岩手県一関市の中心部から、車で走らせること約20分。
北上川に架かる大橋を渡った先に、株式会社フジテック岩手が運営する自動車販売店はあります。
車を停めると、店の中からスタッフさんがあたたかく出迎えてくれました。
敷地内には、たくさんの軽自動車が並んでいて、どれも綺麗な車ばかり。
「うちのお店では、未使用の軽自動車を専門に取り扱っています。おかげさまで車検台数、販売台数ともに、一関でナンバーワンになりました」
歯切れの良い口調で話すのは、二代目社長・千葉昌嗣(まさつぐ)さんです。
株式会社フジテック岩手が手掛ける事業は、主に4つ。
農機具事業、土木建設事業、機械設備業、そして自動車販売業です。
昭和51年、昌嗣さんの父・登美夫さんが会社を設立。もともとは農機具屋としてスタートしました。
農業用ポンプの販売、農業機械のメンテナンスなど、お客さんの要望に合わせて幅広く対応。
のちに、農業機械に水を供給するための配管をつくろうと、水道・土木工事も手掛け始めたといいます。
「当時、地元からの反発は相当でした。既に農機具屋が複数ある中での創業だったので」
「でも、父は競合と対立しても、突き進んでいくタイプの人間でした。僕もそういうところは似ているかな」
一関市藤沢町出身の昌嗣さん。
小さい頃の将来の夢は、町長になることでした。
「当時住んでいた町は、お店や会社も少なく、人口減少が著しい地域でした。人がいなければ商売も成り立たなくなる危機感を、小さいながらに思っていて。だからこそ、まちづくりをしていくことが大事なんだろうなと思っていました」
大学卒業後は、外資系のIT企業へ就職。
大規模プロジェクトをいくつも担当し、経営理論や分析手法など、マーケティングの基礎を培いました。
その後、東日本大震災や父親の病気を契機に、一関市へUターンした昌嗣さん。
「IT企業で働くことにやりがいはあったものの、大勢いる社員の中で、自分の代わりはいくらでもいるんじゃないかと思ったんです。それに比べて、父のフジテック岩手を継げるのは僕しかいない。そう思い、会社を継ごうと決意しました」
しかし、当時のフジテック岩手は、従業員の離職率の高さや社員の不平不満など、様々な課題が山積していました。
会社を継いだ昌嗣さんは、その課題に向き合うために、社員全員で会議を開き、1つ社員さんに問いかけます。
「みんな、この会社を潰したいのか、維持したいのか、伸ばしたいのか。うつ伏せになってもらって、今から三つ質問するから、どれかに手挙げてほしいと」
「そうすると、潰したい人は誰もいなく、ほとんどが伸ばしたい人なんです。であれば、愚痴言うのはやめようと。前を向いて解決策を考えていこうよ。そうでないと、子供のないものねだりと同じだよ。みんな大人でしょ。って伝えましたね」
そうして社員を鼓舞し、今度は社長自ら課題解決に乗り出します。
まず行ったのが、一関市の市場調査。
地域にどんなニーズや職種が存在しているのか、前職のマーケティングのノウハウをフル活用し、一ヶ月ほど図書館にこもって調べました。
その結果、一関市は一世帯あたりの車保有台数が多いことから、地域の車関連会社も多い傾向にあることが分かります。
自動車業界の市場規模が大きいと分析した昌嗣さんは、ここにビジネスチャンスがあると考え、2015年から軽自動車専門店をスタートしました。
「何をするにも、強みを絞ること。なんでもやります!っていうのは、経営で一番失敗します。専門的な部分を追求し、ターゲットを決めてビジネスモデルを構築するのが、経営のセオリーです」
「うちの会社に関しては、まず軽自動車に絞り、競合が少ない新車・新古車を買う層をターゲットにしました。また、お店は好立地かつ広い駐車場を確保して、立地規模にもこだわりました。自動車販売業は着実に売り上げを伸ばし、今では会社の主軸事業の一つになっています」
フジテック岩手は、地域で一番給与水準の高い、大きな会社を目指しています。
やる気のある人や技術を持つ人に働いてもらえるように、社員に満足のいく給与を提供する。そのために、会社の売り上げを伸ばし、成長していく必要があるといいます。
従業員の離職率は改善され、社員数も増え続け、ここ数年で社員数は5倍以上となりました。
「今年の地域の新卒は全員うちの会社で採用します。そう言えるような会社にしたいね」
そんな社長の意気込みに惹かれて、今では若手社員の応募も増えてきているといいます。
入社して1年目、自動車サービス部の加藤怜さん。
車販売店のフロント受付担当として、車検の入出庫、整備士への指示書作成を行っています。
「お客様から車を預かる際に、運転していて不安に感じる点や、異常箇所をお聞きしています。大切なお車をお預かりしているので、安心感を与えるような接客を心がけています」
お客様の要望や車の状態を、整備士に的確に伝えるのも、フロントの大事な役割です。
「整備士さんとは、仕事中も休憩時間も、よくコミュニケーションをとっています。フレンドリーに話しかけてくれるので、車について分からないことも、気軽に聞けてありがたいです。整備士さんに限らず、社員同士仲が良く、アットホームな職場です」
もともと地元が好きで、人と接するのも好きな加藤さん。
接客業の経験を積み、地元に貢献できる力を身に付けたいという思いから、高校を卒業後、東京の飲食店で働き始めました。
地元の同級生が地域で活躍する様子を聞く度に、地元を盛り上げたい思いが強まり、この春、一関へUターンしました。
フジテック岩手に入社を決めた理由は、まちを盛り上げている印象があったからだと、加藤さんは言います。
「一関を元気にしたいという思いが伝わってきたんです。私の地域に対する思いに合っていると感じました。車に携わる職種は未経験でしたが、フロントスタッフ向けの講習会を受けたり、分からないところは先輩に聞いたりと、少しずつ覚えています」
加藤さんがここで働くようになってから、オイル交換でお店に来てくれる同級生も。
「若い世代とのつなぎ役になれたら嬉しいです」と笑顔を見せる加藤さん。
今後やってみたいことを聞くと、目を輝かせながら答えてくれました。
「若い世代やお店に来たことがない人にも、気軽に足を運んでもらえるような、縁日イベントを企画してみたいです。社長は若い社員の意見も聞いてくれるので、今度提案してみようと思います」
社長に魅せられて、会社に入社した社員さんもいます。
水道設備事業部・主任の田中真彦さんも、その一人です。
建設現場の管理者として、作業員の安全管理や、工事での成果品の品質管理などを行っています。
建築設備関係の仕事を20年以上続け、1年半前にフジテック岩手に入社しました。
社長のどういうところに惹かれたんでしょうか。
「うちの社長は、新しい技術や設備を取り込むことに余念がないんです。自動車販売業に目をつけたところも先見の明があるし、なによりエネルギッシュ」
「この人と一緒に働いたら楽しいだろうなと思って、入社を決めました」
神奈川県出身の田中さん。岩手に来る前は、大手ゼネコンで働くこともありました。
奥さんの実家がある一関に移住し、フジテック岩手で働くようになってから、仕事に手応えを感じるようになったといいます。
「地元の建設会社が主導的になって仕事を受けられる体制は、この地域ならではの良さ。大手ゼネコンが入らない分、しがらみが無く、発注者と直接やり取りができる点も、やりがいを感じる要素の一つですね」
フジテック岩手を、一関でナンバーワンの企業にしたい。
社長の思いに惹かれて入社し、実際に働くと、社長の人柄の良さに気付いたといいます。
「社長だけど、同じ目線で話してくれるんです」
「給与の話を聞いてくれたり、困ったことがあったら何でも聞くよと言ってくれたり。給与も働き方も、従業員が豊かになるにはどうすればいいか、常に追求している人です。僕たちを喜ばせようとしてくれる姿勢を見て、嬉しくなります」
社長の思いに応えられるよう、何事にもチャレンジしていきたい。
それは、新しく入社してくる人にも伝えたいことだと、田中さんは話します。
「もし、自分が尊敬できない社長だったら、若い社員に対して、会社のために頑張ろうって言えないんですよね。もっと良い会社に入った方がいいよってなっちゃう」
「うちの会社は、リーダーがビジョンをしっかりと持っているから、頑張れば豊かになれる。そう確信しています。これから入社する人にも、この社長についていこうって、胸を張って言いたいです」
フジテック岩手が目指す未来、それは「地方に選択肢をつくる」こと。
社長の昌嗣さんは、そのために地域内で一番給与水準の高い、大きな会社をつくろうとしています。
「就職の選択肢が少ないと、若い人がどんどん都会に出ていってしまう。それが岩手県の問題点だと感じています。生き生きと仕事ができて、多種多様な取り組みを行う会社が地域にあれば、自然と人は集まってくるんじゃないかなって」
会社を大きくしたい理由には、さらに続きがあります。
「子どもたちが大きくなったときに、やりたいと思えるような職種を、選択肢を、会社でつくっていきたいんです」
「例えば、パン屋や花屋といった、小さい頃に思い描くような夢のある仕事。子どもが成長して大きくなったときに、自分がやりたいと思える仕事があれば、地域に残りたいと思う人は増えると考えています」
飲食店やアミューズメント施設など、新たな事業展開も考えているという昌嗣さん。
そのためにも、まずは着々と今の土台となる事業で稼ぎ、高生産・高収益のビジネスモデルを定着させていきます。
「仕事内容も職種も幅をもたせていき、ある程度軌道に乗ったら、事業を分社化して、社員に任せていきたいなとも思っています。会社を大きくして、人を育て、町を盛り上げていく。そんな未来を思い描いています」
「チャレンジは始まったばかり。今はまだ、通過点です」
子どもたちの未来に、新しい選択肢をつくっていきたい。
町を本気で変えようと、フジテック岩手は進み続けています。
一緒に地域をつくっていきたい、その思いに答えてくれる会社だと思います。
(取材:足利文香)