頭のなかの本棚で 人も地域もつながっていく
田澤寺 荒澤久美さん頭のなかの本棚で 人も地域もつながっていく
田澤寺 荒澤久美さん荒澤久美さん
長井市出身/米沢市在住/Jターン
正直あんまり変わったところはないですよ(笑) 同じ置賜圏内ですしね。これが庄内や村山だったりすると言葉も全然違ったり、風土的にも違いが大きいのかもしれないけれど。一番のカルチャーショックといえば、結婚して一般家庭からお寺に来たことのほうですかね(笑)
置賜総合支庁の森林整備課の方から、おいたま草木塔の会会長のうちのお父ちゃん(夫で住職の荒澤教真さん)に草木塔に関する発表依頼があったんです。それでいろいろお話しするなかで、裏山を子どもたちが遊べるような場にしたいと伝えたら、やまがた緑環境税という森づくり活動への助成制度があるからそれに申し込んでみたらという情報をいただいて。すでによく知っている方の活動もやまがた緑環境税を活用した活動とあとから知り、あんなふうに自然を身近にできる活動ができたらいいな、この際やってみようかなと思って活動が始まりました。木の伐採や裏山の整備をしつつ木や植物の観察をしたり、スプーンづくりやホタルの観察に出かけたりもしています。
最近思うんですけど、子育てって、子ども時代にやり残したことをもう一度大人になってからやっている感じがしますよね。小さい頃にやりたかったけどやり残してしまったような、興味のあったこととか。子どもを出しにした大人の自由研究。どっちかっていうと自分本位ですよね(笑) 実際、大人の遊びに子どもが付き合ってくれているような感じで。大人たちの方が夢中で、子どもそっちのけ。でも、「お父ちゃんもお母ちゃんも、なんかやたらと楽しそうにやってたなあ」みたいな感じで、子どもは育っていくんじゃないですかね。この前も、「カブトムシ捕りに行くぞー!」って娘と一緒に捕まえに行ったんだけど、捕ってきたあとはそのまんまにしていたら、娘が一人で引き継いで育ててくれてました。普通、逆だよね(笑)
そうですね。特に楽しかったのは小学校の高学年の頃かな。いとこ同士でキャンプに行ったりしていたんだけれど、そのいとこが同い年で、好きな本も勧めてくれたんですね。それが、『十五少年漂流記』とか『ロビンソン・クルーソー』とか『宝島』とか。そういった冒険小説を読んで、私もおもしろいなって思って。子どもの頃にどういった本を読んでいたかを聞くと、大人になってもやっぱりその興味嗜好がそれぞれ現れているものだなあって思いますよね。子どもの頃に興味があったことや好きな本って、大人になってもそんなに極端に変わったりはしないように思う。
結婚する前には、国内外をバックパッカーであちこち旅したりしていて。県内の山に遊びに行ったりするのは、一番お金がかからなくて満足できる遊びでした。山登りのあと温泉にちょっと入って帰ってくると、充実感が半端なかったから。飯豊にある山形県源流の森だとかにもよく行っていましたね。
でもここに嫁いできたら、生活自体が山の中になった(笑) すでに山の中に家があるから、わざわざ山に行く必要もないかなって。置賜って、360度山に囲まれているんですよ。だから暮らしている人たちにとって、山はかなり身近なんじゃないかな。そのぶん山が見えないところに行くと、すごく不安な感じになる。いまはコロナの影響で遠出もできないし、身近な自然で遊ぼうよっていう雰囲気にもなっているように思いますね。
新卒で入ったんだけど、そんなに長く勤めるつもりはもともとなくて。私、旅に出ようと思っていたから。でも親に「お願いだから就職してくれ」って泣きつかれて、しぶしぶと…。仕方ないなと思って新しくできる図書館の司書の面接に行ったら、「来てください」って言われて、そのまま25年間も勤めて。結果的にこの仕事が合っていたんでしょうね。司書としての仕事だけじゃなくて、ホールも併設されていたから、演劇、芝居、映画、落語などにふれる機会も多かったです。異動で企画の部署に移ってからは、Book! Book! Okitamaなどの本をめぐるイベントも企画しました。ホールでの公演では、舞台芸術のいろんなプロの人たちが訪れていたし、遅筆堂文庫に蔵書が収められている作家の井上ひさしさんも来られていたし。田舎にいても都会の空気のある場所ってあるんだなあって。だからこそ25年間も勤めていられたんだと思う。私は学生時代、都会に行きたいって思っていましたからね。いろんなカルチャーが密集する自由な場所に興味があったから、いつか山形を出て行ってやるって思っていた。でも今や地縁と血縁にしばられた?お寺にいるし、まるで逆の方向に来ちゃいました(笑)
そうなんですよね。だから自分が本当に興味のあるところに特化したいなと思ったのが、今の活動に至ったきっかけの一つ。当時いろいろな実行委員会で一緒に活動していた人たちが、今も田澤寺に遊びに来てくれています。仕事を超えた付き合いは財産ですね。私のプライベートの時間を使って、自分の興味のあるものを次々とやっています。
川西町フレンドリープラザに勤めていた20代のときに『ほんきこ。』という同人誌を仲間とつくり始めたんです。でもメンバーがそれなりのお年頃になって、結婚、育児などで忙しくなり頻繁に集まれなくなったとき、「どうやって活動を続けていこうか?」と話し合って「読書会」という方法に切り替えました。担当を輪番制にして、「映画」「写真集」「マンガ」とか、その時々の担当者が得意とするテーマで本を持ち寄り紹介し合いました。
お寺で開催している読書会はだいたい一月に1回のペースで続けていて、今は筑摩書房の『ちくま日本文学』全40巻を約3年かけて読むプロジェクト読書会です。「芥川龍之介」「幸田文」「寺山修司」と読み進めていって、7月は江戸川乱歩の作品だったんですけど、毎回7、8人の参加です。私が図書館に勤めていたときに手伝いに来てくれていた仲間とか、口コミで知って参加してくれた方とか。別の企画で講師としてお願いした大学の先生がそのまま参加者として読書会にも来てくださっていたりするので、贅沢ですよ。文学の専門家がいてくれる読書会って。他の人の感想を聞くと、「こういう角度で読むこともできるんだな」とか、「こういうふうに感じるんだなあ」って人によって見方も感じ方も違うところに発見があります。20代から70代くらいの人たちが集まりますが、毎回新しい人が来てくれるので、それも刺激になっています。男女比でいうと、圧倒的に女性が多いですね。置賜圏内から来る方が一番多いですが、山形市から来てくれている方もいたり、日常的に本を読んでいる人の参加が多いのでとても盛り上がりますね。
そのとおりでございます(笑) 今も昔も常に出入りする人たちを眺めていて、「この人はこういう専門的なことをよく知っているなあ」とか、「この人とこの人を会わせたら結構おもしろい化学反応が出るんじゃないかな」とか考えていたり。言ってみれば、頭のなかに本棚をつくっていて、そこに関わり合っている人たちを入れちゃうイメージですかね。
司書として本を分類していて思うことは、なかなか単独のテーマで区切って分類しきれないなということなんです。一冊の本の背景には、必ずまた別の分野がある。生態系と一緒で、すべてつながっているんですね。だから人間も本と同様に、そういう関連性を持っているはずだなあと。この分野に詳しい人は、こっちの分野にも詳しいだろうな、とか。人間社会のすべては、図書館に現れていると思うんです。
だからいま私が頭のなかでよく見ている棚は、4分類の自然科学の棚。本は日本十進分類法に基づいて公共図書館はどの図書館でも統一されていて、0が総記で、1が哲学、2が歴史、3社会科学…といった具合なんですね。そのなかで4分類が、宇宙や昆虫、動物だとかを扱う自然科学。図書館で児童書を担当していたとき、4分類の自然科学の棚には、すごくおもしろい本が多かったんです。専門的な内容も、子どもが読んでわかる言葉で書かれているから、大人もわかりやすいし写真も大きい。だからいまは、4分類の児童書を書いている人にすごく興味がある。自然科学の棚に入っていそうな人を、日々探していますね(笑)
私は10代の頃、ずっと置賜、山形から出たいと思っていました。ここには、何もない。ここではないどこかへ行きたい。そう思っていたからです。それが案外、ここってこんなにいいところだった?と考え方が変化したのは、地元の人よりも、移住してきた人たちとの出会いが大きかったですね。逆に教えられました。結局、どこでどう生きるかは、価値観や見方、考え方次第。どこへ行っても何か見つけて楽しめるかどうか次第だと思います。
取材・文_井上瑶子