「ごちゃまぜ」が合言葉
一見すると不思議にも思えるビールや牧場、農場との組み合わせは過疎化が進む能登地域で障害者の生活場所と働き口の不足を同時に解消するのがねらいだ。能登半島は酒や醤油、味噌など発酵、醸造の文化が息づいており、ピザやビーフカレーなど地元食材を生かした多国籍料理は地元の生活にもうるおいを与えることができる。観光振興や雇用創出などさまざまなメリットを生み出す先進的な取り組みである。
「ごちゃまぜ」は佛子園各施設での合言葉だ。障害の有無に関わらず、たがいに個性を認めながらともに働くことを目指している。近年ではどんな人でも社会の構成員として支え合っていくべきとする「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」の考え方も主流になってきた。佛子園の「ごちゃまぜ」はまさにこの社会的包摂を先取りした発想だったと言えるだろう。
施設内で働く上で大切にしているのは、人を好きになることと、挑戦を恐れないことだ。
日本海倶楽部では単なる支援にとどまらず地域で生活する上での基盤づくりを重視しており、福祉の専門家だけでなく、地域に貢献したいとの思いで就職する従業員も多い。竹中さんも前職はホテルの営業。さまざまな仕事をこなしたが妻の妊娠を機に退職。営業で培った経験を買われて2000年に日本海倶楽部に加わった。福祉施設はまったくの未経験だったが、施設内で障害者と関わっていくうちに、社会福祉に携わるようになったという。研修やジョブローテーションによりさまざまな経験を積むことができるのも特徴。最近では県外出身の人も増えているという。
誰が相手でも必要な技術だった
そんな移住者のひとりが施設内で支援員の奥村さんだ。大学で地域について学んでいくなかで、日本海倶楽部のことを知った。
「入所者を支援しながら、地域のコミュニティづくりにも取り組めることが魅力的でした。バックグラウンドの異なる多様な人たちが共に暮らす場をつくりたいという想いがあったんです」
理想を胸に飛び込んだ日本海倶楽部だったが、奥村さんにとって福祉は全くの専門外で「想像もできない世界」だったという。
「でも新任研修で福祉のことをたくさん学べるし、先輩の指導も的確で未経験者でも安心してスタートできました。同僚の支援員も異業種からの転職は多いです」と教えてくれた。
障害者支援の業務を行う中で、新たな発見もあった。「障害者とひとまとめにしがちですが、本当にいろいろなタイプの人がいるのだなと感じました。認知や行動もさまざまなので『この人にはどんな伝え方をしたらよいだろうか』と対応を考えることになります。でもそれって誰が相手でも必要な技術だと思うんです」
現場を通じて相手の能力や行動に応じたコミュニケーションの必要性に気付いたという奥村さん。レストランで入所者と一緒に働きながらの就労支援は得難い経験だと笑顔で話した。
新たなコミュニティづくりへ
日本海倶楽部が取り組む福祉は、障害者にとどまらない。たとえば能登町でも、成人病にかかる人が多く見受けられる。地域課題に取り組む竹中さんには放っておけない問題だ。
「既に白山市や輪島市などで経営母体の佛子園が取り組んでいる地域密着型のスポーツジムを町内につくり住民と障害者が支え合いながら健康づくりをするプロジェクトをスタートさせました」。
奥村さんもプロジェクトメンバーのひとりだ。「今以上に地域の人と関わる場所にして、多くの人に活動を知ってもらえたらなと思っています」活動を通じて地元の理解や協力関係を深めたいと意気込んでいる。
地元に根ざした活動を通じて障害者の働き口を提供し、コミュニティづくりに取り組む日本海倶楽部。「支援しているようにみえて、実は自分たちの居場所も作っているんです」という竹中さんの言葉が印象的だった。