里山だから出来ること。山間地農業のロールモデルを目指して。
合同会社 木漏れ日農園 鎌田 大地さん里山だから出来ること。山間地農業のロールモデルを目指して。
合同会社 木漏れ日農園 鎌田 大地さん
宮城県北東部、岩手県との県境に位置する登米市東和町。
見渡す限り広がる山林や田畑に、「コケコッコー」と声高らかに鳴く鶏たち。
日本の原風景ともいえる、農村部の里山風景が広がる地域だ。
なだらかな丘を登った先に、畑やビニールハウスがそびえ立つ農園と、
その農園を眺める一人の男性の姿があった。
『合同会社 木漏れ日農園』を経営する、鎌田大地さん。
この地域ではかなり若手の農家だ。
農園の畑の広さは160アール。
年間を通して野菜70種、ハーブ20種、登米市伝統野菜16種を農薬化学肥料不使用で栽培している。
ちょうど取材した時期は収穫真っ只中。
「作業に追われ、頭も体もフル稼働の毎日です。でもその分、充実しています。」
そう言いながら畑を見つめる鎌田さん。その眼差しは煌めいている。
登米市に生まれ、米作りを行う父方の祖父母の姿を見て育った鎌田さんは
高校2年生の時に就農を決意した。
しかし、両親と祖父母には「儲からないからやめた方がいい」と反対される。
地域でも有数の米農家だった祖父母に反対されたことは
ショックだったが、何としてでもやってやろうと、俄然やる気がわいたという。
「その頃、林業を営んでいた母方の祖父母の家は空き家になっていて、農地も荒れ放題でした。
何とかしたいという思いから、山間地域農業の成功例を調べてみると
農林畜産業の複合経営の存在を知ります。
これなら母方の祖父母の土地も、父方の農地も活かした農業が出来る!と思いました。」
より将来のビジョンを明確にした鎌田さん。
その後、農業経営を学ぶために東北大学農学部に進学を決めた。
大学在学中は、勉学に励む傍ら、
若手農家コミュニティに参加し、農作業の手伝いや
森林管理を行うNPO法人で木こりの修行をするなど、
技術とつながりづくりを着実に行っていった。
また、在学中から祖父母の土地に通い、
畑や林、住宅を整備しながら試験的に栽培を始めた。
そして、卒業後すぐに「木漏れ日農園」という屋号で農業をスタート。
農家になるという夢を有言実行した。
20年以上耕作放棄されていた土地を、ほぼ手作業で開墾した鎌田さん。
始めた当初は、「こんな土地で作物が育つのか」と不安を抱いていたが、
実際に収穫してみると、味も香りも強い野菜ができあがった。
その理由は、畑を囲む豊かな里山にあったという。
「本来、ここの土地は山間に位置しており、
効率的に生産を行うことが出来ないとされています。
ですが、落葉広葉樹が多い里山に囲まれた畑は、
長年その落ち葉が堆積し、腐葉土層がつくられます。
また、害虫が発生しても、それを食べる益虫も多く、
無農薬であっても被害はひどくならない。」
「自然のサイクルに任せれば、野菜は元気に育つんです。
ここで育てた野菜を食べていると、自然からエネルギーをもらえる気がします。」
鎌田さんが手がけるのは野菜だけではない。
里山に生息する日本ミツバチの養蜂や、
純国産鶏もみじの平飼い自然卵も飼育している。
他にも、きのこの栽培、山の倒木処理や間伐、狩猟なども行う。
ミツバチは野菜や果樹の受粉に役立ち、
鶏は環境保全米のクズ米や廃棄野菜がエサやおやつとなり、
糞は畑の良質な肥料として還元する。
間伐等で得た木材は薪等に利用しており、薪ボイラーできのこの菌床栽培を行う。
農業、林業、そして畜産業といった複数の経営を行うことで
相乗効果が生まれ、それぞれに恵みをもたらしている。
この土地ならではの”循環型社会”だ。
「自然に恵まれた土地だからこそ、
生態系が豊かで自然の循環を生み出す仕組みが根付いています。
やることが多くて大変な分、出来ることが多いのは嬉しいですね。」
そう言いながら、のびのびと育つ鶏たちに目を見張る鎌田さん。
鶏たちもどこか誇らしげだ。
最初は1人で始めた農園だったが、
就農して7年目になった今年は、大学時代の友人を雇用し、
さらに活動の幅を広げようとしている。
「ロールプレイングゲームで言ったら、やっと1面のボスを倒したところです(笑)
自分が思い描くストーリーにはまだまだ遠い。あと30年はかかるかな。」
「それくらい、やりたいことが山ほどあるんです。
直売所兼加工場を整備して、惣菜等も販売したいですし、
短角牛の放牧もやってみたい。」と、夢を膨らませる鎌田さん。
そのバイタリティに驚かされるとともに、
どうしてそんなに沢山のことが出来るのだろう。
「昔からそうなのですが、1つのことを極めるよりも
複数のことを広げる方が好きなんですよね。
テストで100点満点を取るよりも、70~80点をまんべんなく取るのが得意で。
常に新しいことにチャレンジしているのが楽しいんです。」
整理整頓とか後片付けは苦手なんだけどね、とやんちゃに笑う鎌田さん。
「それに、自分で作れるものが多ければ多いほど、
自然災害や気候変動、経済が不安定になったときに、しなやかに対応できます。
好きな品種を、好きな栽培方法で、好きな味に育てられるって、面白い。
そういった豊かさを、この地からもっと伝えていきたいなと思います。」
山間地で楽しく稼ぐ「百姓」として、自らがロールモデルになることで
地域に若者を呼び込みたいという鎌田さん。
心豊かに暮らしながら楽しく農業をしている鎌田さんの姿は、
農家を目指す若者にとってはもちろん、住まいや働き方を見つめ直す人にとって
大きなヒントになると思います。
私自身、チャレンジ精神豊富な鎌田さんのお話を聞いて、
「何事にもチャレンジしてみよう!」と自信が湧いてきました。
「鎌田百姓」の思い描くストーリーは、まだまだ動き出したばかり。
これからも農園を、そしてこの地域を、ユニークに耕してくれることでしょう。
(取材: 足利 文香)
名称 | 合同会社木漏れ日農園 |
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住所 | 宮城県登米市東和町米川東上沢283-2 |
販売先 | 食べチョク( https://www.tabechoku.com/producers/21755 )など |
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Webサイト | https://komorebinouen.com |