内なる情熱を秘めた、静かに佇む珈琲店。

 

「タイムスリップしたみたいだなぁ」 思わずつぶやいてしまう、大正時代の建造物がありました。

ここは、一関市千厩町にある ”千厩酒のくら交流施設”。もともと国指定有形文化財である酒蔵や白壁の住宅を活用した場所です。

 

施設内を歩いていると、ひっそりと佇む喫茶店を見つけました。

4年ほど前に施設内にオープンした「珈琲樂(うた)」。

扉を開けてみると、レトロモダンな空間が広がっていました。

カウンター席4席、2人掛け席2つの、小さな自家焙煎珈琲店。暖色系のライトに心が和らぎます。

窓が多いのが印象的。手前に飾ってある薔薇はマスターの誕生花なのだとか。

 

珈琲焙煎機が豆を挽く音。珈琲のいい香り。

双方がふわっと舞い込んできて、思わずにっこりしちゃいます。

入口近くにはコーノ式の珈琲焙煎機が輝きを放っています。

 

「好きなところに座っていいよ」と、声をかけてくれたのは店主の佐藤勝正さんです。

ダンディーでフレンドリーな佐藤さん。

 

一関市室根町出身の佐藤さん。

佐藤さんが珈琲を好きになったきっかけは、ほぼ日刊イトイ新聞の「カッパとウサギのコーヒーさがし」という連載ものを読んでから。

その連載に珈琲樂さんも掲載されたこともあるのだとか！(ぜひご覧あれ)

好きなサイトに、自分のお店が載る。こんなに嬉しいことはないでしょうね。

珈琲を好きになって最初に手に入れた、コーノ式のドリッパー。

 

珈琲に興味を持ってから、それまでお勤めしていた会社を辞め、 珈琲サイフォン株式会社(コーノ式ドリッパーを製造している会社です)が主催する珈琲塾で、珈琲の知識を学ばれます。

その後一関市でカフェを開こうと思った時に、商工会から紹介されたのがこちらの場所だったのだそう。もともと酒蔵の事務所だった建物を改装して、趣のある珈琲店に生まれ変わりました。

しずくの形が愛らしい。雫石町「おりつめ木工」さんのものです。

これまでの経緯を聞いてワクワクしながら、 早速、珈琲を一杯淹れていただきました。

好みの味を伝えたところ、「エチオピア モカ」をおすすめされたので、いただきます。

「ここ、映えるよ」と、いちおしのスポットでパシャリ。

飲んでびっくり。え?これ珈琲?驚き顔の私に、ニコニコの佐藤さん。

こんなにやさしい味の珈琲が今までにあっただろうか...。口当たりがやわらかく、ふわっと珈琲の香りが広がり、喉をとおると甘くてすっきりした味へと変わっていきました。

珈琲を飲むと胃が荒れてしまう人にも飲みやすいものを目指して、考え抜かれた珈琲。これなら何杯でも飲めちゃいます。

 

そして、珈琲にはスイーツでしょ!という方にはこちら。

ぷるん、つやっつや。圧倒的存在感...!

皆大好きコーヒーゼリー。

もちろん珈琲樂特製でございます。

苦みはなく、珈琲の甘みと酸味があって、個人的にコーヒーゼリーの概念を良い意味で覆すような、大発見の味でした。

コーノ式のドリッパー、今度買おうと決心。もちろん珈琲豆も購入できます。

その他にも、常連さん向けに音楽イベントやカメラ教室などを開催し、好評を博しているとのこと。

県内で開催されている珈琲イベントにも出店されているので、そちらにも是非足を運んでみては。

 

それにしてもここは不思議な場所です。

外の看板を見ていると、「それ、俳優の渡辺謙さんに書いてもらったよ」とサラリとおっしゃる佐藤さん。

 

...今、なんと?

達筆な字。まさか渡辺謙さんが書かれていたとは。

開いた口が塞がらない私に、さらに「別の看板は谷川俊太郎さんが書いてくれたよ」と佐藤さん。

いやいや豪華すぎます。たまげた。

看板の意味合いがまた変わってきて面白い。

そんな、ミラクルなつながりが生まれる、珈琲樂。

佐藤さんだからこそ引き寄せる何かがあるのでしょう。

珈琲へのただならぬ熱い想いと、静かな雰囲気の店内。このギャップが心地良いのです。

こだわりの珈琲を、ご賞味あれ。

 

 

（取材： 足利 文香）