株式会社出雲国大社食品 代表取締役社長 山崎 英樹
「変えたくないもの」。でも「変わり続けなければならないもの」。
株式会社出雲国大社食品 代表取締役社長に約半年前に就任した山崎英樹さん。
「専務から社長になって半年足らず。今までと特に変わったことはありません。」と笑う。
「信頼の味を作り続けたい、旨いものを食べていただきたい、という想いは変わりませんから。」
素材のもつ本当の美味しさ、甘さ、風味、旨みなどじっくりと愉しみながら味わっていただきたいと語る。「おいしい」は「しあわせ」、元気を与えてくれるものなのだ。
株式会社出雲国大社食品は、縁結びの神を祀る出雲大社のお膝元にある。水産練り製品全般、すなわち蒲鉾、ちくわ、天ぷら、あごのやきなど、出雲でしか味わえない伝統の味、暮らしに寄り添う味を作り続けている。水揚げされた新鮮な魚の滋味は、出雲国大社食品の手で蒲鉾に生まれ変わる。魚を食べるよりもさらに魚の旨みを味わえる。
「戦後、もともとは仕出し屋が旅館の宿泊客のために蒲鉾を作っていたと聞きます。」
出雲大社の参拝客が多く訪れていた大社門前町にはたくさんの旅館とたくさんの仕出し屋があったという。日本海の幸にも恵まれ、昔から蒲鉾作りが盛んに行われていた。
その蒲鉾作りに、漁師をやめて挑戦したのが初代であった。仕出し屋でなく蒲鉾作りを始めたのは彼くらいなものだという。
0から蒲鉾作りをスタートさせて半世紀以上。
「大切にしていることは、練り製品を後世に伝える使命感、時代のニーズを敏感に取り入れ常に変わり続けること」と山崎社長は言う。
人々の食生活を健やかで豊かにするために、「変えたくない」。でも「変わり続ける」。
「夢をかたちに 私たちは 個々の感性を磨き
お客様一人一人に 感動を与えることの出来る
商品を提供いたします」
これが出雲国大社食品の社是である。
株式会社出雲国大社食品 社是
現場でしっかりとコミュニケーションをとる
小ロットに対応できる細やかさが強み
株式会社出雲国大社食品では、新規事業として2016年からレトルト食品のOEMに参入した。
そのための工場も新設し、冬季には「おでん」と「煮豚」を製造する。
人によって味覚も感じ方も違う。それをカタチにするために、迷い、考え、とにかく試行錯誤。一つの商品を作り上げるために何度も試作をし、納得のいく商品を製造している。小ロット生産にも対応可能な体制で細やかな対応ができるのが強みと言う。
「山陰の優れた食材を活かし、山陰をアピールすることで地元も盛り上げていきたい」とも語る。
お客様の要望に応じた商品や自社オリジナル商品を開発、製造へ拡大することを念頭に、今後は人材も増やしていきたいと考えている。
二本柱のうちの揺るがぬ一本は、もちろん練り製品の開発・製造だ。
一般社団法人日本かまぼこ協会「かまぼこ研究助成事業」でも、かまぼこの健康機能性についての様々な研究がなされているが、水産ねり製品は低脂肪・高たんぱく、豊富なアミノ酸が含まれており、健康志向も手伝って近年注目されている。
湯気が立ち上る焼き立てホヤホヤのあご入りのやき
山崎社長は「スポーツジムやゴルフなどスポーツ後の栄養補給や、子どものおやつなどにもっと練り製品をアピールできないか、情報発信していきたい」と語る。
食の改善が、生活と健康の改善にもつながる。練り製品を通して食の力の大切さを伝えていきたい。
昔ながらの練りものは、出雲の食文化として守り続けたいと考えているその一方で、新しい分野としてお客様のニーズに合わせ健康機能性に着目した商品を開発していくことも計画している。
すべての商品を100点でお客様の手元に届けるために
レトルト食品製造の責任者を担っているのが、社長の弟、山崎 穣(ゆたか)さんだ。
入社して5年、以前の仕事は全く畑違いの業種。土木建築資材を扱う営業担当として仕事をこなしてきた。仕事内容は違ってはいても、自分の仕事として責任を持つということは同じだと山崎さん。
「ものづくりはむずかしい。安定した品質のものを提供していかなければ。
全て100点のものを作らないといけない。その中で80点のものがあってはいけないんです。」
毎日同じことをするようにみえて同じではない。その日の温度や時間帯、食材の見極めによっても味や食感が変わってくる難しさがあるという。
報・連・相は欠かさない。納得のいく商品を作り上げるために。
「私たちの会社はモノづくりの会社です。食品を扱う料理人と同じ意識が必要です。蒲鉾ひとつ、レトルト商品一袋作るうえで、何人もの手が関わっています。チームワークによって個人ではやり遂げることのできない仕事を連携することで達成できる。それぞれの立場、役割を各自が意識して行動しなければならないと思っています。」
レトルト食品を製造するチームは、約4名。
「良い品質の商品をつくるためにはチーム全体が同じ方向を向いていないといけない」
そのためには、チーム内のコミュニケーションはしっかりとり、風通しの良い環境づくりが必要と考えている。
ワークライフバランスの充実が仕事への姿勢につながっている
山崎さんの朝は早い。朝7時には出社し、その日の準備に取り掛かる。
その代わり、仕事を終えてから早く帰宅することができるのはメリットだと話す。ワークライフバランスが取りやすく、子どもとの時間もたっぷりとれる、自分のやりたいこともできる。
「人混みが苦手なこともあり都会で暮らしにくさを感じていたので、地元に帰ってきてよかったと心から感じています」
仕事にもやりがいを感じており、今後は他社商品との差別化ができるよう地元の食材を使ったさまざまなオリジナル商品を開発することで、出雲、島根を盛り上げていきたい」と語る。
兄である社長と同じく、「地元山陰には優れた食材がたくさんある。地産地消に取り組むことは、消費者にとっての安心感や親密感につながる。伝統食についても理解を深めることができる。」と語る。
人々の食生活を健やかで豊かにするためには「守り続けなければならないこと」と「新しく進化していかなければならないこと」が大切なのだ。
「地元に帰ってきてよかったことですか? そうですね〜......」
しばし考えて、冗談めかして「嫁さんを見つけたことですかねえ」と彼は楽しそうに笑顔を見せてくれた。