楽しいことをひたむきに。最高のクラフトビールを届けたい。

315BEER(サイコービール)  岩淵 俊さん

最近、「地ビール」や「クラフトビール」という名前をよく聞くようになった。 それぞれの土地の個性を楽しめる、小さい規模でつくるビールのことを指す。 岩手県は全国の中でも地ビールやクラフトビールが多いことで有名だ。

JR 水沢駅から徒歩 10 分、商店街から少し外れたところに、 クラフトビール工房「315BEER(サイコービール)」がある。
2020 年 6 月、奥州市初のクラフトビール工房としてオープンした、小さな工房だ。

「315BEER」の「315」は、オーナー岩淵俊さんの誕生日。
「315 はサイコーと読みます。最高、再考、再興。 いろんな意味に変換できる、語呂の良い名前だと思っています。 ちなみに、自分のお店が一番!最高!っていう意味ではないです(笑)」 と、冗談も交えつつ爽やかに答えてくれた。

岩淵さんの生まれは花巻市。小学校の途中から高校まで奥州市水沢で育った。

高校卒業後は仙台デザイン専門学校に進学し、インテリアデザインを学んだが、

自分がどの道に進みたいか、いまいち定まらなかったという。

 

「当時、僕は人見知りで、周りに流されやすい性格でした。

卒業後の進路も、友人がたくさん住んでいて楽しそうだという理由で上京しました。

バイトをしながら東京生活を送っていましたが、

特に目的もなく上京しちゃったもんだから、そりゃあ面白くなくて。

人見知りだから新しいコミュニティに飛び込めるわけでもないし…。

今になって思うと、あの時いくらでも失敗しておけば良かったなと思います。」

 

失敗が怖くてなかなか吹っ切れなかったあの頃を思い出しながら、

懐かしそうにしみじみと語る岩淵さん。

 

 

その後、1年ほどで水沢へUターンした。

金銭的な理由もあるが、地元にいる仲間たちが

楽しく過ごしているように見えたのも、Uターンの要因の一つだった。

「楽しそうな場所に行くタイプですね。そこは昔から変わっていないです。」

 

そして、この頃からぼんやりと、『いつか自分のお店を開きたい』と思うようになる。

自分のお店を開いたら楽しそうだ、という直感があったからだ。

 

 

Uターン後は、特にやりたい仕事もなく、お金を稼ぐために自動車製造会社で働いた。

また、もともと音楽が好きな岩淵さんは、会社員をしながらDJ活動をするようになり、

街のクラブで仲間たちと音楽を楽しむ日々を過ごしていた。

 

しかし、徐々に仲間たちが結婚や転勤等を機に地元から離れていき、

DJイベントにも人が集まらなくなっていった。

「仲間たちが地元から離れていく寂しさと、地元が変わっていく様子を目の当たりにして、

自分はこのまま会社員としてなんとなく過ごすだけの

人生でいいのだろうか?と考えるようになりました。」

 

自分の好きなことを活かして堂々と生きていきたい。

この頃から本格的にお店を開こうと思うようになっていったという。

 

しかし、お店を開こうにも、どのようなお店を開くかが定まらない岩淵さん。

転機は35歳の時。たまたまテレビで

クラフトビールを特集したドキュメンタリー番組を観た。

 

直感が働く。「これだ!」岩淵さんはクラフトビールにくぎ付けになった。

「ビールはもともと好きでしたが、

そのテレビ番組を観て初めて、ビールを自分で作れることを知って。

しかもビールは、音楽とも相性が良いので

自分の好きなビールと音楽を掛け合わせられる。これは最高だ!って。」

 

「ビール工房をつくって、フェスイベントを地元の公園で開催して、

そこで自分のビールを提供できたら最高だなぁと、

勢いよく妄想が膨らみましたね(笑)」

そして、15年間勤めた会社を退職し、地元でビール工房を開くことを決めた岩淵さん。

とはいえ、何から手を付け始めればいいか分からないので

友人に相談して、酒蔵やビール醸造所へ話を聞きに行くことに。

そこで山梨県のブルワリーを紹介され、1ヶ月間醸造の研修を受けた。

 

研修後は、外国人醸造家が営む北上市の《さくらブルワリー》で

バーのスタッフをしながら、醸造の勉強に勤しむ。

お店の場所探しや改装など、着々と準備が進んでいった。

 

やると決めたら、一直線。

お店のロゴは、音楽イベントで知り合ったアーティストにデザインしてもらい、

お店の改装は仲間たちに手伝ってもらいながらDIYをした。

様々な人の力を得て、準備から2年、ついに「315BEER」が誕生した。

 

オープン当初は地元の飲食店にビールを卸して、

お客に飲んでもらう機会をつくった。

すると、徐々に口コミによってビールの存在が広まるように。直接お店に来てくれる人が増えていった。

 

「有難いことに、お店に来てくれる人達はみんないい人ばかり。

お店に飾られているアート作品も、知り合いに描いてもらったものです。

人のご縁に恵まれているなと思います。」

 

あたたかい人とのつながりが、お店の雰囲気を通して伝わってくる。

クラフトビールの売り方は、「量り売り」。この辺りでは珍しい販売スタイルだ。

瓶を使わないため資源ごみを大幅に減らせるという利点や、

新鮮なうちにビールを飲んでもらえるという狙いがある。

 

また、クラフトビールの副原料には地域ならではの素材を取り入れている。

地元のカフェ《cafe地球屋》の珈琲を使用した黒ビールや、

奥州市江刺のブランド米《金札米》を使用したIPAなど、

素材の味を活かした新しいクラフトビールづくりに取り組んでいる。

「地元の素材と掛け合わせてビールをつくるのは楽しいです。

クラフトビールを通じて、地域内で循環する仕組みをつくっていきたいですね。」

 

ビールのことを考えているときの岩淵さんの表情は、とても楽しそうで、生き生きとしている。

「楽しいこと」への直感を信じて、今のクラフトビール工房を実現した岩淵さん。

たとえ知識や技術が備わっていなくても、想いと行動が伴えばカタチになるということ。

そして、自分の楽しいことや好きなことに正直であることが、

夢への実現において、何よりも大切なことなのだと教えてもらったような気がします。

 

自分の直感を正しいと信じる力。

楽しいと思う方向へ進む勇気。

自ら体現した岩淵さんの姿は、これからチャレンジする人や悩んでいる人にとって

ひとつ、道標になると思います。

 

 

(取材: 足利 文香)

名称 315BEER(サイコービール)
住所 岩手県奥州市水沢袋町6-26
電話番号 080-3338-9362
営業時間 金 16:00〜19:00 土 15:00〜18:00 現在、量り売りのみ
定休日 日曜日定休、不定休 ※他曜日、時間帯にお求めの場合は事前にお問い合わせください。 ※新型コロナウィルス感染拡大を受け、営業形態および営業時間が変更されている場合がございます。詳しくは店舗までお尋ねください。
駐車場
予算目安 ¥1,710/L ¥160~180/100ml
おすすめメニュー IPA、Coffee Stout ※その時によりラインナップが変わります
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