売れるけど「出さない」地元重視が成長への近道
ビーバーの歴史は長い。もともとは1970(昭和45)年にかつて白山市にあった福屋製菓が開発したお菓子だ。細長い形がビーバーの歯に似ていることが商品名の由来。地元で長年愛されてきたが、福屋製菓の経営難により2014年に北陸製菓が従業員やレシピを引き継ぐことになった。もう一つの主力商品は、1925(大正14)年から製造するビスケットだ。代名詞の「ハードビスケット」は北陸以外ではあまり目にする機会がない商品だが、キャラクターの版権を活用したビスケット、クッキーは子供向け商品として広く流通しており、実は全国で知らないうちに食べている人も多いのである。「特に北陸地方で売られている米菓では大手に負けないシェア率があります」髙﨑さんは胸を張る。
「白えびビーバー」は、北陸限定の商品だ。注目を浴びて以降オリジナルのビーバーやカレー味は県外出荷が大幅に増えたが、「白えび」は未だに北陸三県でしか買うことができない。都内の問屋には「絶対に売れるから『白えび』を出してくれ」と再三にわたって頼まれたが、髙﨑さんは揺るがなかった。すぐに手に入りやすくなればあっという間に魅力は失われる。北陸製菓は今後も「ビーバー」という地元で50年以上親しまれる菓子文化を継承すべく、看板になった「白えび」を北陸限定とし徹底的に守ることにしたのだ。限定化によって白えびビーバーが買える小売店の利益は伸び続ける。最近は北陸にある製菓メーカーと認知されたことによって、人気映画のご当地コラボも実現した。「目先の利益にとらわれなかったことで、まだ知らない伸びしろがあることに気付くことができた」。地元重視の姿勢が、かえって成長への最短距離だったのである。
アレルギーの少ない米菓、小ロット生産の強み
あられ菓子製造から始まった北陸製菓だが、米菓はいま世界で脚光を浴びている。コメは小麦に比べてアレルギーを持つ人が少なく、どの国でも受け入れられやすいのだ。同社では時流に合わせて、ビスケット、クッキーでも無添加やグルテンフリーなどさまざまな要望に応えられる新製品の開発にも余念がない。健康志向にも先手を打ってブランディングに取り組んでいる。「いつか大企業が参入したとしても、北陸製菓を選んでもらえる理由づくりを続けていきたいと思っています」。海外進出も目指すなか、地元に根ざした企業だからこそできる差別化がある。原料のコメは北陸産にこだわっており、生産者への支援も惜しまない。「北陸のさまざまな人達に助けられてきた。いいときも悪いときも身近でありたい」。名物キャラクターの着ぐるみは、依頼があればどこへでも無料で「出張」する。八村選手への恩返しから最近は北陸を中心としたバスケットボールチームや関連団体と良好な関係を築いている。
お菓子が好きであること
老舗企業としては珍しく、長年勤めている先輩たちに負けずスピード感ある若手も最前線で活躍している。そんな同社にはどのような人材が適しているのか、インタビューの最後に髙﨑さんに伺った。
「まずお菓子が好きなこと、そして自分の意見をはっきり言える人ですね」。良くも悪くも現状を客観的に捉える人が向いているという。「言い訳する前にまずやってみるというチャレンジを応援したいんです」。お菓子は子どもから大人まであらゆる人々が口にする。慣習や思い込みにとらわれていると、お客さまに受け入れられるものは作れないと髙﨑さんは考えているようだ。
米菓を軸に、地元に腰を据えて快進撃を続ける北陸製菓。派手なロングシュートではなく堅実なドリブルで、着実に前進を続けている。