家族連れで来店可能な「ファミリーサロン」を展開
岩手県、宮城県、秋田県の3県において、理容・美容業を展開するサンパチグループ。
現在は「理容サンパチ」、「美容ビー・フォー」、「理容スッキリ、「美容室くれよん」の4ブランドの経営を手掛けており、店舗数は合計26店舗にも及びます。
代表取締役の太田耕平さんがサンパチグループを立ち上げたのは、2005年のこと。
大学卒業後は医療機器メーカーに就職し、その後、地元にUターン。父親が経営する会社に勤めていましたが、「当時は若くて反骨心があった」と心機一転、自ら会社を興すことを決意しました。
起業するにあたり、何で商売していこうかと悩んだ太田さん。
そこで目を付けたのが、理容・美容業界でした。
「私の叔父が低料金の理容室を営んでいて、まずは業界の仕組みを学ぼうと思い、その店に立たせてもらいました。理容師免許を持っていないので、受付や毛掃きぐらいしか手伝えませんでしたが、そこでお店の雰囲気を味わうことができ、『これはいけるんじゃないか』と手ごたえを感じたんです。叔父のほうも、ノウハウを1から10まで全て教えてくれたので、ありがたかったですね」
そして、同年にグループ1号店となる「理容サンパチ 水沢店」をオープン。
すると、開店から3カ月で黒字化に成功。事業を軌道に乗せると、その後も県内にとどまらず隣県にも店舗を出店。事業規模をどんどん拡大させていきました。
サンパチグループが手掛ける理容・美容室は、いわゆる「ファミリーサロン」。
「どうしても低価格料金の理容室、美容室は、年配のお客様が多い傾向があります。ただ、他店との差別化を図るために、当社では若い親子連れをターゲットに考えました。子どもが髪を切るついでに、お父さん、お母さんにも髪を切ってもらう。そうして若い世代を取り込んでいこうという狙いです」
そのため、ほとんどの店舗にはキッズルームが完備されているのも、サンパチグループの店舗の特徴の一つ。
家族で気軽に来店し、楽しい時間を過ごすことができる、そんな場所を整えてきました。
業界の枠にとらわれず、働き方を柔軟に
一方で現在、理容・美容業界は、慢性的な人材不足に悩まされているのが実情です。
サンパチグループでは、その課題を解消するために、さまざまな取り組みを行っています。
その一つとして挙げられるのが、「休眠理容・美容師」の登用です。
全国には、現場で働いた後、結婚や出産で職を離れてしまう休眠理容・美容師が、約100万人いると言われています。
サンパチグループでは、そうした人材を掘り起こし、積極的にスタッフに登用しています。
「この業界は、会社同士のつながりは少ないのですが、意外と個々人のネットワークは幅広いんですよね。スタッフの方にいろいろと紹介していただきながら、休眠理容師、休眠美容師が活躍できる場を用意し、復職をサポートしています」
加えて、理容・美容業界では珍しく、パート採用を積極的に行っているのも、注目すべきポイント。
それぞれのライフスタイルに見たった働き方を提案し、人材のさらなる確保に力を入れています。
「土日が勝負の業界ですので、どうしても正社員だと、休みを取りづらかったり、福利厚生の待遇面が悪かったりします。パートとして採用することによって、たとえば子どもを持つ親の方であれば、子どもの行事に参加しやすくなりますし、よりプライベートな時間を増やせるといった良さがあります」
ちなみに、サンパチグループでは、ほとんどの店舗で予約システムをとっていません。
これには、低料金のため回転率を上げたいという営業的側面はもちろん、予約が苦手な人でも気軽にお越しできるお店にしたいという顧客目線の理由もあります。
「私は理容・美容師の資格を持っていないので、より消費者の立場に立って物事を考えています。もちろん一人一人のカットにじっくりと時間を割きたいという理由で、最初は従業員からの反発もありました。それでも、社長がやらなければ始まらないという思いで、なんとか従業員たちを説得させ、この業務形態をスタートさせました」
そうした取り組みは、各方面から反響を呼び、今ではリピーターも数多く存在。
先進的な経営スタイルで、たくさんの顧客の獲得に成功しました。
「お客さま第一主義」を社員一同で徹底
2021年6月より、「理容サンパチ 一関店」で店長を務める藤原哲郎さん。
2005年、1号店の水沢店のオープンと同時にスタッフとして加入し、以後16年間、サンパチグループを支える屋台骨です。
これまで藤原さんが大事にしてきたのが、サンパチグループが掲げている、お客さまファーストの精神。
「経営理念の一つに『お客様第一主義に徹する』という言葉があります。障がいを持った方、介護が必要な方、どんなお客様であれ、そうした方々のおかげで自分たちの生活が成り立っている。それは社長からも口酸っぱく言われてきたことなので、その思いをいつも胸にしまいながら働いています」
会社からの信頼も厚く、サンパチグループでは、新規店舗の立ち上げごとにオープニングスタッフとして配属。
カット技術の指導や、来店客をお待たせしない方法など、店舗経営のノウハウを、スタッフに教える役割も担ってきました。
藤原さんのカット技術は高く評価され、中には新規店舗が立ち上がるごとに「藤原さんに髪を切ってもらいたい」と尋ねてくるお客様もいたとのこと。
「自分の特技ではありませんが、2、3回担当すれば、その人の顔、そして好みの髪型をだいたい覚えることができます。最終的には、長さを聞かずに、鏡さえ見せずにカットする、それぐらいの信頼関係を築くことができればいいなと思っています」
とこれからの理想を掲げます。
また、「美容ビー・フォー 一関店」で勤務する金田美紗さんは、8年前の店舗立ち上げ時から働くスタッフの1人。
以前は美容室を営んでいる母親の手伝いをしていましたが「大勢のお客様を前に仕事することで、自分のスキルアップにつなげたい」との思いで、サンパチグループに入社しました。
「スタッフ同士、とても仲が良いですね。もちろんミスがあったら注意し合いますが、そこも叱る感じではなく、笑いを入れながら指摘し合っています。あまりピリピリした感じはなく、いつも楽しく仕事ができています」
オープンから年月が経ち、小学校の頃から来てくれていた常連客が今や高校生になるなど、お客さんの成長が見られるのもこの仕事の楽しさだという金田さん。
「仕事は大変ですが、お客さまから『ありがとう』『体に気を付けて』といった励ましの言葉をもらうと、明日もまた頑張ろうという気持ちになれます」
今後も自身のスキルアップに向けて、より仕事に精進していきたいと話します。
「低料金のお店ではありますが、だからと言って手を抜くことはできません。私はどちらかというと、お客さまと会話をするのがそこまで得意ではないので、常にコミュニケーションをとることを心掛けて、来てくれたお客様にリラックスしてもらえるように努力していきたいと思っています」
休憩室の貼り紙には、社員の藤原さんがスタッフみんなで心掛けたいことが掲げてありました。
積極的な仕掛けで、さらなる顧客獲得を目指す
サンパチグループでは、3年前の「理容サンパチ 大曲店」を最後に、新規店舗の出店はかけていません。
これは経営的戦略によるもので、太田さんは今、新たな事業の展開を視野に入れています。
「今、力を入れているのが、美容と呼ばれる全てのものを取り込んだ『トータルビューティー』の実現。そのために今現在、M&Aでいろんな事業体を買い取りながら、出店をかけている最中です」
たとえば既存店舗の一部を改装して、ネイルサロン、アイラッシュサロンといった店舗を併設させる。そうすることによって、また新たな顧客、ファミリー層を取り込んでいこうという狙いがあります。
「トータルビューティーを実現するためには、まずは店舗数と知名度を上げることが第一だと思っています。理容・美容分野とは違って、ネイルサロンやアイラッシュサロンにおいては、まだまだ人材確保が可能な分野。スタッフを積極的に登用しつつ、あとは理容・美容分野とうまくリンクさせながら、規模を拡大させていきたいです」
また、予約不要の理容・美容店だからこそ、よりお客様の待ち時間を減らしたいと考えており、今後は各店舗の空き状況がリアルタイムで分かるようにするなどのDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進したいと意気込みます。
そんな太田さんの座右の銘は「投資なくして勝機なし」。
経営の先輩からもらった言葉だといい、現状におごることなく、いつでもチャレンジを仕掛けなければ、会社の成長はあり得ないと言葉に力をこめます。
「新しいことをやるのが好き。常に止まっていたくない性分なんです。目標は、5年後に売上を倍にすること。まずはそこに向けて、事業の発展に努めていきます」
設立から17年、常にお客さまの目線に立ち、経営を続けてきたサンパチグループ。
その精神を忘れずに、これからもさまざまなサービスを提供していきます。
(取材:郷内和軌)
※撮影時はマスクを外していただきました。