寒い冬の朝、天気は晴れ。

「有限会社 藤和地建」という建築会社にやってきた。

 

整理収納アドバイザーの、坂下紗衣子さんに会いに来た。

ハキハキとした明るい声、そしてチャーミングな笑顔の女性、というのが第一印象。

坂下さんは、藤和地建で住まいづくりのお手伝いをしながら、整理収納のプロとして活動をしている。

そして、お子さんを育てながら仕事を両立する、パワフルウーマンだ。

 

坂下さんが、整理収納の道に進んだのはここ１〜２年のこと。それまでは住宅営業のお仕事にひたすら打ち込んでいたという。

 

「昔も今も、好きな仕事をやらせてもらっています」

岩手郡岩手町出身の坂下さん。

幼い頃から家造りに携わる大工と接する機会に恵まれていたこともあり、住宅関係の仕事に携わりたいと、漠然と思うようになった。

 

高校卒業後は仙台の専門学校に進学し、建築に関する分野を学ぶ。

専門学校に通う傍ら、飲食店でアルバイトをしていた坂下さんは、接客を通して“営業”の楽しさを知り、たちまちアルバイトにのめり込んだ。

「自ら工夫しながらセールストークをして、お客さんの心をつかむ。喜んでもらえたことが直接実感できて、嬉しくてたまりませんでしたね」

「自分が好きな住宅、そして営業。この２つをかけ合わせた仕事ができたら、素敵だろうなという気持ちが芽生えました」

 

その希望を叶えるべく、専門学校を卒業後、仙台にある工務店に就職。

地域に根ざした仕事ができる工務店で、住宅営業ウーマンとして約20年働いた。



ハードな業務ではあるが、仕事にやりがいを感じていた坂下さん。

そんな中、住まいの提供だけではなく、何か付加価値を提供できないかと考えていた時に、フリーペーパーに載っていた整理収納アドバイザーの講座を見つける。

 

もともと整理整頓や片付けが好きだったこともあり、早速資格を取得。

しかし、会社から求められることは、アドバイスの”質”よりも1棟の受注だった。

 

「自分が本当にやりたいことは何だろう？」

徐々にそう思うようになる。

ある日、机の書類が山積みになっている社員が、周りに怒られているのを目にする。

片付けが出来ないだけで仕事に支障が出てしまう。

これはまずい。

そう思った坂下さんは、資格を活かし、自主的に社内向けの整理収納セミナーを開いた。

 

「そうすると、その社員が次の日から人が変わったように、自主的に机を片付けていて。しかも会社の倉庫に棚まで作ってくれたんです」

「自ら気付き、やる気をおこす様子を見て、すごく嬉しかったんですよね」

整理収納の大切さ、そして楽しさに気づいた坂下さん。

会社と掛け持ちしながら、社内や社外セミナーで整理収納アドバイザー講師を務めるようになる。
 

 

その数年後に結婚、出産。

さらに当時勤めていた工務店が閉店し、生活環境が一変した。

それまでは仙台に住み、一関市に単身赴任していた旦那さんと週末だけ会うライフスタイルを送っていたが、仕事や人生を見つめ直すチャンスと捉え、2020年に一関市へ移住する。

 

「一関に引っ越す前は、どうしても”田舎”のイメージがあって、暮らしにも子育てにも不便なのかなと思っていました」

「でも実際に移住してみると、人があたたかく、車での移動が本当に楽！子育てにも適していて、とても暮らしやすい街だと気付きました」

 

子育てを楽しみながら、「自分にしか出来ない、好きな仕事をしたい」と強く思うようになった坂下さんは、2021年に整理収納アドバイザーとして「naturally style」を開業する。

坂下さんの強みが見事にかけ合わさる。

 

これまで培ってきた住宅業界の経験によって、収納物の図面をその場でスラスラと書く。

営業で身につけたヒアリング力は、お客さんのニーズやビジョンを的確に導き出す。

 

まさに、唯一無二の強み。

「その人が何を大切にしたいのか、どんなことを求めているのか、心の深い部分までヒアリングすることを大切にしています。そして、片付けることで得られるメリットを、本人に具体的に気付かせてることを大切にしています」

 

「例えば、探しものがなくなれば、時間に余裕が生まれますし、喧嘩が少なくなって人間関係にも良い影響をもたらします。整理収納って、単純に部屋が片付くことだけではなく、人の暮らしや心に直結することだと思っていて。実は奥が深いんです」

 

坂下さんの人生ビジョンは、「縁ある方のお手伝いをし、キラキラ輝き子供や仲間の希望となる」こと。

 

現在は知り合いの会社から依頼を受ける他、知人の紹介でつながった県外に住む人とオンラインでやり取りをしている。

子育てをしながら、ご縁のある人の役に立つ仕事が出来ていると、自信を持って話す坂下さんは、力強く輝いている。

 

坂下さんには、もうひとつの夢がある。

 

整理収納を教育の一環に入れた、保育園をつくること。

 

自身の子育てがきっかけで、子供にこそ片付ける力を身につけるべきだと実感してきた。

「子供に対して片付けを促す時に、声掛け一つで子供の反応って全く違うんですよ。頭ごなしに強制するのではなく、子供の立場に立って、片付けの必要性や楽しさを伝えれば、子供は分かってくれます」

「片付けが出来るようになると、論理的思考が身につき、人への伝え方も上手になります。この街が、そんな子供たちで溢れるようになったら素敵だなって思うんです」

 

「夢は言葉にすると叶うっていうからね」と笑う坂下さんの周りには、明るい陽がきらきらと差し込んでいる。

 

 

（取材： 足利 文香）