一人一人に寄り添った 介護福祉のサービスを提案
一関市で介護福祉事業を展開する「ケアセンターいこい」が設立されたのは、今から約20年以上前の1999年のこと。
岩渕力也現理事長の父・吉郎さん(現会長)がNPO法人として立ち上げたのが始まりです。
この頃はちょうど、日本中で“少子高齢化”が叫ばれ始めていた時代。
2000年には介護保険制度が始まるなど、介護福祉事業はこれから需要が高まる産業として注目を集めていました。
「それまで父は運送屋を営んでいて、新規事業の一つとして始めたようです。初めは実家の隣の小屋でスタートしたのを覚えています」
岩渕理事長は、そう当時を振り返ります。
2000年4月、訪問介護事業と居宅介護支援事業をスタート。
その3年後には一関市三関にデイサービスセンターやヘルパーステーションなどを完備した介護・育児センター「いこいの街」を開設しました。
さらに翌年には、認知症高齢者グループホーム「いこいの宿」、ふれあい介護ステーション「いこいの泉」などを開設。
その後も地域の介護ニーズに応えて、一関市内を中心に施設を拡充させ、現在、事業所を合わせた施設の数は9つに上ります。
ケアセンターいこいの最大の特長は、利用者がニーズに応じてさまざまなサービスが受けられること。
居宅介護支援、訪問介護、デイサービス、高齢者グループホーム、住宅型有料老人ホームといった、一人一人に見合ったプランをケアマネージャーがご提案。
それぞれに寄り添った介護サービスの提供を目指しています。
また、ケアセンターいこいでは、一つの施設につき、定員を20~30人に設定。
小規模ではありますが、人数が少ない分、利用者とスタッフの距離も近くなり、より一人一人と向き合うことができるのだといいます。
ちなみに、介護福祉サービスを手掛けるケアセンターいこいですが、他の施設の多くが社会福祉法人として運営する中、設立からずっとNPO法人という形をとっています。
従来の介護施設とは違う形態だからこそ、新規事業にもチャレンジしやすい環境があると岩渕理事長は話します。
「NPO法人ですので、いわゆる普通の会社と同じような運営になります。なので、社会福祉法人の団体と比べると、事業を素早く展開できる。職員が『こんなことをやりたい』と言ったら、それに対してすぐにアプローチができます。今は、現場でのタブレット導入とICTの活用に取り組んでいます。」
利用者の笑顔が何よりの励み
2014年から、いこいの街のデイサービスで勤務する菅原恵子さん。
作業療法士の資格を持ち、機能訓練指導員として集団体操によるリハビリテーションやマッサージなどを高齢者向けに行っています。
「高校の頃、祖母が布団の上で転んで骨折して、病院に入院してリハビリをすることになったのですが、それを見学しに行ったときにこの仕事の存在を知りました。もともと、おじいちゃんやおばあちゃんが好きだったので、それから『いつかは自分もこういった仕事に就きたいな』と思うようになりました」
と介護職を志した理由を語る菅原さん。
いこいの街には現在、菅原さんをはじめ3人の機能訓練指導員が在籍。
主に機能訓練では、音楽に合わせて利用者のみなさんと一緒に体を動かしながら、運動機能の促進、体力の向上を図ります。
1回のリハビリテーションで、目に見えるような変化が現れることはまずありません。
それでも、毎日運動を続けることで、寝たきりだった方が徐々に歩けるようになることもあるとのこと。
「利用者みなさんの笑顔を見ることができたり、『ありがとう』と言ってもらえたりすると、それだけでも働いていてよかったなと思います」
そうした変化が見られたときは、菅原さんも自分のことのようにうれしい気分になるそうです。
また、利用者のみなさんに満足してもらうために、ときにキャラクターを変えておちゃらけたりすることもあるという菅原さん。
体操中は、「うさぎとかめ」「桃太郎」といった有名な童謡に合わせて手や足を動かしますが、「音痴ではありますが、自分が歌わないとみなさんも歌ってくれないので、頑張って自信を持ち、大声で歌うようにしています」と苦手な歌にもチャレンジしながら、いつも明るく元気な姿で、利用者のみなさんを楽しませています。
ちなみに菅原さんは現在、3人の子どもを持つお母さん。
産休育休をとる時期も長くありましたが、「私が休んでいる間も、代わりのスタッフが訓練の方を担当してくれて、復帰もスムーズにできました」
とそのサポート体制に感謝します。
「年上のスタッフの方とも気さくに話すことができますし、子どもを持つ職員の方が多いので子育てについてもみなさん理解があります。とてもいい雰囲気の中で仕事ができています」
現在34歳の菅原さんは、職員の中ではまだまだ若手の存在。
スタッフ同士、笑顔でコミュニケーションを取りながら、今日も目の前の仕事に従事しています。
ICT化を推進し 現場の負担を軽減
総本部で事務職員として働く佐々木一崇さんは、今から5年前にUターンし、ケアセンターいこいに入社しました。
「昔から誰かのため働きたいと思っていました」という佐々木さん。
大学で4年間、福祉について学び、卒業後は神奈川県の特別養護老人ホームに就職。現場の介護職員として働きました。
そんな佐々木さんがUターンを決意したのは、体調を崩した祖父母の介護がきっかけでした。
「幼いころに世話してもらったので、何か少しでもそのときのお返しができたら思い、地元に帰ってくることを決断しました。残念ながら、祖父も祖母も他界してしまいましたが、最後まで面倒を見ることができたのは本当に良かったと思っています」
現在は腰を痛めてしまったこともあり、事務仕事がメインとなっていますが、プライベートでも介護を経験しただけに、仕事に対する思いは人一倍。
スタッフの管理、請求書の作成といった作業に加えて、行政との話し合いや調整など、裏方として現場のスタッフを支えます。
「この仕事における花形があるとすれば、介護現場で働く人たちなのは間違いありません。だけれども、裏方である事務方のスタッフがその土台を作らなければ、花形である現場職員も働くことができない。だからこそ、見えないところでいかに努力するかが、われわれに求められていることだと思っています」
そこで最近、佐々木さんが取り組んでいるのが、介護現場における事務的作業のICT化。
たとえば、スタッフ間での連絡の共有や、報告書への記入などは、これまで紙に記入するケースがほとんどでした。
そこで、専用ソフトやアプリを導入したタブレットを各現場へ導入しました。
1回のタップで報・連・相が済ませられる環境を整えることで、スタッフの負担を少しでも軽減させようと努めています。
「現場の職員は、あくまでも利用者と直接ふれあうことがメイン。それ以外のところで時間が取られてしまうのは非常にもったいないですし、職員と利用者がふれあえる時間をいかに増やしてあげられるかが、私の務めだと思っています」
初めはICT化に戸惑っていた職員からも、今では『楽になった』との声が多く寄せられているとのこと。
「どうしても私は利用者と直接関わることが少ないので、そうした部分でこれからも、何かしらみなさんのお役に立てられればと思っています」
そう言って佐々木さんは、顔をほころばせます。
「利用者を楽しませる」 その思いをこれからも大切に
新型コロナウイルスが流行して1年半。
介護施設は、大勢の人が集まる場所なだけに、消毒、換気など、細心の注意を払いながら、感染防止対策に努めています。
これまでは利用者のみなさんと一緒に交流するイベントもたくさんありましたが、コロナ禍により今ではその機会もめっきり減ってしまいました。
「お花見をしたり、紅葉を見にドライブに出かけたりしていましたが、最近はなかなか行けていません。コロナが落ち着いたら、是非皆さんと一緒に、またお出かけしたいですね」
そんな日が訪れるときを、菅原さんは今から待ちわびています。
菅原さんをはじめ、ケアセンターいこいが大事にしているのは「利用者のみなさんを楽しませること」
「中には認知症を患っていて、感情がなかなか表に出にくい人もいるのですが、そんな方々にも一瞬でいいから笑ってもらいたい、そんな思いで日々働いています。明るく晴れやかな気持ちで過ごしてもらえれば、こちらもうれしい気分になりますので」
スタッフ全員の気持ちを代弁するかのように、最後に菅原さんは仕事に懸ける思いを語ってくれました。
今日もケアセンターいこいでは、一人一人に丁寧に寄り添ったサービスを提供し、高齢者の方々の豊かな暮らしをサポートします。
(取材:郷内和軌)
※撮影時はマスクを外していただきました。