有限会社玉木製麺 代表取締役社長 玉木 暢
父と二人三脚で試行錯誤を重ね、三世代に愛される美味しさの追求に奮闘
「とにかく幼い頃から、親父に連れられてさまざまに食べ歩きをしてきました。」有限会社玉木製麺 代表取締役社長の玉木暢さんは笑顔で思い出を語った。「中学生になると、車の助手席に乗って配送も手伝いました。高校生になると、レストランたまきでアルバイトです。もちろんバイト料はいただきましたよ」と笑う。大学時代は栄養学を学び、バイト先といえばラーメン屋、ステーキハウスなど飲食に特化して勉強させてもらったという。卒業後は、将来を見据えて東京の蕎麦屋で修行を重ねた。「敷かれたレールの上を歩く」とはよく聞く言葉ではあるが、玉木社長の場合はただ歩いているのではない。目的を持って自ら新しいレールを敷いてきた。彼の意識の中には常に家業の繁栄と存続があった。目的を達成するために必要なことを学び、目的を達成するための計画を立て、試行錯誤を重ねながら成果を上げてきた。
玉木社長の父、2代目社長(現会長) 玉木顕は75歳を超える今でも現役でレシピやメニューアレンジ、開発に取り組んでいる、いわゆる「うどん、そばの研究者」だ。レストランたまきに訪れるお客様の年代は幅広く、親、子、孫の三世代にわたり支持されている。「ご年配の方から幼いお子様までたまきの味を味わいたくてご来店いただくのですから、皆さんに満足していただくためにメニュー開発の場では幅広い年代の担当者全員が納得するまでとことん話し合います。」と玉木社長。「父は、祖父(初代社長)の製麺事業を手伝いながら外食レストランオープンを計画。夢の実現に向かって、自ら岡山のうどん店で修行を重ね、開業にこぎつけました。」
玉木製麺の地元、出雲のご当地グルメと言えば、言わずと知れた日本三大そばに称される出雲そばだが、その出雲の地にあって、【そば】でなく、なぜ【うどん】レストランを開業したかという由縁がそこにあった。今では、出雲地方で【うどん】といえば【たまき】、というイメージが定着するほど愛されるレストランに成長している。「昔から常に親父と二人三脚で歩いてきました。だから私には親父の気持ちが痛いほどわかる。長年にわたって幅広い年代のお客様に愛される美味しさを追求するために奮闘してきた。親子でその自負はあります。」
「家業から企業へ。」
玉木製麺は家族での経営のため、経営が属人的になりやすく、成長や発展が難しいのではないかという懸念を玉木社長は抱えていた。「父は店が繁盛し業績が右肩上りになった時でも、慎ましい生活を営んできました。次世代を受け継ぐ私は父を見習い、後継者であるという立場に甘えることなく、さらに襟を正していかねばならないと感じています。」と経営上において、自分や家族が優遇されてはならないのだと断言する。 「家業から企業」への転換。経営の安定化や成長と発展の可能性を高めるためには、必要不可欠な取り組みだと玉木社長は断言する。
まずは経営理念を明確化することに取り組んだ。玉木製麺の存在意義や目指すべき方向性を示したものであり、経営方針や行動指針の基盤となる。そして、次のステップとして取り組んでいるのが、経営理念を社員に浸透させるための社員理念教育だ。
「『いつまでも美味しいが響きあう「たまき」を目指します』を経営理念に掲げ、社員教育を実施するだけでなく、会社全体で共通の価値観に基づいて責任を持って取り組み、顧客満足を実現していきたい。今は下地を整える時期。自分がいなくても大丈夫な会社にしなければならないと思っています。社長だからといってその立場に甘んじることは決してありません。」
社員のワークライフバランスや働きがいの向上を目指して
玉木社長は、今でも繁忙期には現場に立つ。「ホールで接客する時は、1日で20kmは歩きますよ」と笑う。「コロナ禍を乗り越え、今でこそ業績はV字回復となり安定してきましたが、新型コロナウイルス感染症の影響は大きく、業績は大打撃を受けました。最初の半年間、スムーズに店をたたむにはどうすればよいのかなど最悪な事態を考えない日はありませんでした。」しばらくするうちにテイクアウトが軌道に乗り始めたこと、また不採算部門を見直すことで一人の解雇者も出すことなく、乗り切ることができた。
「特に不採算部門の見直しについては、社員一人ひとりと話し合い、協力を得ることができたことは大きい。会社全体でコミュニケーションを活発にすることで、お互いの理解を深め、同じ方向性で取り組むことができました。」
「今でもそば打ちは誰にも負けない」と言う玉木社長は、自らも現場で修業を積んできたからこそ、現場ならではの視点や意見、考え方を尊重している。子どもの頃から現場で仕事を肌で感じてきた根っからの現場人間だ。現場に立つことで社員と直接接する機会を持ち、その中で、現場の声を共有し経営に反映すること、顧客ニーズなどさまざまな課題を把握することで広く視野を持つことができるという。
「以前は人手不足ゆえの残業も多く、働き方における観点での意識が甘かった。法令遵守・コンプライアンスの責務を果たし、業務の適正を確保する体制を構築することが急務と感じていました。働き方改革にとりくみ、現在、残業時間はゼロ、産休・育休の取得率も高くなりました。社員のワークライフバランスの向上や新しいことにチャレンジできる機会が増えることで、働きがいの向上につながればこんなにうれしいことはありません。」
10年ビジョンを掲げ、持続的な成長と発展を目指していく。
顧客のライフスタイルや価値観の多様化により、飲食サービスに対するニーズも多様化しているという。健康志向の高まりからヘルシーなメニューの開発、テクノロジーの進化によりAIなどを活用した配膳ロボットや、スマートフォンアプリによる決済など、新たな価値やサービスの提供も検討段階に入っている。「配膳ロボットは試しに導入してみたところ、お客様に大変好評でした。スタッフも調理や席のセットアップに集中することができるだけでなく、 接客の際に理不尽なクレームなどからスタッフを守ることができます。心の負担をスタッフからとってあげたい。お客様の反応をみながら、タブレット対応にもしていきたい。」
長期の展望としては10年ビジョンを策定する。玉木製麺が10年後にどのような姿になりたいか、どのような事業を展開していきたいかを定めた目標を掲げ、持続的な成長と発展を目指す。
「たまきブランドを定着させ、親日国が多いアジア、義理の母の故郷ドイツ、またはアメリカなども検討に含めた海外展開も視野に入れFC事業部を立ち上げました。」飲食サービス業は、めまぐるしく変化している。今後もさらに変化していくことが予想され、変化に対応するための柔軟な対応力と、新たな価値やサービスを創造する力が求められている。
玉木社長は常に勉強を怠らない。会社の課題解決や新たな価値の創造に貢献する即戦力の手段として副業人材を活用している。「学んだことは、地域の繁栄のためにも飲食業の仲間にフィードバックします。後継者育成の問題は特に重要です。跡継ぎがいないので店をやめるという選択をする人も少なくない。後継者の育成は会社の存続に影響を及ぼすため、同族経営の会社においても、同族以外の後継者育成の取組みについて検討が必要になるかもしれません。社員を守り、お客様によりよいサービスを提供し続けるためにも。危機意識は常に抱いています。積極的に変化に対応するための対策を講じていきたい。」
万が一、再びコロナ禍が始まったとしても回避策は万全だと玉木社長は微笑んだ。
外食部部長 竹田 敏美さん
スタッフに働くよろこび、働きがいを見つけてやりたいという想い。
勤続33年。外食部全体の管轄を担うのが、外食部部長 竹田敏美さんだ。鳥取県米子市から島根県浜田市までのレストランたまき8店舗を定期的に訪れ、現場スタッフと会社との橋渡しをする重要な役割を担っている。現場スタッフのスキルや知識を向上させ、業務の効率化や品質向上に貢献するスーパーバイザーの役目と、繁盛店たまき出雲店の店長を兼務する多忙な毎日を送っている。
大阪から親の面倒を見るために出雲にIターンし、たまき本店の隣の喫茶店で働いていたところ、現会長から誘われたのが入社のきっかけだ。入社当初は大手外食チェーン店もない、回転寿司もない、家族で食事に行くといえば「レストランたまき」しかなかった。飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのことか、年間200万人を超える来店客で、土日祝日は1,000人を超えていたと回顧する。コロナ禍の大変な時期を乗り越えた今現在は競合店が多様化したこともあり100万人程度だという。しかし昼食時は相変わらずの盛況っぷりで、駐車場はいっぱいだ。
「71歳までこうして健康で働かせてもらえることは嬉しいことです」と感謝する。「私たちの仕事は、厨房も接客もお客様に喜んでいただけることに自分の喜びを感じることができないと決してできない仕事です。土日祝日はもちろん、盆正月も仕事です。厨房での仕事は、うどんの打ち方などだんだん腕が上がっていくと嬉しく、モチベーションの向上につながりますが、特にホールでの接客は心無いクレームを受ける時もあります。謝って1日が終わることもある。働くよろこび、働きがいを見つけることは厨房よりも難しいかもしれない。ただ、そんな中ででも働きがいを見つけてやりたいと思っています。」そんな想いで竹田部長は各店を巡回している。「ある時、ひとりのスタッフが積極的にお客様とコミュニケーションをとっている様子がとても嬉しかった。次へ続いていく子が少しずつでも増えて欲しい。転職して別の業種で転職するのをみるのはとても残念です。同じ飲食の世界で、レベルアップのために転職したい、というなら大歓迎なんですが。」
たまきを卒業して、次は自分で独立するような人材が出てきて欲しいと竹田部長は願っている。
10年先のたまきを見据えて。
「10年後のたまきがどのようになりたいのかビジョンを共有することで、よりよい未来が見えてきます。」と竹田部長。レストランたまきでは、『赤ちゃんうどん』を無料でサービスしている。「子どものときに食べた味は、大人になっても忘れないものです。単なる味覚の記憶だけでなく、温かな心の記憶として残っている。子どもの頃に食べた味は、大人になっても私たちを幸せな気持ちにしてくれる、大切な味。だからレストランたまきにまた食べにいきたいなと思ってもらえる。」と竹田部長は笑顔で話を続ける。 「同じように、14、5年前から地元の小中学校に秋のバザーで納めている『しょけめし(炊き込みご飯)』があります。」 このしょけめし(炊き込みご飯)はレストランでも大人気で、売り切れてしまうとお客様が本当に残念がるメニューだ。「コロナ禍以前は、朝2時から準備を初めて、合計1,500食納めていました。子どもたちがこの時の味を思い出して、将来、家族でたまきを訪れてくれたら最高に嬉しいですね」
たまき不動の人気メニュー うどんとしょけめし
たまき本店 店長 松林 美紀さん
後輩の育成をすることで共に成長できる。
勤続20年。ホールでの接客から厨房までオールマイティーにこなす女性、その彼女がたまき 直江本店店長1年目の松林美紀さん。笑顔が印象的で、明朗活発な人柄だ。就活で高校の先生にたまきを勧められたのが入社のきっかけだという。
浜田店店長3年を経験し、店長業務4年目だが、入社してから今までたまき全店で働いてきた経験豊かな女性店長だ。浜田から直江に戻ってきたとき、『やっと戻ってきたね』とお客様からお声がけいただいたことがとても嬉しかったという。「もう、毎日が早すぎて!」と快活に笑う。
「店長という立場で、自分が一番気配りをしていることは、働きやすい職場環境を整えることです。コミュニケーションを大切にすることで、お互いの考えや思いを理解し、信頼関係を築くことですね。」
飲食サービス業では、接客や調理などのスキルを身につけるためには、実務を通じて行う社内教育であるOJTは欠かせない。「『叱られた』とスタッフから思われないように、スタッフの気持ちに寄り添ったり、一緒に食事に行って話をよく聞くことで、スタッフの考えや気持ちを理解するように努めています。」
スタッフが失敗しても、その失敗を糧にして成長できるように、励ましやアドバイスを行うこと、後輩の育成をすることで共に自分の成長もあると語る、持ち前の明るさで多忙な日々を乗り切っている松林店長だ。
人材育成も仕事も日々の積み重ね
松林店長は、メニュー開発にも携わっているメンバーのひとりだ。ターゲット顧客のニーズをしっかりと把握し、独自性のあるメニューを開発することで、売上や顧客満足度を向上させることができるのだという。「季節限定のメニューやデザートを開発するのは、原価を合わせなければならないなどの難しさもありますが、とても楽しいです。アルバイト学生のアイデアを元にメニュー企画したこともあります。地産地消の食材や健康志向についてのアイデアなど新たな顧客層の開拓も視野に入れて、新しいメニューを開発したり、既存のメニューを改良することは、常に新しいアイデアや工夫が必要ですし、とてもやりがいがある仕事で勉強になります。」
お客様が多い時間帯になると、どうすれば回転率をあげることができるか、それも大切な店長の仕事だ。「席が空けばすぐ片付ける、メニューはすぐお出しするなどどう工夫すればよいか考えています。」 そこは、人間関係が良好であればチームワークも良くなる。そうすれば、お客様のニーズをより深く理解し、お客様目線に立った店舗づくりも実現できると松林店長はいう。
「人材育成も仕事もやはり日々の積み重ねですね」
金築 まどかさん
マスクを着用していてもお客様との笑顔のキャッチボールは楽しい。
フレッシュな笑顔が印象的な金築(かねつき)まどかさんは、中途採用で5年目を迎える。「ご来店いただいたお客様とちょっとしたコミュニケーションを交わせることが楽しいです。」店舗異動になった後、「以前はたまきの別のお店におられたね」と声をかけてもらえた。「接客時間はわずかかもしれないけれど、顔を覚えてもらっていたんだと思うととても嬉しかったです。」とやりがいを感じたという。
「コロナ禍が落ち着いてきたとはいえ、飲食業でマスクはまだまだはずせません。マスクを着用していると表情がわかりづらいのですが、意識して笑顔を絶やさず、目元だけでも笑顔が伝わるように努力しています。声の大きさや抑揚を意識してハキハキと話すことで、明るい印象を与えるよう心がけること、マスクを着用していても笑顔で丁寧にお客様に接すると、お客様も笑顔で返してくださいます。笑顔のキャッチボールは楽しいです。」久しぶりにマスクをはずすと恥ずかしいですねと笑う。
忙しい時間に人手不足な日もあるが、金築さんはむしろやる気が湧いてくるんです、と頼もしい。「私自身はそんな時でもその忙しさが楽しいんです。大変は大変ですが、それよりもやりがいがあります。苦にならない。休憩も無理やり取っていますから大丈夫です!コロナ禍の時は、感染症対策など飲食店にとって大きな影響がありましたが、それこそが本当に大変でした。」
一時休業や営業時間短縮などの苦渋の決断が取られていたことも記憶に新しい。「あの頃は、感染防止のためにいたしかたないことではありましたが、飲食店での食事を楽しむことができなくなっただけでなく、人と交流する機会も失われてしまいました。でも今は活気が戻ってきたのもやりがいにつながっています。」
より深く仕事を楽しみ、スキルアップしたい。
「私も入社当時は先輩から接客の基本やマナー、顧客の対応方法などを学びました。今現在は、新人スタッフに教える側になりました。」新人スタッフのレベルや経験に合わせて、指導内容や指導方法を調整する。新人スタッフが早く業務に慣れ、営業に貢献することができるように彼女なりに考えて、効果的なOJTを行えるよう自身も勉強中だ。「同じ仕事ばかり何日も続くとモチベーションが下がるといけないと思い、意識して毎日少しずつ新しいことを覚えてもらうようにしています。できることが増えてくると、仕事も面白くなりますし、他のスタッフともコミュニケーションがとれるようになり、輪に溶け込めるとモチベーションも高めることができると思っています。」
金築さんはスタッフ育成に携わることも大切な業務だが、次へのステップとしてやりたいことがあるという。「厨房もいずれはできるようになりたい。厨房とホール接客の両方をこなすことができれば、業務の幅が広がりますし、厨房とホールは密接に連携して仕事を進めていますので、両方の業務を理解していれば、よりスムーズに仕事を進めることができると思います。全く異なるスキルや知識が必要ですが、両方の業務を経験することで、より深く仕事を楽しみ、スキルアップしたい。」