登れるかどうか分からないもの

CRAGER’S 岩山恭賀さん

JR東北本線・水沢駅西口から徒歩7分。

商業施設の一角に「CRAGER’S(クレイガーズ)奥州水沢」はある。

2018年4月にオープンした、ボルダリングジムだ。

『長野家具』の看板が印象的な建物の外観からは、カラフルなホールドのついた壁がちらりと見える。

店内に入ると、CRAGER’S店長の岩山恭賀(きょうか)さんが出迎えてくれた。

奥州の山々を意識したという店内は、一般的なスポーツジムとはまた違った雰囲気だ。

受付カウンター付近には雑貨が置かれ、オリジナルグッズも並ぶ。
 

岩山さんは一関市藤沢町の出身。

以前は、東京で美容師として働いていた。

その時のお客さんから勧められたのがきっかけで、ボルダリングを始めた。

 

「初めて行ったジムで、同世代の若い女の子が登れたコースが、自分には登れなかったんです。それが悔しすぎて、当初2時間のプランだったのに、専用シューズも買っちゃって。一日プランを申し込みました(笑)。」

「もう汗だくになって、その日の最後の最後にようやくできた。それからですね、ハマったのは。」

 

気づけば3か月間、休みなく通い続けていた。

そんな岩山さんだからこそ、ボルダリングの楽しみ方をよく知っている。

お客さんの要望があればアドバイスもするが、初来店時の基本講習をしっかり受けてもらった後は、必要以上に口出しをしない。

 

「どうやって登っていくかを自分で考える競技なので、あまり教え過ぎると、つまんなくなっちゃうんですよね。」

「楽しむためには、できるだけ自分で考えてもらいたいんです。もちろん必要な時は、アドバイスしますよ。」

2013年には先に一関で、岩手県南初のボルダリングジムをオープンしていた。

「当時、岩手県内には盛岡の2店舗しかなくて。やっぱり自分の地元で、みんなにボルダリングを知ってもらいたいと思ったんです。」

 

その頃は美容師を辞め、既に東京からUターンしていた時だった。

美容師にはあまり未練を感じず、趣味でボルダリングができればいいと、何となく他の仕事をしていたが、転機は、父がやっていた会社「岩山商会」を引き継いだ兄からの声がけだった。

 

「『お前、うちの会社で何か事業やってみない?』って言われて、俺はボルダリングのことしかできないよって返したんです。」

『この辺りでやる人いるかね?』と兄に言われましたが、『やる場所が無いからやらないだけで、ジムがあったらやるよ』って。」

その後何日か、考え事をしていた様子の兄だったが、岩山さんのボルダリング事業を後押しし、岩山商会の事業として実現することになる。

「後に聞いた話ですが、そんな兄もお客さんが来ると思っていなかったそうで、事業としては半年ぐらいが限界だろうと考えていたらしいです(笑)」

 

最近でこそオリンピック競技になるなど、メジャーになったスポーツクライミングだが、最初の一関店をオープンする際は、かなり苦労した。

「都会だからこそ成り立つスポーツでしょ?誰が来るのこんなの?って・・さんざん言われましたね(笑)」

 

とはいえ、自信はあった。

「近くに無いからボルダリングをやりたくてもできない。できる施設があれば利用する人は必ずいる」

何度も関係者に説明して回った。

 

実際にオープンしてみると、「あれば来る」の自信が現実となった。

「オープンしたらもう、東北中から人が集まって来ましたね。」

「兄が最初の土日に様子を見に来たんですが、とんでもない人が入っていたので、ものすごいビックリしてました(笑)。噓でしょ⁉って」

一関店は、いつかワールドカップもできるようにと、海外のボルダリングジムを意識して設計した。

当時全国で5本の指に入るほどの規模を誇っていたため、競技者だけでなく、ジムを建てる際の参考にと各地から視察に訪れる人達もいた。

 

2018年、順調に2店舗目の奥州水沢店をオープンする準備をしていた矢先、土地の事情により一関店が立ち退きにあう。一関市内での移転に向けて多くの人達が動いてくれたが、移転は叶わず、閉店した。

 

次にオープンした奥州水沢店は、一関店とはまた違う作りで、壁の高さもそれほど高い印象はない。

「高い壁のジムは各地にあるんですが、高さで恐怖心を感じて足元がおぼつかなくなってしまう人もいる。初心者は上手くなれないかもしれない。だから、2号店は低い壁にしようと思ったんです。」

 

現在は、一関から通ってくれるお客さんもいたり、常連さんが仲間を連れてきたりと、良い流れもできている。利用者は30〜50代が多いが、下は小学生、上は60代と幅広い。

2022年5月からは、小学生向けのスクールも始動した。

 

最後に「ボルダリング」の魅力を話してくれた。

「最初はこれ登れるかなぁって思うんです。登れるかどうか分からないものを、何回落ちてもいいので、自分の力で登っていく」

「登りきった時の達成感ですかね。逆に言うと、簡単に登れるものほど面白くない」

 

岩山さんにはまだまだやりたいことがある。

「日本って実はクライミング強豪国なんですよ。にも関わらず、海外ほど生活に密着していない。海外だと、家族でピクニックへ行く感覚で楽しむ国もあるのに、日本にはそういう文化がない。」

 

「もっと気軽なスポーツとして認知されるといいなと思っています」

 

 

 

名称 CRAGER'S (クレイガーズ)
住所 岩手県奥州市水沢横町99
電話番号 TEL&FAX:0197-34-0626
営業時間 平日14:00-22:00 土日祝 11:00-:20:00
定休日 毎週月曜日
駐車場 有・メイプル屋上
WEBサイト http://cragers.jp/crgers_om.html
メールアドレス info@cragers.jp
Instagram https://instagram.com/cragers_oshumizusawa
Facebook https://www.facebook.com/cragers.oshumizusawa