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古きも新しきも活かすオンリーワンの家づくり

佐藤工夢店株式会社 / 大工

インタビュー記事

更新日 : 2023年02月22日

家を建てるとき、どんな家にしたいと思い浮かべるでしょうか。

 

明るく開放感のある家、収納がいっぱいある家、デザインにこだわりぬいた家。

こだわるポイントは人によってそれぞれだと思います。

ずっと暮らしていくからこそ、家という単なる箱をつくるのではなく、理想の暮らしをつくりたいものです。

お客さん一人ひとりの暮らしに合わせた、オンリーワンの家づくりを行う老舗工務店が、一関市にあります。

腕のいいベテラン大工職人をはじめ、最近では若手の職人も増え、技術継承が行われています。

佐藤工夢店株式会社 事業概要

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一関市・大東町。

昔ながらの里山の風景に溶け込むように、佐藤工夢店株式会社はあります。

会社の事務所の隣にあるのは、築70年ほどの住宅をリノベーションした、代表取締役・佐藤誠さんの自宅。

木のぬくもりを感じる、趣のある外観が印象的です。

 

「古民家の良さって、漆喰やすすけた柱、大きな梁など、自然の息遣いのようなものを感じるところ。そんな暮らしっていいなって思うんです」

古い蔵から再利用した柱を見つめながらそう話すのは、4代目・代表取締役の佐藤誠さん。

佐藤工夢店は大正6年に創業。今年で106年を迎えます。

創業当初から、地域に根づき、安心して長く住み続けられる家づくりを行ってきました。

4代目の誠さんの父が、それまでの佐藤工務店の名前から、平成22年に法人化したことをきっかけに「佐藤工夢店株式会社」と社名を改めました。

「家づくりは、お客様の夢を叶え、暮らしをつくること。そんな思いを込めて、『夢』を社名に付けたと聞いています」

佐藤工夢店が手掛ける住宅は、高性能住宅と古民家再生の2つを特色としています。

1つ目は、断熱性・耐震性・気密性に優れた、高性能住宅。

トータルで熱を逃さない性能を誇り、家全体を均一で快適な温度に保ちます。

その暖かさは、真冬でも素足で快適に暮らすことができるほど。

体の内側からじんわりと暖まります。

「他のエリアに比べ、東北の家の多くは、新築であっても断熱性能が足りず家の中が寒いんですよ。北海道の家より寒い」

「そういった地域の課題もあるので、うちの会社では寒さ厳しい岩手の冬でも、暖かくしかも低燃費で快適に過ごせる家づくりを目指しています」

高性能住宅が評価され、2022年には日本エコハウス大賞の奨励賞も受賞しています。

2つ目は、古民家再生。

一関市内には、代々受け継がれた古民家が数多く点在しています。

耐震性や耐熱性には課題があるものの、現代の住宅にはないむき出しの梁や柱には、古民家ならではの質感や風合いがあります。

「古民家って、その地域を象徴する重要な文化財だと思うんです」

「地域の古民家は既に素晴らしいものを内包しているので、私たちはそれを少し磨いてあげるだけ。耐震や断熱技術を正しく取り入れれば、古民家の趣を残しながら、現代の建物の性能を上回る快適な暮らしができるんです」

誠さんは、近隣の建設業者で現場監督として10年ほど勤めたのち、実家に戻り、佐藤工夢店で働き始めました。

その頃は、棟梁が頭の中に描いた図面をトップダウンで指示し施工を行う、昔ながらのやり方でした。

また、当時は就業規則やマニュアルもなく、若い従業員がなかなか社内に定着せず、職人の高齢化も進み、技術継承と人材育成が課題でした。

 

「時代が変わった私の代でもお客様に喜んでもらえる家づくりをしていくためには、まずは会社の体制づくりを整えていかないといけない」

そんな思いから誠さんは、2012年から32歳で会社を継ぎ、まずは会社のコンセプトを見直すことに。

ご家族の想いに寄り添った、自由で柔軟なオーダーメイドの家づくりにシフトしていきました。

「例えば、朝起きてから寝るまでの間、平日と休日、どんな暮らしをしているかを聞くんです。さらにはパジャマはどこに置きますか?といったように、日常生活の細かい部分までインタビューしていく。長いときには半日以上かけることもあります」

「家づくりはほとんどの人が人生で1回きりのこと。やり直しもききません。だからこそ、身体にフィットしたオシャレなオーダースーツを作るような感覚で、お客様とご家族の普段の生活を採寸し、ご希望をしっかりとお聞きした上で、専用のプランを提案しています。できた家に人が合わせて暮らすのは、もったいないですからね」

また、ここ数年は、若い人材の募集や人材育成にも力を入れており、若手社員からベテラン社員まで幅広い世代が働いています。

「建築業界って、もともと若い大工さんが少ないんです。年配の方が持ち合わせる技術を、次に引き継いでいかなくちゃいけない。そのためにも若い世代を増やし、育てていきたいと思っています」

「うちの会社には、若い人も含め、手に職をつけたい人が自然と集まってきていますね」

 

入社6年目、設計担当の小崎雄一さん。

休みの日も家でDIYをしているというほど、ものづくりが好きな小崎さん。

佐藤工夢店では、家づくりに必要となる設計図面の作成を行っています。

設計図面と一口に言っても、その目的によってさまざまな図面が必要です。

お客さんの要望を反映した基本プランニングの設計図は、社長の誠さんが担当。

部屋につける棚の高さや下地材の種類など、施工を行う際に現場に指示するための設計図を、小崎さんが担当しています。

一般的には設計者が入らないお客さんとのプランニングの段階から、小崎さんが関わることもあるのだといいます。そうすることで、お客様の要望をくみ取り、よりスムーズに図面を仕上げることができています。

「自分が書いた図面が形になって、お客様の喜ぶ顔を直接見られたときは、特にやりがいを感じますね」

もともと大工経験のある小崎さん。

別の工務店で10年近く働いたのち、2017年に大工として佐藤工夢店に入社しました。

入社して4年経ち、誠さんから「設計をやってみない?」と話をもちかけられ、2021年に設計担当になりました。

「自分のスキルアップのためにもいいかなと思い、二つ返事で引き受けたら、いつの間にか設計を担当していました」と小崎さんは笑います。

 

「高校の頃からパソコンで図面を書いていた経験があったので、設計に転向することは苦ではなかったですね。それに、私用で持っている3D作成ソフトを用いて、自分の家の図面をつくったこともあって。根本的に、自分の手で何かをつくるのが好きなんだと思います」

「図面設計」と聞くと、経験者じゃないと難しそうだと、身構えてしまう人もいるかもしれません。小崎さんいわく、ExcelやPowerPointなど、PC操作が出来てやる気があれば、誰でも大丈夫とのこと。

未経験の部分で分からないことがあっても、社長や他の社員さんに気軽に相談しやすい環境だといいます。

今後は、お客さんに提案できる設計プランをいくつか作ってみたいと、小崎さんは言います。

「すべてを1から決めるフルオーダー住宅だと、家づくり初心者のお客様にとっては難しいんじゃないかと思われることもあるようです」

「スムーズに打ち合わせができるように、ある程度こちらから設計プランを提案できるようにしたいです」

 

事務所を後にし、向かった先は、新築の工事現場。

工事最中の建物の中に入ると、新築ならではの木の香りと、電動工具の音が響き渡ります。

出迎えてくれたのは、大工の佐藤大治郎さんです。

佐藤さんは建築の施工全般を担当し、土台を敷き、柱を建てて、断熱材を入れるなど、幅広く作業をおこなっています。

現場では、佐藤工夢店のスタッフの他にも、サッシ取付業者や電気工事業者など、複数の業者と一緒に作業にあたるので、作業工程の確認や段取りを行うことが大切です。

また、断熱施工はわずかな隙間も見逃せないため、気を使うことも多いといいます。

「佐藤工夢店の家づくりは、単純作業ばかりではなく、色々なことを経験できるので、自分の性に合っていて楽しいです。現場の雰囲気もアットホームで、ベテラン大工さんから様々な技や知恵を教わっています」

入社して4年目の佐藤さん。もともとは九州で土木関係の仕事をしていました。

手に職をつけようと大工の道に進むことを決意し、一関市にUターン。

その後、市内の職業訓練校に通いながら、大工の技術を身に付け、佐藤工夢店に入社しました。

「佐藤工夢店の会社の人達とは職業訓練校の同期だったんですよ。共に学び合う仲になり、この人達と一緒に仕事をしたいなと思ったのも、入社の決め手です」

 

佐藤工夢店では、大工未経験の新入社員でも、会社に勤めながら職業訓練校で学ぶ機会があります。

訓練校の図面課題を作成したり、講師として訓練生に教える機会があるという佐藤さん。

「大工って、弟子は親方から教わるイメージが強いと思うんです。もちろんそれも大事ですが、職業訓練校のように同じ年代の人と一緒に学び合う場があるということを、ぜひ沢山の人に知ってほしいですね」

古民家のリノベーションにも携わる佐藤さん。

一関の古民家カフェの改修にも棟梁として携わった経験があるといいます。

 

古民家の改修は、まず古民家の構造体をチェックし、いったん骨組みの状態にまで戻し、構造的に残す柱と壊してもよい柱とを判別します。

そのため新築工事と比べて工事期間が長く、より高度な専門知識が必要です。

「だからこそ、知れば知るほど面白い」と、佐藤さんは目を輝かせながら話します。

「まだまだ勉強不足なところがあるので、今後も更に古民家の勉強を頑張りたいです」

 

オーダーメイドでじっくりお客さんと向き合い、年間10棟限定で家づくりをおこなう佐藤工夢店。

お客さんのニーズが増えてきており、中には3年後に予約をされているお客さんもいるのだそう。

「今後は、クオリティを維持しつつ、受け入れ範囲を増やしていきたいです。そのためにも社員を少しずつ増やしていきたいですね」

代表の誠さんは、佐藤工夢店に向いている人は、凝り性な人だと言います。

「オーダーメイドの家づくりは、針の穴に糸を通すような場面があるんです。例えば温熱計算をして、日当たりを良くして暖房費を少なくしようと大きな窓を付けると、今度は冷房費を減らすためにひさしが必要になったり、弊社の耐震基準に満たなくなることがあります」

「そういう時にあらゆるパターンを考えて、設計や施工方法を突き詰め、最終的に住まうご家族にとって一番良いカタチを見出す考え方ができる人がうちには向いていると思います」

今後どんな会社にしていきたいか誠さんに聞いてみると、「いい意味で変な会社ですかね」と話します。

「あそこじゃないとこれはできないよねって言われるような、オンリーワンの家づくりを目指したいです。真冬でも素足で過ごせる家や古民家再生、リノベーションといった分野で、うちの会社が地域を引っ張っていく存在になっていけたらと思います」

「『一関は暖かい家が多いよね』『かっこいい古民家が残っている地域だね』といってもらえるような魅力ある地域にしていきたいですね」

古いものを守り、確立した断熱技術で、地域の人たちの暮らしをつくる会社。

ものづくりにまっすぐな人たちが、

お客さん一人ひとりの暮らしに寄り添い、長い目で家をつくり続けます。

 

 

 

取材:足利文香