置賜の未来を担う子どもたちを育てる探究教室
探究教室ESTEM 大垣敬寛さん置賜の未来を担う子どもたちを育てる探究教室
探究教室ESTEM 大垣敬寛さん大垣敬寛さん
神奈川県横浜市出身/ 南陽市在住 / Iターン
「まちづくりで最も大切なことは何かと考え続けた結果、地域に主体性のある人材がいることが重要だと思いました」と語るのは、南陽市に住み、米沢市と山形市で探究教室ESTEMを経営する大垣さん。東京大学の在学中に、山形の農業の課題研究をきっかけに山形と縁ができ、2018年に南陽市に移住しました。難題解決や企画立案が好きな大垣さんは、「教育×まちづくり」をテーマに、子どもたちの主体性を重視し、地域や企業と連携した探究教室を経営しています。置賜の未来を担う子どもたちを育てる探究教室の取り組みや、地方の教育環境について、大垣さんに伺いました。
そうです。探究教室ESTEMは、5教科を教える塾ではなく、子どもたちの自主性を引き出す探究プログラムを行う教室です。1〜3ヶ月間、週1回のペースで1つのテーマに取り組みます。
ESTEMは、学年に合わせて学びが変わります
このガチャガチャも「ビジネス感覚を学ぼう」というテーマのもと、商品企画、原価計算、交渉、製造、販売を子どもたちがすべて担当しました。日本酒ラベルのマグネットを作る際も、自然と掛け算で原価計算をしたり、企画交渉でコミュニケーション力を養ったりしています。
もう一つの『あいた口がふさがらない』という商品は、動物の口に鉛筆を立てる商品で、キャラクター作りが好きな子が考案し、人気を集めました。当初は「紙粘土素材だとチープに見えてしまうため、売れるかな?」と心配でしたが、販売後大ヒットし、作った子も「自分の作品が価値になった!」と喜んでいました。ただ、お客様から「価格が高い」という声もあり、今は第二弾に向けて、付加価値をつける研究をしています。「鬼滅の刃の商品はなぜ売れるのか?」「価値を生むヒントは?」と問いかけ、子どもたちから「漫画を描いて同封しよう」といったアイデアが出てきています。子どもたちの発想にはいつも驚かされます。
それは「子どもたちが小さい頃から主体的に考え、企画する楽しさを知れば、豊かなまちになる」と考えたからです。『まちづくりは人づくり』と言うように、主体的に動ける人が増えることが、豊かなまちを作る出発点だと思ったんです。
私はESTEMを創業する前は山形県 南陽市の地域おこし協力隊として、カフェ経営や子どもの視野を広げる教室を開催し、まちづくりに関わってきました。その中で感じた違和感が2つあります。
1つ目は、まちづくりワークショップで「あなたは何レンジャーですか?」と尋ねた際、ほとんどがサポート役の青や黄色を選ぶ人が多くて、アイデアを自ら考える「レッド」を選んだ人がいなかったことです。これは、幼少期から主体的に取り組む機会が少なかったからではないかと考えるようになりました。
2つ目は、ある高校で探究授業を行った時、生徒から「こんなに自由に発言していいんですね」と驚かれたことです。これからの時代に求められる「主体的に動ける人材」の育成が学校現場では追いついておらず、いまだに高度経済成長期に重宝されてきた「規則を従順に守れる人材」を育てるために生徒の主体性を規則で縛る教育方針に疑問を感じます。学校のカリキュラムや体制の制約からの仕方なさも理解できますが、せめて学校外の「放課後」という場で、子どもたちの自主性を育てることができないかと思い、探究学習に力を入れています。
一度身についた価値観を変えるのは中々根気がいることです。小中高生は価値観が形成される大切な時期であり、学校教育で「決められた枠の中で生きるのが正解」と教えられる前の柔軟な時期に、発想してチャレンジする楽しさを伝えることで、長期的な視点で面白い地域が生まれると考えました。
また、活動を通して気づいたのですが、子どもたちの主体的な姿が大人に影響を与えることがあります。子どもたちは、大人が行き詰まっている企画に新しい視点を与えたり、失敗を恐れていた大人が、子どもたちの大胆な行動を見て前に進むきっかけを得たりします。ESTEMでは地域や企業と一緒にプロジェクトを進めていますが、子どもたちの生き生きとした活動が大人を成長させる好循環が生まれているのが面白いことだと感じています。
はい、子どもたちが地域や企業に関わることで、大人にも大きなメリットがあります。例えば、過去には「モンテディオ山形様」で高校生・大学生がマーケティングを学ぶ『U23マーケティングプロジェクト』を実施しました。学生がチームを組み、モンテディオの社員から学びながら集客プランを企画・実現するという本格的なプロジェクトです。
この取り組みは、子どもたちが社会人からマーケティングを学べるということだけでなく、企業側としても、CSR活動や子どもたちの新しい発想やファン獲得、社員教育の面でも大きな効果がありました。特に担当の新入社員は、自社を見直すきっかけにも繋がったそうです。これからも「地域や企業と子どもたちの探究学習」を通じて、大人も子どもも成長できる機会を模索していきたいと思っています。
やはり、ストレスが少ないところですね。私は横浜育ちで、小学2年生から満員電車で通学するのが当たり前でした。毎朝、ギュウギュウの電車で気分が悪くなり途中下車したり、痴漢や酔っ払いのトラブルを目撃したりとストレスが多かったんです。移住前に山形を訪れた際、ゆったりとした雰囲気や豊かな自然、温かい人々に惹かれ、住みやすい場所だと感じました。また、大学時代からITやアプリ開発のスキルを身につけていたので、PCさえあればどこでも仕事ができるという安心感もあり、移住を決意しました。
難しい質問ですね。もちろん、どんなことをネガティブとするかは家庭の考え方次第ですが、塾や習い事の数については、人口に比例して数は少なくなりますが、ある程度の種類はあると思います。それに今の時代はオンラインでどこに住んでいても学べる環境があるので、地方だから不利ということは少ないと思います。また、探究活動の視点では、どこにでもある公園でも学びを見つけることができるので、「親がどう問いかけるか」の方が大切だと感じます。
地方ならではのネガティブさでいうと、地方は車社会なので「子どもの探究活動のフィールドを広げるには、親の送迎が必要」というのは大変なところですね。
他には、「自分の進学先の視野を、周囲の影響で狭めてしまいがち」というのも多少はあると感じています。良くも悪くも環境は自分の価値観に大きな影響を与えます。進学先を選ぶ際にも、全国や世界から探すこともできるのに、親やクラスメイトの影響で「山形県内や東北の中から探すものだ」と思い込んでしまっている子も見かけます。
その面では、ESTEMでは自分の夢を追いかけてエリアに縛られずに偏差値の高い東京の高校を目指す子も出てきています。子どもたち同士が刺激し合える場になればと思っています。
そうですね、常に色々なプロジェクトを企画していますが、特に「子どもたちが企業や地域の課題に取り組む探究学習のプラットフォームづくり」にチャレンジしたいです。モンテディオ山形様とのプロジェクトのように、子どもたちが関わることで企業や地域に相乗効果が生まれる現象が起きています。こうした取り組みをさらに広げ、大人も子どもも成長できるプロジェクトを作っていきたいです。
取材・文:谷山 紀佳