悩みや葛藤を乗り越え、家業の農業の世界へ
トマガール 小山亜希子さん悩みや葛藤を乗り越え、家業の農業の世界へ
トマガール 小山亜希子さん一関市川崎町。市街地を少し抜けた田んぼ道を走った先に、7棟のハウスが見えてきた。
「こんにちは。」と明るい声と笑顔で迎えてくださったのは、川崎町でトマト農家を営んでいる、小山亜希子さん。
小山さんは、現在トマガールの愛称のもと、父の実家でトマトを栽培している若手のトマト農家だ。
2011年に一関市川崎町に戻ってきて、今年で農家になって11年目。
「元々私はトマトだけです。就農したときは祖父がお米を大きくやっていて、その他にトマトもやっていたっていう感じだったんですけど。祖父が亡くなったのでお米もやめてしまって、トマトだけになりました。」
現在は1年に約3トンのトマトを作っている。
トマト農家の朝は早い。夏は涼しさに勝るものはないので、もちろん朝仕事だ。
7月〜8月の農繁期の時期は、朝の3時半に起きて、4時から収穫をしている。選別したのち、5時頃にトマトを出荷するために農協にもっていく。
「大体6時半から7時頃が家族のご飯の時間なので、私はコーヒーを飲むために家に戻り、今度は道の駅にトマトを納品して、その後はずっとハウスにいるような生活をしていますね」
花巻市出身の小山さん。
小学一年生の時に一関市川崎町へ引っ越しをしたが、家の事情により、小学校高学年の間にまた花巻へ戻る。県内の大学を卒業後は、花巻温泉株式会社に4年勤めた。その後、川崎町へ来て、トマト農家を始めた。
大学卒業後の進路を考えるとき、農業は全く視野に入っていなかったそう。
では、なぜ川崎町へUターンをして農家をはじめたのだろう。
小山さんの祖父母は、二人だけで農業をやっていた。
「当時、祖母がちょっと体調を崩したんです。私が勤めていた会社はずっと勤められるような会社だったんですけどね。ただ、私1人がいなくても会社は回っていくと思っていて」
「でも、こっちの農家はもう祖母が辞めてしまえば誰もやる人がいない。私1人が戻ってきて家業を残せるのであれば残したいと思ったんです」
家業と家族のために川崎へUターンした小山さん。
「ここが一番好きじゃなかったとしても家族のところへ戻ってきたと思いますし、どんな場所で暮らしていても多分同じような感じで家族のところに戻ったと思います」
それでも、悩みや葛藤はたくさんあった。
「私は農業大学出身ではないので農業でやっていけるのかどうか不安でしたね」
「今までは父・母・妹と家族で花巻にいたけれども、私1人だけこっちに戻るので、祖父、祖母、私の3人暮らしに耐えられるかどうかとか。経済的にやっていけるかどうかとか、いろいろ悩みはありましたね、その当時は。」
その中でも、最も悩んだことは、仕事を辞めることができるかどうかということだった。
「案外辞めたくても、その場に身を置いた方が楽だったりするし、何も考えずに済む」
「ただ、戻る戻らないそれ自体じゃなくて、会社を辞めるっていう選択肢を自分が持てるかどうかっていうところが私にはとても重要で。そのためにはやめてみなきゃわからないなっていうふうに考えて。」
そこで考えられる心配事は全部潰し、不安をなくしていくことを考えた小山さん。
「こういうドン底もあれば、ああいうドン底もある。すべてのドン底をとりあえず挙げてみて、ある程度、どのドン底も耐えられるな、と思って決断してきた感じかな」
小山さんの言葉からは、仕事を辞めて川崎へUターンをするまでにたくさんの苦悩を乗り越えてきたことが伝わってくる。
一関市川崎町にUターンして生活する中で感じた魅力は、人の温かさ。
「家族であったり、友達であったり、その人たちが一関にいないのであれば私にはその一関っていうのが、ただの無でしかない。一関に魅力があるとすればやっぱり家族がいること、そしてそこで出会った人がいることっていうところかな」
家族以外との繋がりも築きたいと思い、川崎町でどういう活動があるのかを調べていたという。
「何か別のところに居場所があると、息抜きにはとってもなります。やっぱり家族以外に見守ってくれてる人がいるっていう感覚があるのは嬉しいです」
現在、川崎のまちづくり団体「川崎まちづくり協議会」の一員としても活動している小山さん。
その他にも、若手農家が集まる会への積極的な参加をしたり、市内のカフェに栽培したトマトの提供などを行ったりと、地域の人と様々な繋がりを持っている。
地域で出会った人達を「第2の家族」と笑顔で話す小山さんからは、小山さんの地域の人たちに対する愛情と信頼関係が見える。
Uターンする理由は人それぞれ。これまでと異なる環境へ行くことに多くの不安も伴うと思います。
小山さんとのお話で感じたのは、「地域の人の温かさ」がUターン後の小山さんを支えている一つでもあること。そして、それがこの地域の大きな魅力の一つだと思いました。
(取材:菊地彩華)
この記事は、岩手と学生を繋ぐ関係人口創出プロジェクト「わたしといわての研究所」のゼミの一環で、学生が制作しております。