自分の「好き」に正直に。生産者の想いを料理に載せる。

SATO 佐藤 渉さん

余白があるから、心地良い。

 

世界遺産の街、JR平泉駅前。

電車の発車音が鳴り響く。

急ぎ足で歩く通勤通学者。

ベンチでひと休みしているおじいさんの姿。

当たり前の日常が動いていく景色の中で、ひっそりと、控えめで、どこか心惹かれるお店があった。そのお店の名前は、「SATO」という。

 

店名の「SATO」は、店主・佐藤渉さんの苗字から由来している。平泉駅前という好立地にお店があるのは、ここが佐藤さんのご実家だからだ。

 

 

高校卒業後、埼玉県の大学に進学した佐藤さん。そのまま県外で就職した後、埼玉県の飲食店で修業を重ねた。

その後、いずれ地元に戻りたいと思っていた佐藤さんは、埼玉から平泉へUターン。自分のお店を持とうとした時に、ご実家が店舗貸ししていた場所を譲り受けることになる。


カフェを開いた理由を聞くと、自然な表情で語り始めてくれた。

「毎月決められた給料で、自分の役割が分からないまま 企業で働くのは性に合わないなぁと思っていました。もっとシンプルな仕組みで、自分の考えを仕事に反映させたくて。だから、自分の考えていることや好きなものを表現できるお店をつくろうと決めました」


「それが結果的にカフェになっていきましたね。都会の方は情報が多すぎて自分のメッセージが伝えづらいけど、ここなら表現しやすいかなって」

 

 

素材の良さを活かして、「丁寧さと愉しさ」をテーマに料理を提供している佐藤さん。自分を自由に表現することを大切にしており、 お店のメニューにも、佐藤さんの型に捉われない自由さが表れている。

オープン当初から人気の「ゴボウと菜種油のしっとりショコラ」をはじめ、春のフキノトウを使用した「ばっけとゴルゴンゾーラのロールケーキ」など、そうきたか!と思わされる、意外なメニューが多い。

 

 

ショコラには一関市〈デクノボンズ〉の菜種油を使用。香ばしさとパンチのある味だ。

「パンチのあるものにはパンチのある食材を、ということで 香りの強いごぼうと、パンチが強いチョコレートを使いました。これが見事にマッチング」

ケーキの勉強はほぼしておらず、料理をする感覚でケーキをつくっている佐藤さん。だからこそ新しいジャンルに挑戦しやすいのかもしれない。

 

 

SATO で出すメニューは、佐藤さんがいいと思った食材を使っている。

これも、佐藤さんの自己表現だ。

素材を選ぶときの決め手は生産者、ずばり「人」。

「よく、「地産地消」とか「オーガニック」という言葉がありますが、そういうカテゴリにはあまり捉われたくなくて」

「僕の場合はもっと感覚的で、生産者の「人」がテーマですね。生産者さんがどういう想いで食材をつくっているか、かみ砕いてメニューを考えるのが好きです」

 

 

例えば、お店の看板メニューでもある特製ロールキャベツ定食。北上市で無農薬野菜を育てる〈ヤサイノイトウ〉の野菜や、二戸市の〈久慈ファーム〉で育った「廃鶏」がつかわれている。

生産者のもとへ直接会いに行って、丁寧に話を聞く。生産する側の想いや生産する過程を知るのが面白いと、佐藤さんは言う。

 

その中でも、特に印象に残ったエピソードを聞いた。

SATOでは、魚をメインにした「海定食」というメニューがある。

 

 

「うちの店のお魚は、大船渡の仲卸業者〈すがの水産〉の菅野くんにお願いしています。コロナ禍で、飲食店が大打撃を受けたのと同じように、仲卸業もまた苦しい状況。僕は彼に会いに行って話を聞いて、切実さを知りました」

それまでは大きな卸屋とも組んで、良いお魚を仕入れていましたが、思い切って菅野さん一本に仕入れをお願いすることに決めます。

「そうすると必然的に、今まで取り扱っていたメニューが作れなくなってしまうこともあったりして。ブリとか真タラばっかりの日が続くことだってあります(笑) でも、今の方が断然気持ちいいです。人との関係性を大事にできていることに、胸を張っています」

 

 

素材としてこだわるという言葉の先には、人との関係性を大切にすることにある。SATO から生まれる料理には、おいしいだけではない、素材から感じられるうま味がじんわり溢れているようだ。

何より生産者に直接会いに行ける今の環境は、素材を選ぶことや知ることが楽しいという佐藤さんにとって、まさにぴったりな環境。

 

 

それでも、素材にこだわっているということを敢えて主張しない。

分かる人に分かってもらえたらそれでいい、というスタンスだ。ゆとりのある心構えが、お店の居心地の良さにつながっている。

飲食の場としてはもちろん、店内に流れる BGMや、本、器、ディスプレイなど、空間づくりも大切にしている。音楽やアートイベント、陶芸の個展なども開催しており、佐藤さんの価値観を共感する人々が集まるようになってきた。

 

自分が心地良いと思えるものを、共感してくれたら嬉しいし、是非気軽に話しかけてほしい、と佐藤さん。「器のことだけでも、10分は軽く話せますよ」とおちゃめに笑う。

 

 

カフェのようでカフェじゃない、そこに SATO の個性があるように感じる。お店をひらく上で大切にしていること、それは「余白を残す」ことだと佐藤さんは言う。

「うちのお店は、コンセプトを決めていません。お客さんの中には、SATO のことを単純に飲食店と捉えている人もいれば、美術館のようにお店を楽しんでくれる人もいます」

「お客さんが好きなようにお店を解釈して良い。それぞれが居心地よく過ごしてほしい。だからこそコンセプトは敢えて決めず、余白を残しておくことを心掛けています」

 

 

お客もお店も、気を張らずに自然体でいること。

佐藤さんの言葉には、一貫性があり、物事を定義づけしない潔さを感じました。

山から流れる水のように自然に流れて、さらさらしていて心地良い。

 

自分が好きなもの、大事にしたいものに正直であるが故に、合う人合わない人がいることは確か。でも、それでいいと割り切っている佐藤さんは、とても清々しくて、かっこいい。

 

自分は何がしたいんだろう、と悩んでいる方がもしいれば、お店に行って、ぜひ佐藤さんとお話してほしいです。答えは見つからなくても、腑に落ちる何かがきっとあります。

見える景色が少しだけ、鮮やかになりますよ。

 

 

(取材: 足利 文香)

名称 SATO
住所 岩手県西磐井郡平泉町平泉字泉屋73-4
電話番号 0191-48-5011
営業時間 11:30~17:30(17:00L.O) ※お食事ラストオーダーは14:30
定休日 月曜日・火曜日(祝日除く) ※新型コロナウィルス感染拡大を受け、営業形態および営業時間が変更されている場合がございます。詳しくは店舗までお尋ねください。
駐車場 有(平泉駅脇にある平泉町観光案内所そばの契約駐車場内奥に4台、他4台ご用意あります)
席数 16席
予算目安 食事: ¥1,100~ 喫茶: ¥420~
おすすめメニュー 特製ロールキャベツ定食、自家製ケーキ
お子さま対応 こどもカレーあり
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WEBサイト https://www.sato2015.com