工場の中に入ると、自動でロボットが部品を組み立てていたり、最新の機械が立ち並んでいたりと、そのスケールに圧倒されます。作業をする人たちが手分けして部品を組み立てている様子が見えます。
ここで作っているのは、生活するのには欠かせない自動車の部品です。大手自動車メーカーの部品メーカーとして、車のボディ部品、燃料タンク周辺部品やHV用のバッテリー部品などを製造しています。
「うちは東北での歴史が浅く、発展途上の会社なんです」
そう話すのは、副社長であり、一関工場の代表である高木芳太郎さん。
高木さんは、もともと愛知県にある髙木工業所の本社で仕事をしていました。
約50年前の1968年に創業した会社で、日本の高度成長期中に高木さんのおじいさん兄弟が、持っていた田んぼを売って自動車部品の会社を起こしたのがはじまり。
今では愛知県にある本社のほかに工場が3つあります。
一関工場のスタートは2018年。
東日本大震災以降、東北の各県、市町村、自動車メーカーがより一層東北での自動車の生産に力を入れて、東北を盛り上げていこうという世風がありました。
しかし、東北での生産数を上げていくために必要な現地で部品を調達する発注先が足りません。
そういった時代の流れや、いろんな方々の思いを受け、髙木工業所は東北への進出を決め、一関工場の操業をはじめます。
自動車メーカーに直接部品や製品を納入する一次請けのメーカーを「Tier1」と言い、髙木工業所はその次の「Tier2」のメーカーです。
製品の納入がはじまるおよそ1、2年ほど前にTier1からの発注を受け、求められる製品の品質と量を確保するための生産体制を準備します。
「品質と納期は、自動車メーカーが安定して生産するために私たちが絶対に守る約束です。私たちの部品が無ければ、車を生産するラインもストップしてしまうので」
お客様が欲しいといったタイミングで必要な部品を決まった価格で、品質を保ちながら納品する。
髙木工業所には、これを長年続け積み重ねてきた信頼があります。
「うちの強みは、一つのものをこの上なく綺麗に作るとか、うちでしか作れない技術があるとかではないのですよ」
「けれども、この価格、この納期で、一定の品質を保ちつつ、必要な量を作ることは得意です。そのためにどうするべきか常に考え、柔軟に対応しながら部品を作っています」
髙木工業所の会社パンフレットには、「ものづくりは自分づくり」が掲げられています。
製造現場はただモノを作っているのではなく、現場で汗を流し、人と関わり、確かな仕事を積み重ねていく場です。その中で、経験を培い、自信を持ち、それが自分らしさに繋がっていく。
これが、髙木工業所の基本的な仕事の考え方です。
「例えば、食事の席などで『あの人ってこういう人だよね』っていう話をしますよね。そこで話されるその人って、多くが仕事のことだったりする。仕事と人の生き方って切っても切れないと思うんです」
「だから、社員にとって人生の長い時間を過ごす仕事も良い時間であってほしい。そして、それぞれが『髙木工業所という会社を作ってきたんだ』と自信と誇りを持って言えるような仕事を一緒にしていきたいですね」
髙木工業所に関わる一人一人が、どんな人生を生きるか。
それを一緒に考えられる会社であり、良き仲間でありたい。
「会社って、みんなで協力して効率よく仕事をするために集まっている一つの形だと思うんです。ものを作る人、運ぶ人、注文する人、伝票を作成する人、一人で全部やっていたら1週間かかる。それを役割分担して、1日で終えられるように組織で仕事をしている」
「確かに私は今、代表者であるけれども、代表という役割なだけで、私の会社というわけではない。みんなの会社であって、それぞれが主役の人達の集まりでありたいなと思っています」
社員それぞれが良き仲間であるために、日頃から大切にしているのは「寛容さ」だと言う高木さん。
「失敗も含め、お互いを許しあえる寛容さが大切です。まあ人間なんで、私も含めて自分勝手な部分や衝突もありますけど、そういった事も前向きに乗り越えていける関係でありたいです」
「私自身が一番、挑戦も失敗もしてきていると思っているので、みんなにも失敗しても良いと思える環境をつくりたい。前向きに取り組んで失敗するのは、どんどんやってほしいですし、今より良くするためにどうするかをいろいろ考えてくれることはとても大事な一歩だと思います」
続いてお話を伺ったのが、入社4年目の都築大地さん。現在組み付けの班長として活躍しています。
都築さんは、一関市千厩町出身。高校卒業後に東京で就職し、約1年後に地元に帰ってきました。
携帯ショップの販売員や農協での仕事などを経て、「接客の仕事ではない仕事がしたい」と思うようになり、見つけたのが髙木工業所の求人でした。
「工場って毎日同じ工程を続けていくようなイメージでいたのですが、入ってみたら全く違って。効率を上げるために作業の順番を変えたり、お休みの人がいたらそこのサポートに入ったり。毎日全く違うことをやっていますね」
これまで主に接客の仕事をしてきた都築さんですが、意外にも工場での仕事が合っていたと言います。
「自分は楽をしたい人間なので、効率を求めるんです。この作業をやる理由とか、本当に必要なのかとかを深掘りしたくなるタイプなので、そこは工場向きかもしれません」
1日1000個作るモノの1個あたりのスピードをコンマ何秒縮めるような、地道な世界。都築さんは、生産が早い人を観察しながら「どうして早いのか」を考えて仕事をしています。
「工場は終わりの時間が見えるのもメリハリがついて良いですね。接客業だとお客さん次第で仕事時間が伸びたりしますから」
「それでも、接客業をやっていて良かったなと思う場面もあります。上司や部下とのコミュニケーションが絶対に必要な仕事なので。出来るだけ話しやすい人であろうと思っています。仕事のことだけじゃなくても、満遍なくいろんなことを話していますね。基本、雑談が大好きなので(笑)」
副社長の高木さんとも日常的にコミュニケーションを取るそうです。
「副社長はなんでも話しやすいんです。最近友だちに勧められてゴルフを始めたので、そういう話もします。仕事の話だけでなく、いろんな話をしてくれますし、気にかけてくれていますね」
年代や肩書きを問わず、日常的な会話を楽しむ都築さん。職場で働く人同士がコミュニケーションを取りやすい環境をつくる役割を果たしています。
この仕事に向いている人はどんな人かと尋ねると、「常識にとらわれ過ぎない人」という答えが返ってきました。
「マニュアル通りにきっちりやる人ももちろん良いですし、柔軟性がある人がどんどん改善に取り組むのも良いですし。いろんな人がいた方が、面白い会社になるんじゃないかなって思います」
今後は部署を変えてプレス加工や品質保証などの仕事も経験して、工場全体を見られるようになりたいと言う都築さん。今後も自分の能力を活かしながら成長していきたいと話します。
高校を卒業してこの春入社したばかりのフレッシュな面々も。生産管理グループの菅原結さん、総務グループの小野寺美羽さん、菅野寿那さんの3人は同期で、それぞれ事務を担当しています。
作業工程を管理する指示書の作成や勤怠処理、来客や電話の対応、部品発注や在庫調整などを行っています。
入社して数ヶ月が経ち、少しずつ仕事に慣れてきたと話す3人。
「皆さん本当に優しくて面白くて、いつも笑わせてくれるので、職場は楽しいです。最初のころと比べると余裕を持って仕事をできるようになってきて、やりがいを感じています」
菅原さんは、はじめてのことで失敗することがあっても、先輩のサポートがしっかりあるので、安心して仕事に取り組めていると言います。
「以前、私が発注した材料が足りなくて焦った時があったんです。先輩が、足りなくなった原因とか、『これはこの時の作業に必要だから頼むんだよ』とか、一つ一つの材料に対して理由も一緒に教えていただけて、ありがたかったです」
高木さんに、どんな人を求めているかお話を聞くと、「一緒に同じ方向を向いて働ける人」と答えが返ってきました。
「資格や学歴よりも、同じ方向を向いて、同じ思いを持って仕事してくれる人が一番強い。こうしていきたいっていう思いで一緒に作り上げていく。そのベクトルを合わせられるのが大事だと思います」
「『今、厳しいところだけれど、頑張るしかないよね』とか。大変な時に一緒に頑張ってくれたことが信用や信頼になる。そうやって仕事を自分ごととして捉えてくれる人と一緒に働けたらうれしいですね」
今後はみんながより働きやすい環境づくりを進めていきたいと話す高木さん。
「仕事場が寒かったり暑かったりするので、みんなが働きやすい環境を作っていくためにそこを見直したいですね。先立つものがないとなかなか難しいのですけど、売り上げを積み上げて、やりくりしながら環境を整えていきたいなと思っています」
「また、福利厚生などのソフト面も改善していきたいです。労務の部分もスタッフと一緒に考えながら変えていきたい。今のやり方に拘りすぎず、みんなの『こう働きたい』もっと出してもらって実現できるようにしたいです」
最後に、高木さんは会社や仕事への思いについて、こう語ります。
「会社の仲間それぞれが、自分のことだけじゃなく、家族や友人、周りの環境も含めて苦しい時もあるし、余裕がある時もあります。楽したいときもあれば、頑張らなきゃいけない時もある。それをみんなが分かってあげられる。そんな会社が理想です」
「もちろん、ここ一番の時はやるしかないという状況もあります。そういう時にしか得らえない達成感や自信が、人を作っていく上で人生の大事な一つの場面だと思います。大変な時も乗り越えて、ここまで一緒に会社を作ってきてくれた仲間には本当に感謝で一杯です」
ここで働く人たちの幸せをいつも願っている高木さん。
ただお金を稼ぐために仕事をするよりも、人と関わり、自分と向き合い、良い人生を送って欲しい。
その思いは「ものづくりは自分づくり」という理念につながっています。
髙木工業所は今後も、仕事を通じてみんなにとっての幸せを探求し続けます。