わき道だって。

陶房マルヨウ

 

JR東北本線・水沢駅東口から徒歩10分足らず。

白い壁と木の扉が印象的な、陶房マルヨウ。

ここは菅原洋一さん・崇子さんご夫婦が、洋一さんの実家を改装し、2011年にオープンさせた陶房だ。

店内には、洋一さんの作る陶器が居心地よさそうに並ぶ。

どっしりしたイメージもある陶器だが、洋一さんの作る作品は、手に取ってみると思いのほか軽い。

「年配の方もけっこう、マグカップが軽くていいって買いに来るね」

もともとここは、洋一さんのご両親が営む、「せとものマルヨウ」という小売店だった。

「父さんの店を継ぐっていうのは小学校の時から、もう考えてた。マルヨウを継ぐって文集に書いてた」

大学を卒業し、販売を学ぶために多部門で経験できる大型スーパーに就職したが、異動のない部署に配属されてしまう。

 

2年ほど働いた後、たまたま知人のツテで、栃木県益子町で働くことになる。

「当時、一緒に働いてた人の姪っ子が益子で修行してた。その子の知り合いの親方が、若い男を探してるって言うのよ。家を継ぐのに、小売だけじゃなくて製造をやるのも面白いなと思って」

連絡先を聞いた次の日には、車で益子へ向かい、着いた日にすぐ親方に会いに行った。

「じゃあ明日から来てって言われて…で、6年半いたね」

 

技術を身につけ、2006年に家族を連れて奥州市へ戻ったものの、すぐに陶芸を職にできたわけではなかった。

「収入のために最初は工場に勤めたりもした。陶芸は土日に趣味でやればいいかって思ってたんだけどね」

「そしたら、その後就職した店が閉店して、震災が起きて。職なしの震災。もういつ死ぬか分かんねぇなと思って。先は何も見通せなかったけど、やりてぇことやっか、で始めたんだよね。2011年に」

 

滑り出しは順調ではなかった。

 

「やり始めたときは、全然ダメ。もう焼き物は売れねぇ、教室も人来ねぇ」

 

小さなクラフト市やイベントに出展する、種まきの時期が続いた。

「1日1,000円の売り上げとかさ、もうゼロもあったよ。他県に販売に行って売上ゼロとか(笑)」

 

認知度を上げるための活動を地道にしていた、そんな時期も、楽しかったと振り返る二人。

 

2014年には崇子さんが、陶房と併設する「喫茶マルヨウ」をオープンする。

「益子にいる間、私はカフェで働いてたの。益子は製陶所が運営するカフェみたいなのが沢山あるわけ。その作った陶器で提供するスタイルがいいなって思ってた。売ってるだけだと使い心地が分からないからね」

 

カフェをオープンすると、予想以上の大反響だった。

最初はもの珍しさで来る人が多かったが、次第に作品を理解してくれる人達も増えていった。

 

「手をかけたところを分かってくれるお客さんもいて、今は非常にありがたい。生活は潤ってないけどね(笑)。まぁやりたい事やってるわけだから」

 

この仕事を続けていられるのは、

「好きだからですよ」と即答する洋一さん。

 

「会社員の友達には、おめぇはやりたい事やっていいよなとか言われるよ。実際はその中で一番収入が低いんだ、俺は。でも、俺はこっちを選んで良かったな。ま、家族には申し訳ないけどね(笑)」

 

家業を継ぐというプレッシャーはなかったのだろうか。

「継げと言われてたわけじゃないけど、やっぱ意識はしてたんだろうね」

どこに惹かれたのか明確には分からないが、父の背中をみて、自然と継ぐ意志はできていた。

 

ただ、自身の子供たちにも同じようにしてほしいとは思っていない。子供たちには会社員のボーナスを経験させたいと、冗談まじりに話す洋一さん。

 

時代の変化も感じている。

「本当に変わったよね。ネットで何でもできるから。俺らの世代はもう東京行って…ってみんな思ってたと思うけど。生活が変わって、これからU・Iターンが増えるんだろうね」

 

そういう人たちにお二人から伝えたいことは。

 

「やりたいことは一回やった方がいいんじゃないかな、やりたいこと一回やって、駄目だったら考える。チャレンジしないのって何か…もったいないよね」

「我慢しなくていいし、つらい人は辞めてもいい。思い詰めてすぐ、おかしな方に行くんじゃなくて、道はいっぱいあるよって言いたい」

 

以前は陶器販売の他にも、喫茶、イベントやワークショップ、陶芸教室と、様々なことをやって来たお二人。店は賑わっていたものの、本業に専念できないもどかしさもあった。

 

「頑張りすぎていたんだよね。できることをやろうと思って。コロナ禍で、やることを絞ったよね」

 

今は、陶器のネット販売と店舗販売に力を入れる。

 

「洋一さんは、陶芸作家というよりは職人の方だもんね。それも一個のものを入魂して作る職人というより、いっぱいのものをニーズに合わせて作っていく職人」

 

「そう、俺の作品を、使ってみろ!じゃなくて、みんなが使いやすいのをまず考えるんだよね」

 

妻の崇子さんが実際に使ってみて、感想や改善点を洋一さんに伝えることもある。

 

「使いやすくて、ある程度日常使いしてもらえる。でも映えて…そこのニーズを満たすことを目指してる」

 

あくまでも必要以上の無理をしない。

自然体で話すお二人は、自分たちにとって“ちょうどいい”日常を過ごしている。

 

 

 

 

 

 

(取材:髙橋史江)

名称 陶房マルヨウ
住所 岩手県奥州市水沢東大通り3丁目1-5
電話番号 0197-23-8459
営業時間 12:00~17:00 (喫茶 現在休業中)
定休日 毎週火・水・木曜
駐車場 有(向かい長寿荘様脇に4台)
おすすめ商品 台形マグカップ
WEBサイト http://maruyounikki.blog76.fc2.com
Facebook https://www.facebook.com/maruyou.jp
Instagram https://www.instagram.com/kissamaruyou