね」そう仲の良い後輩と介護への夢をよく語り合っていたという佐藤施設長。ふたりにはやりたいと思う介護施設の計画があり、強い思いがあった。そして、ついにその夢を実行に移す時がきたと決意し、行動を開始していた矢先に、新しい介護施設の立ち上げの話を紹介されるのだ。それが、ナカヤ寿楽だった。

「面接の時に、自分たちがやりたいと思う介護施設の夢への想いがとても強く、先代社長に『自分たちのやりたいようにやらせてほしい』と直談判しました。」偶然、先代社長と後輩の父とが旧知の仲であったこともあり、その熱意が先代社長の心を動かした。「『そこまで言うなら、やりたいようにやってみろ』とOKをもらいました。」と佐藤施設長。ふたりは施設の立ち上げや運営に大きな裁量を与えられることになった。「偶然ではなく必然」とはまさにこういうことなのだろう。

「施設の運営が軌道に乗る中で、ともに切磋琢磨してきたその後輩は、家業を継ぐため退社することになりました。後ろ髪を引かれる思いでしたがそれぞれの道を歩んでいくことになりました。想いはとても複雑で当時はとても寂しかったですが、今でも相談しあえる仲です。」

 

ナカヤ寿楽 大谷 紗紀

 

自分にいちばん向いていない仕事だと思っていたのが実は福祉だった

 

大谷紗紀さんの第一印象。とにかく明るい。えくぼが魅力的なよく笑い、よく話す、愛嬌たっぷりで、まさにムードメーカー。大谷さんは4年前、26歳で初めて接客業から介護の世界に飛び込んだ。「私の友人が佐藤施設長との共通の友人だったことが入社のきっかけになりました。それまで自分にいちばん向いていないのが福祉の仕事だと思っていたのに、今では最も自分にとって魅力的な仕事が福祉の仕事だと胸を張って言えます。」と大きな声で笑う。

「介護の魅力ですか?いっぱいあり過ぎて絞りきれません。この世界に入ってみて、自分にとても向いていると思います。こういうふうにやってあげたい、あんなこともしてあげたい、私たちのパフォーマンスも見てもらいたい、自分たちも楽しむし利用者さんにも楽しんでもらいたい、毎日そんな気持ちで接しています。利用者の皆さんが喜んでいる笑顔を見るのがとても嬉しくやりがいになっています。それがいちばんの魅力かな」

認知症の方の中には、突然怒ったり、不安そうにしていたりと、感情的に不安定になる方が少なくないという。「そんな時は、臨機応変に気持ちに寄り添い、ゆっくりと話を聞いてあげるとだんだん落ち着いて来られます。介護の現場で、コミュニケーション力は大切だなと実感しています。利用者さんの立場に立って考えたり、共感を示したり、気持ちに寄り添って信頼関係を築いていくことが大切なことですが、接客業とたくさんの共通点があります。」

現在、ナカヤ寿楽の職員は、男性3名、女性15名、計18名だ。年齢層は20代から60代と幅広く、とにかく明るく活気あふれている。職員同士の仲が良く、チームワークを重視した運営が行われている。立ち上げの時から勤務している職員も多い。

職員の声を積極的に吸い上げ、働きやすい職場環境づくりを積極的に推進することが、職員のモチベーション向上と離職率の低下につながっている。「時間単位の有給制度についての要望があった時には、施設長が会社に掛け合った結果、実現しました。この制度により、私たち職員は自分の都合に合わせて休みを取りやすくなり、とても助かっています。」と大谷さんは仕事と家庭の両立がやりやすくなったと話す。

施設は、訪問介護と訪問看護以外で、デイサービスと有料老人ホームの2つの部門に分かれており、アットホームな雰囲気の中で密度の濃いサービスを提供している。

有料老人ホームでは、利用者さんが家にいる時のように安心して過ごせるように、穏やかな雰囲気作りを心掛けており、職員は、利用者さん一人ひとりに寄り添い、生活のサポートを行っている。

「デイサービスでは、利用者さんが楽しく過ごせるようレクリエーションやイベント企画にも力を入れています。イベントは通いのデイサービスの利用者さんだけでなく、泊まりの利用者さんも参加されます。ここはイベント好きで、盛り上げ上手な職員が多いです。」ととにかく元気。大谷さんはデイサービス担当だ。「家に帰りたくないという利用者さんもおられます。それだけ楽しんでもらえているんだなと思うと、その気持ちがとても嬉しく、励みになっています。」

 

 

利用者も職員もみんなが楽しむ。それが「三方よし」につながる。

 

「そもそも佐藤施設長が、お祭り男なんです。」と大谷さんは笑う。「お祭りが好き過ぎていつも祭りに行っていたら嫁さんに叱られました。」と佐藤施設長。施設長自身がイベント大好きなこともあり、基本的に季節ごとにさまざまなイベントを開催している。お茶とお菓子を持参してのお花見、体格がいい鬼だねと褒められた豆まき、クリスマスはいうまでもなく、蕎麦打ち体験、握り寿司を食べてもらえる機会が少ないのでマグロの解体ショーからの握り寿司やマグロのあら汁を楽しむイベント。数えきれないほどのイベントを企画してきた。地域の業者さんとコラボして他にないイベントを開催することも楽しいという。もちろん職員も一緒になってお腹いっぱい、にぎやかに楽しむ。聞いているだけでこちらもワクワクしてくるようだ。

「散歩がてらカフェに出かけて、それぞれ好きなメニューを注文するカフェレクは、外に出かけて散歩するので、みんなが笑顔になるんです。」と大谷さん。「散歩に出かけて、みんなでお茶休憩をしている時に、『見とってよー!』といきなり職員たちがかけっこを始めたりします。利用者さんたちも笑って応援してくれていますし、私たち職員たちが誰よりも楽しんでいます。」なるほど、帰りたくないという利用者さんの気持ちは十分理解できる。

コロナ以前は、周年祭を開催していた。「ステージを外に組み、出雲神楽、商業高校ダンスチーム、職員でよさこいを踊ったりしました。折り込みチラシやポスティングで大々的に宣伝したり、利用者さんのご家族やご近所さん、子供たちも招待して盛大に祭りを盛り上げました。1等しまね和牛、シャインマスカットやビールなど豪華景品が当たるくじびきも大好評でした。流しそうめんやアクセサリーのお店、木次乳業さん、手相占いなど出店も豪華でした。」そのにぎやかさが目に浮かぶようだ。「コロナが落ち着けば、また周年祭をやりたいです。施設全体で一緒に楽しむこと、それがうちのいちばん大きな魅力です」とふたりとも口を揃えて話していた。利用者も職員も施設全体で楽しむ。それが社会貢献につながる、まさに「三方よし」の精神を実践している。

 

レクリエーション。佐藤施設長の描いたイラストは何かを当てるクイズ。

 

 

 

『「なんで?」人間』はきっと介護に向いている

 

ナカヤ寿楽の利用者は、ほぼ全員が認知症を抱えているが、職員たちは笑顔とユーモアを忘れることなく、一人ひとりの利用者と真摯に向き合い、コミュニケーションを大切にすることで、温かい関係を築く努力を怠らない。

佐藤施設長は「介護の現場において、単に表面的な症状だけをピックアップしてみているだけでは、真の理解や適切な対応は難しい。例えば昼夜逆転という症状の裏には、ホルモンバランスや日中に十分な日光を浴びていないための体内時計の乱れなど様々な原因があるのかもしれないと掘り下げて考えてみます。単に「夜中に起きているから困る」と捉えるのではなく、その背景にある原因を探求し、寄り添ったケアを提供したいと思っています。試行錯誤の末に、利用者さんの状態が改善されたり、笑顔が増えたりした時には、大きな達成感があります。」と話す。この達成感は、介護の仕事に対するモチベーションを維持し、より良い介護を提供しようとする原動力となっている。

「自分は『「なんで?」人間』なんです。いつも『なんで?』って訊いているんです。いつも『なんで?』と追求したくなる」と佐藤施設長は笑う。「介護の仕事において、「なんで?」を追求する姿勢と人間観察力は、利用者さん一人ひとりを深く理解し、共感するための重要な要素だと思います。これらの能力を活かすことで、より質の高い介護を提供することができる。きっとそういう人は介護に向いていると思います。」

 

 

パワーをもらえる「元気の無限製造機」

 

利用者の皆さんと共に働く日々は、笑いあり、涙ありの経験に満ち溢れている。多くの利用者さんは認知症の影響もあり記憶をはじめさまざまな課題を抱えている場合が多い。けれど、日常生活の様々な場面でいつも感謝の心を伝えてくれるのだという。

出雲弁で『めんたし』という感謝の言葉がある。「ほんとにごめんね。」「申し訳ないね。」という気持ちの溢れた「ありがとう」の意味だ。相手に迷惑をかけてしまった時や、謝罪の気持ちを伝えたい時に使われる。『めんたし』は、単に謝罪するだけでなく、相手への思いやりやいたわりの気持ちを伝える言葉なのだ。

「利用者さんは、食事介助や入浴介助など、日常生活の様々な場面で『めんたし、めんたし』と心からの感謝の言葉を伝えてくれます。それは、些細なことでも感謝の気持ちを忘れずにいる、利用者さんの優しさの表れだと思います。その気持ちは、私たち介護職員にとってかけがえのない心の栄養であり、明日への活力となります。どんな時でも、利用者さんからかけてもらう『めんたし』という感謝の心は、まるで【元気の無限製造機】みたいです。どんなに疲れていても、利用者さんの笑顔と感謝の言葉を見聞きすると、不思議と力が湧いてきます。」