一関市・千厩町。
町の中心部から少し外れた先、山に囲まれた田園地帯を進んでいくと、ニッコー・ファインメック株式会社の事務所と工場を見つけました。
白・青・緑を基調とした建物が、緑豊かな自然に溶け込むように建ち並んでいます。
中に入ると、清潔感のある明るいオフィスに、真剣に仕事に取り組む社員さん達の姿がありました。
産業廃棄物を扱う会社と聞いていたので、どんな雰囲気なんだろう…と思っていましたが、想像以上にクリーンな印象を受けます。
「産業廃棄物処理を行う会社って、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)のイメージをもたれがちなんです。隠れて何か悪い事をしているのではないか・・・、そういった印象を払拭するために、オープンでクリーンな会社の雰囲気づくりを心がけています」
そう話すのは、代表取締役の小野寺真澄さん。
初代から会社を引き継ぎ、9年前に代表取締役に就任しました。
ニッコー・ファインメックでは、産業廃棄物の収集運搬や中間処理、貴金属の再生、宝飾品の加工・販売を行っています。
また、岩手県内で唯一、国が認定する「小型家電リサイクル法」の認定事業者として、各市町村から電子機器のリサイクルを引き受けています。
「社名の「MECC(メック)」は、「Material(素材)」「Ecology(環境)」「Chemical(化学)」「Creation(創造)」の頭文字をとった造語です。環境保全や循環型社会づくりに技術をもって優れた企業でありたい。そんな思いがこめられています」
会社の創業は、1975年。
創業者である小野寺さんの父・司さんが、関東で銀のリサイクルを学んだことがきっかけでした。
当時は東北でフィルムリサイクルから銀を作る会社などなく、ビジネスチャンスと捉えた司さん。岩手に技術を持ち帰り、会社の前身である日興薬品東北営業所を開設します。
5カ月後に独立した司さんは、個人経営でリサイクル銀の製造を始めました。
当初のその作業は実に地道で、自宅のバケツで化学反応の試験を繰り返し、何度も銀を抽出しては純度を高めていくものでした。
父の様子を、子どもの頃に何気なく見ていた真澄さん。
「家の庭に、鋳造直後の熱々の銀のインゴットが積まれていたんですよ。これが銀だよ、と言われても全然ピンとこないですよね、何の塊?って不思議に思っていました」
5年後には個人経営から有限会社を設立。貴金属リサイクルを核に事業を確立させていきました。
その頃、ダイオキシンや光化学スモッグといった環境汚染が、深刻な社会問題に。企業の排出者処理責任を厳しく追求する動きが広がった時期でした。
「廃棄物処理に関連する法律はより厳しくなり、会社に対する地域からの目も当時は厳しかったと、父から聞いています」
山や田んぼに囲まれた会社。自然豊かな地域を、汚すわけにはいかない。
環境保全のため、適正な廃棄物処理を行う必要性を感じた司さんは、環境汚染を防ぐための徹底した工場管理と、地元の方々に対する積極的な情報公開を行い、地域の理解を得ながら、産業廃棄物処理の事業範囲を広げてきました。
2014年には小型家電リサイクル法認定業者になり、小型家電に含まれる有用な資源を県内外から回収し、リサイクルをしています。
事業拡大に合わせて工場を次々に新設稼働し、社員も徐々に増え、現在は4つの工場を敷地内に構えています。
「今のニッコー・ファインメックは、紛れもなく、父が作り上げた地盤と風土であり、私はそれをこれからの時代に継承していく責任があると思っています」
真澄さんは、銀座の大手宝飾店に勤務したのち、帰省後はニッコー・ファインメックの総務部で働いていました。3年前に代表を引き継ぎ、現在は79名の社員を率いています。
「うちの会社は職人気質で、真面目な社員が多いんですよ。不思議と、そういう人達が集まりますね」
生産管理部の青山忠さんも、そんな職人気質の持ち主の一人。貴金属の分析業務を担当しています。
分析するものは日によって様々。電子基板や電子部品、歯科金属、金属が含まれた廃液などが、毎日会社に送られてきます。
青山さんは、それらを一度液体に溶かした後、分析装置を用いて金属含有量を分析します。
「大きい基板は、深部まで全部溶かさないといけないので結構大変。サンプルによって分析や処理方法も異なるので、その時々に応じて考える必要があります」
そう言いながら、真剣な眼差しでサンプルを見つめる青山さん。
「どんなふうに分析にかけようか、試行錯誤する時間が一番楽しいです」
栃木県出身の青山さん。
高校の授業で化学の実験が面白かったことをきっかけに、大学では化学を専攻。
卒業後は、一度は関東の半導体メーカーへ就職するものの、化学の知識を活かそうと、ニッコー・ファインメックへ入社。
「産業廃棄物処理業は正直、それまで馴染みがなかったんです。でも実際に会社に来てみると、薬品や分析機器を用いた業務内容だと分かって」
「ここなら化学の知識を活かせる。そう思い、2020年に入社を決めました」
自分の得意分野を、仕事に活かす。
青山さんにとって、分析業務とひたすら向き合う仕事は、まさに天職と言えそうです。
会社全体の取り組みについて、青山さんからはどう見えているのでしょうか。
「地域に貢献している実感はあります。例えば、新聞に会社の取り組みが載っていたり、東京オリンピックのメダルに会社で採取した金が使われていたりするのを見ると、うちの会社ってすごいんだなって思います」
「それでも、まだまだ知らないことだらけなので、他の業務にも携わってみたいし、会社のことを幅広く知っていきたいですね」
続いて話を聞いたのは、生産管理部二課の、遠藤みどりさん。
小型家電処理のチームリーダーを担当しています。
「現場は力仕事もあり大変なところもありますが、楽しく働いています」
明るくパワフルな印象の遠藤さん。
遠藤さんの部署は、小型家電だけではなく設備機器類の受け入れから、選別、分別、解体まで、業務内容は多岐にわたります。
ときには重量物を場内移動する仕事も、フォークリフトに乗って颯爽とこなします。
4人の同僚とチームを組み、リーダーとしてチームをまとめる遠藤さん。
「私のチームはみんな女性で、中には外国人の方もいますよ。皆さん日本語が上手です」
「仕事以外の話もしたり、プライベートの悩みも相談し合ったり、日頃コミュニケーションはとるようにしています」
実際に作業している様子を見学させてもらおうと、工場へ。
ディスプレイからワイヤレスイヤホンまで、大小さまざまな小型家電を1つずつ手作業で解体し、もの凄い速さで中から破砕に向かないものを取り出しています。
「直接破砕機に投入されるものもありますが、バッテリーや電池が入っていると、破砕機内で爆発するので、そういった危険なものは手作業で外しています」
「スピードを上げて量をこなす必要があるので、どこのネジを外したら早く解体できるか考えながら。何回かすると、コツがつかめてきます」
とはいえ、新旧のスマートフォン、ゲーム機、電子レンジなど毎日いろんな家電製品が入ってくるので、解体方法が分からないものもよく出てくるといいます。
そんな時に大切なのは、チームのみんなで分からないところを共有すること。
「分からないことがあったら、お互いにすぐ聞くように、徹底しています。その都度チーム内で集まって、ここは気をつけようねって教え合うと、次に同じものが来たときに対処できるようになりますし、効率も上がっていると実感しています」
「忙しいときこそ、コミュニケーションを意識する。仕事を早く覚えるためにも、チームワークはとても大切だと思っています」
遠藤さんは、勤続15年目。
長く会社に勤められている理由を聞くと、「環境に恵まれたからかな」と答えます。
「実は以前、病気にかかったことがあって。一度、仕事を辞めようかなって思ったんですよ」
「そんな苦しい時に、上司や仲間に相談させてもらって、精神的に支えてもらいましたね。
すぐ相談できる存在がいたから、ここまで続けてこられたと思っています」
長く働いている人の他に、最近では都市部からの移住者も多く会社の仲間に加わりはじめています。
小野寺社長は、ニッコー・ファインメックに向いている人は、誠実な人だと言います。
「私は話が上手すぎる営業マンってあんまり信用できないんです。話が苦手でも一生懸命伝えてくれる人、正しい情報を伝えてくれる人のほうが、私は信用が持てるので」
「産業廃棄物処理の仕事は、法律が厳しいので、日々の手元作業を少しでも間違えると違反になる可能性が高いんです。そういった環境だからこそ、うちの会社にはルールを守れる真面目な社員が多いんだと思います」
会社で回収した電子機器から再生された金が、世界大会の都市鉱山メダルに使用されたことを受け、メディアで取り上げられ話題に。これをきっかけに、会社の取り組みを知ってもらえる機会は徐々に増えてきたといいます。
「それでも、小型家電についてはまだまだ知られていないことの方が多いんです。小型家電って何?実際どこに持っていったらいいの?って聞かれることもまだまだありますし」
そのため、今後は小型家電のリサイクルについての普及活動に力を入れていきたいと話します。
1つは、子どもへの普及活動。
「今は小学校で環境分野を学ぶ授業があるので、そういった場での子どもたちへ伝えていきたいです。小型家電は資源になるって授業で習ったよ!って、子どもを通じて親や家族に伝えてもらえれば、広く知ってもらい認知度もあがるきっかけになるんじゃないかと思います」
2つ目は、都市鉱山ジュエリーでの普及活動。
都市鉱山ジュエリーとは、経済圏で出た電子機器などの資源から、その中に含まれている有用な金属を取り出すことで、都市を天然鉱山に見立てた考え方。これをジュエリーとして蘇らせるという取り組みです。
「ただ単に『リサイクル』というよりも、捨てたものが実際にジュエリーとして形になることで、現実味が湧くと思います。都市鉱山の意義やプロセスを、ジュエリーを通じて提案できれば。私たちが担う資源リサイクルの美しいアイコンになってほしいって思います」
また、ニッコー・ファインメックでは、業務の自動化にも力を入れています。
3年前にシステム課を立上げ、工場内のインフラ整備や、RPAやAIを活用し、事務作業を大幅に改善中。現在は、営業や工場現場でのIT化も進めています。
「単純作業はなるべくITやロボットに任せていきたいですね。多種多様な廃棄物を適切な処理方法を判断したり、人間の知識や経験が必要な作業に、なるべく注力できる環境を整えたいと思っています」
サスティナブルな行動が求められる時代。ニッコー・ファインメックのリサイクルの1つ1つが、日本だけでなく、地球環境へ貢献しており、その責任は大きいといいます。
「私たちの仕事は社会的意義があり、誇りがあるんだよということを、3Kと呼ばれてきたこの業界でがんばる社員やこれから入社する人たちにも伝えていきたいですね」
「私たちの使命は、社名の由来のとおり、優れた技術で新たな環境課題を解決していくこと、そして、リサイクルに誇りをもって日々の仕事と向き合い、私たちにしか提供できないサービスを世間に送り出すことです。社員の皆さんが健康で幸せにいられるような環境を少しずつ作っています」
真っ直ぐな思いを持った人たちが、責任感のある仕事を通して、様々なアプローチからリサイクルを提案していく。
サスティナブルな循環型社会を目指すこれからの時代にふさわしい、21世紀の創造企業です。
取材:足利文香