「米沢の食」を支える味噌と醤油を

今野味噌醤油醸造店 今野良輔さん

今野良輔さん
米沢市出身/米沢市在住/Uターン

今野味噌醤油醸造店を営む六代目の今野良輔さん。大学進学と同時に米沢を離れ、2019年に米沢へ戻り店を継ぎました。伝統を受け継ぎつつ新たに無添加の醤油作りに力を入れている今野さんに味噌や醤油、米沢の魅力についてお聞きしました。

—— この仕事を継ごうと決めたきっかけはなんでしたか。

幼いころから間近で両親が働いてる姿を見てきたり手伝いをしたりするうちに、家業を継ぎたいと思うようになりました。大学でもこの仕事に関係する発酵学を選び、大学卒業と同時に父に後を継ぎたいと話をしました。しかし、大学卒業からいきなり実家を継ぐのではなく、社会に出て数年働き視野を広げてきなさいと助言され、食品の総合商社の営業に就職し、商品の流通について学びました。そこで数年働き、2019年に米沢に戻ってきました。

—— お店ではどんなものを販売しているのですか。

メインは味噌と醤油です。味噌はすべて無添加で出しています。醤油は、大豆をそのまま使用する“丸大豆仕込み”で作っており、これは一般的に使われる脱脂加工大豆とは違い豆が砕けていない分発酵も遅いので、仕込んでから醤油になるまで2年ぐらいかかるんです。このような製造をしているところは意外と少なく、米沢では私のところだけで山形県内でも6件ほどしかないようです。今は、別工程の醤油を同時進行で作って販売しています。現在醤油は市販のものは2種類程ですけど、お客様によって醤油の色味や塩の濃度の要望が変わるので全体で12種類程作っています。最近では、米沢の廃業されたお醤油屋さんの味を再現した醤油造りにも取り組みました。私のところでも様々なところに醤油を卸していますが、同じように醤油を作られていたとあるお店が辞めてしまい、そのお店が卸していたラーメン屋さんからも、私のところの醤油を試したいというお声を頂きました。各お店の味というものがありますから難しいと思いましたが、要望が多かったので作ることを決心しました。直接そのお店にお伺いし、その醤油を作るためのヒントをいくつか頂いて試作を重ね、1年から1年半ぐらいの期間をかけて作りました。

—— 無添加の味噌だけではなく、無添加醤油の醸造も手掛けているとお聞きしました。

そうですね、私が無添加の醤油作りに興味を持ったころに、とある方から無添加の醤油を作ってくれないかという製造委託の依頼を頂いたという出来事がきっかけです。一からの試みだったので、無添加の醤油を作っている蔵元に行って話を聞き、試作を重ねました。全国的にみても無添加の醤油はかなり少ないと思います。醤油を醸造するにあたって必ずする工程というのが、「火入れ」といって、醤油を加熱し殺菌するというものです。火入れをした状態で瓶詰めするので発酵を止めている状態になるのですが、その工程でアルコールなどを添加しないとカビが発生しやすくなったり、殺菌が不十分になってしまうことでガスが発生して栓がはじけ飛んだりなどということもあります。そういったことから、無添加の醤油を作るということはなかなか難しいんです。それに、旨味や甘味を調整するための添加物を加えず、大豆と小麦と塩だけの味になるので、しっかり管理してあげないと、角のあるしょっぱいだけの味になってしまいます。その管理や麹作りが難しいですね。試行錯誤して今年で3年目になりますが、ようやく販売を開始しました。

—— 美味しい醤油の定義などはあるのですか。

旨味の値というものがあります。醤油ですと窒素分という値がありまして、JASの規格で特選などの指標があります。私たちのところも醤油を作るにあたっては分析かけてもらってその指標の値を一つの参考にしています。またこれは日本酒と同じで、日本酒にも辛口や甘口があり、そこに好き好きがあるように「美味しい」は好みで分かれるところもあると思います。ちなみに、私たちの醤油は結構大豆の香りが強いと思いますので、日本酒に例えるのであればガツンとくるような辛口の分類だと思います。

—— 味噌や醤油作りの魅力をお願いします。

自分の目に見えない生き物と向き合って作るということがとても面白いですし、そこが魅力だと思います。麹というものは菌が繁殖してくると、自分で熱を発してその熱で死んでしまうんです。そうならないように適度に私たちが手入れをしてあげて元気な状態を保つと良い麹になります。見えない生き物をいかに理解してあげるかが大事になってきますね。大変ですけど、そのようなところが本当に面白いんです。

—— 今後新しく挑戦してみたいことはなんですか。

現在ふるさと納税の返礼品として味噌を出しているのですが、無添加の醤油が完成しましたらそちらも出したいと考えております。また、今回無添加の醤油を作る工程で使用した大豆は地元産のものなのですが、小麦は外国産なんです。地産地消という意味も含めて、小麦もすべて米沢産の醤油を作りたいと考えています。最近米沢でも小麦を育てている方がいらっしゃるとお聞きして連絡を取ってみましたら、試験的に栽培しているとお返事を頂きました。これを機会に生産者の方々と一緒に無添加の醤油を作れたら最高だなと思います。来年再来年のプロジェクトにはなってしまうかもしれませんし、またいろんな試行錯誤があるかもしれませんがそれも楽しみです。いつか完全な「米沢産」の醤油を出したいと思います。

—— 米沢市の魅力はなんだと思いますか。

やはり人が良いところですね。あたたかいなと思います。都会にいたときは、人と人との繋がりがそこまで強くない感じがしましたが、こちらだと人の繋がりから自然にコミュニティの輪や商売の活動の幅が広がっていくように感じます。また、元々あった縁だけではなく、こちらに移住してきて下さった方々と話したり、そのようなコミュニティに参加したりしたいとも思っています。あとは自然が多いところや食べ物も美味しいところですね。美味しいよねと言って頂ける「米沢の食」を私たちの味噌と醤油で支えていきたいと思っています。

—— これから移住される方にメッセージをお願いします。

都会で過ごすときは結構時間を気にしてしまうと思うんです。こちらは意外とそういうこともないので、時間の流れがゆっくりしているほうが好きな方は合っていると思います。また、それこそなにかやろうと思えば多少なりとも資金はかかるとは思いますが、土地もたくさんありますし、実現しやすい環境だと思います。移住を検討している方や、もし米沢で味噌や醤油を作りたいという方がいましたら、ぜひ応援したいですし力になりたいです。むしろ一緒にいろいろ学び合いたいなと思います。共に米沢を盛り上げていきたいですね。