目的は走ることより地域貢献。ゆるく楽しく走るランニングコミュニティ

パトラン山形チーム 佐々木謙介さん

佐々木謙介さん
高畠町出身/高畠町在住/Uターン

—— 走ったり歩いたりして地域貢献していると聞きました。「パトラン」はどのような活動でしょうか?

「パトラン」は、防犯パトロールとランニングを掛け合わせた造語で、地域の安全を守る新しいスタイルの防犯活動です。子どもや女性、お年寄りが安心して暮らせる地域社会の実現を目指して、2013年に福岡県宗像市で始まりました。現在は全国で合計17の公式パトランチームが活動しています。積極的にすれ違う人に挨拶したり、ゴミを拾ったりすることが犯罪抑止に繋がります。夜はさらに交通事故防止のため、夜光反射たすきを散歩中の方などに配っています。定期的に合同パトランを開催していますが、参加者の年齢層が幅広いので走るスピードはとてもゆっくりです。走る班と歩く班に分けるのですが、パト“ラン”なのに歩く班の方が人気があります(笑)なので、走ることに自信がない方でも気軽に参加できる活動です。ひとつだけ皆さんに共通しているのは「誰かの役に立てたら嬉しいな」いう気持ちを持っていることだと思います。

私は高畠町出身で、大学進学で高畠を離れましたが、就職で山形県へUターンし、現在は米沢市内で働いています。2015年からパトランに参加しており、2018年にパトラン山形チームを結成してからはチーム代表として活動しています。

—— 犯罪者に「この地域なら悪さをしてもバレないかも」と思わせない。日頃から地域に人の目を作ることは大切ですよね。

そうなんです。私たちはパトランをする際に、夜は目を見て「こんばんは!」と挨拶するようにしています。不審な人を見かけた時は状況に応じて「どうかされましたか?」と声をかけるなど、地域から見られている意識を届けることで犯罪が起きにくい環境づくりをしています。「Patrol Running」のロゴを身に着け、警察と連携して活動することで、少しずつですが「パトラン=防犯活動」と認識されるようになってきました。この前、二人乗りをしていた人が私のことを見て、あわてて二人乗りを止めたんですよ。これこそまさに抑止効果です!

—— なるほど・・・!走ることが地域貢献に繋がるという意味が少しずつ分かってきました。佐々木さんはどのようなきっかけでパトランに参加したのでしょうか?

私は大学2年生の時に自転車ロードレースに出会い、それから約20年間、趣味ではありますが自転車競技を中心とした生活を送ってきました。常に怪我や病気を抱えながらの競技生活でしたが、レースに参加するため全国いろんな場所へ行ったり、2012~2013年には山形県代表として国民体育大会に出場するなど、目指す目標のために毎日がとても充実していました。しかし、2015年に様々なことが重なり競技を続けられなくなってしまいました。そんな中、健康維持のため走り始めた時に出会ったのがパトランなんです。

—— 運動への取り組み方として、順位を競う世界から一転して、パトランは地域貢献という、佐々木さんの人生で新しい価値観の活動だったのではと感じます。新しい価値観を受け入れるのには時間がかかったのではないでしょうか?

それがですね、案外すんなりとパトランの活動に共感できたんですよね。(笑)大学では自転車を始める前はライフセービングサークルに入って人命救助に携わっていたので、誰かのために役立ちたいという気持ちは元々持っていたんです。20代の時には難病を患い、それまで普通にできていたことができなくなりました。今では、普通の生活を送れるようになりましたが、「この病気でも諦めなければここまでできるんだよ」というメッセージを同じ病気の方に伝えたくて自転車競技を頑張ってきたところがあります。東京オリンピックの聖火リレーも走ったのですが、その時も「励まされました!」という電話をいただきました。こうして自分の人生を振り返ってみると、誰かのために走るパトランに共感したのも当然だと感じています。

—— 自分が運動することで誰かから「ありがとう」と言われるのは嬉しいですね。パトランのコミュニティは、程よいゆるさなど居心地の良さを感じます。

はい。私自身人見知りなので、人間関係が固定化したコミュニティに入るのが得意じゃないんです。(笑)なので、合同パトランでは、誰でも温かく迎え入れる雰囲気とゆるいつながりを意識して作っています。参加されている方は、みなさん誰かの役に立ちたいという気持ちを持ってパトランに入ってきているので、素直に尊敬できるしお互いを認め合っているところから居心地の良さが生まれているんじゃないかなと思います。それに、「走らなくてもよい」「毎回参加しなくてもよい」という気楽さもあり、地域貢献しながら仲間を作れる楽しさがありますね。

—— 最近は、山形県内のパトラン開催地に住んでいる参加者が、他の山形県内の市や町から走りに来た参加者に観光案内をしていることもあるんですよね!

そうなんです。パトラン山形は、山形県内のいろんな市や町で開催しているので自分が住んでいる市や町以外でも走りに行くことがあります。一緒に観光地を巡りながらパトランをすることもあるのですが、その土地に住んでいるからこそ知っている美味しいお店や地域の魅力を聞けるのは嬉しいことですね。それと、いつもパトランで行っている「笑顔で挨拶」「街を綺麗にする」は、観光客へのおもてなしにもなっているんですよ。

自分の名前の由来となっている上杉神社の上杉謙信公の銅像を見つめる佐々木さん。

—— パトランが、防犯・健康・コミュニティづくりだけでなく、観光や関係人口の強化にもつながっている、というのは面白い発見でした。最後にこれから移住をしたいと考えている方にメッセージをお願いします。

山形は自然が豊かで人もあたたかい場所です。移住先で顔見知りを作るには、何かの団体に所属して友達を作らないといけないのかな・・・とハードルの高さを感じている方もいると思います。パトランの参加者はあたたかくて面倒見が良い人たちが多く、かつ毎回参加しなければいけないという面倒くささもないので、「地域の情報を知る・地域に顔見知りをつくる」という意味でも気軽に参加できるコミュニティだと思っています。少し遊びに行ってみようかなという感覚で気軽に参加してもらえたら嬉しいですね。

私にとってパトランは「アドベンチャー(冒険)」であり、活動して行く度にいろんな参加者に出会い、予期できないことが次々と起こり、自分の想像していなかった世界が広がる偶発的な面白さを感じています。これからもいろんな参加者との出会いを楽しみに走りたいです。

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取材・文_谷山紀佳