イシカワ移住ズカン①

【珠洲市】伝統と新しさのさいはて

 

イシカワ移住ズカン

転職活動や移住では、交通費や引っ越し代金、住まいの購入や維持など、一度に大きな出費を伴うことになる。そこで活用したいのが行政からの補助や支援だ。

だが、国や石川県、各自治体ではさまざまな制度を用意しているものの、さまざまな組織や部署にまたがっていて全容を把握するのが難しいのも事実。

そこで、この企画では編集者が各市町の移住担当部署に突撃! 各地の補助・支援制度とまちの魅力をまとめてみることにした。

気になっている仕事や住みたいまちを見つけたけれど、お金や住まいが不安という方にぜひ読んでもらいたい。

 

#1 珠洲市

 

南北に細長く伸びる石川県。県域の3分の2ほどを占めるのが、日本海に向かって張り出す広大な能登半島である。

その最先端に位置する珠洲市は県庁所在地の金沢から約120キロ離れている。これは東京から日光とほぼ同じで、名古屋大阪間より少し短いくらいであるといえばスケールの大きさが伝わるだろうか。

この雄大さゆえ、石川県民であっても奥能登に足を踏み入れたことがないという人も少なくない。ダイナミックな海と、シイタケなど山の幸が豊かな中山間地、素朴で豪快な祭り文化などが人々を魅了している。

先に言ってしまうが、最近珠洲市は移住者が増えている。お世辞にも便利には見えない町がこれほど人気になった理由はなぜだろうか。珠洲市役所にある移住相談窓口「すず里山里海移住フロント」を訪ねてみた。



緊張する私たちを気さくに出迎えてくれたのは移住定住推進係の杉盛啓明係長(右)と、地域おこし協力隊の森田貴志さん。能登半島を真似たサムアップ(いいね)を披露してくれた。

杉盛さんはご多忙のため、ここからは森田さんに珠洲市の魅力を聞いてみることにした。

「魅力? そうですね『なつかしくて新しいまちであるところ』にひかれる人が多い気がします」

黒瓦の町並みや、揚げ浜式製塩、集落ごとの秋祭りなどの昔ながらの暮らしが受け継がれている。

一方で伝統を守りながら、新しいものを受け入れる穏やかな気質も特徴だ。「まち全体にまだ余白がある、といえば伝わるでしょうか」と森田さん。

その象徴とも呼べるのが2017、2021、そして2023年に開催された奥能登国際芸術祭だ。市内の古民家や田園風景が最先端の現代アートの会場となり、全国から注目されたのである。森田さんも芸術祭が移住のきっかけになったという。

移住を考えるきっかけは人それぞれ。この移住フロントには年間180件程度の移住相談がある。相談を受けたらまずやるのは「その人をよく観察すること」だという。

この人は「なぜ移住したいのだろう?」「何を望んでいるのだろう?」はたまた、「どんな人生にしたいのだろうか。」など話を聞きながら相手の想いをくみとる。電話やメールで始まった相談も、できるだけオンライン面談や現地見学を通じてイメージを深めてもらうことを心がけている。

「なにが心配なのか、移住の決め手になるような情報はなにか、しっかりと話し合うのを大事にしています」

移住前から暮らしを正確に想像している人は多くないし、まだ他の自治体と決めかねている場合も多い。

もしかしたら思うような生活や事業ができない場合もある。移住希望者と向き合うときは、考えを深めるための問いかけを欠かさないようにしている。

住まいについては公営住宅のほか、空き家バンクの活用も可能だ。

実は珠洲市は1住宅当たりの延べ面積が日本一である(総務省統計局「住宅・土地統計調査報告」2018年)。

1軒の平均が204.24平方メートルで、これは東京都新宿区や豊島区の4倍以上はある。市内を歩いていても大きな家が多く、空き家バンク登録物件でも同様だ。

広い家はうれしいが、大きな買い物に変わりはないし、古い家では現代の暮らしに合わせた改修や災害対策が必須となる。その点についても聞いてみると

「購入費は最大100万円助成しますし、リフォームや耐震工事の補助金も充実しているんですよ」と森田さんが胸を張った。珠洲市の住宅に関する助成は次のようなものがある。

名称
対象
内容
条件など
空き家購入費補助金 市の空き家バンク登録物件を購入した者 経費の3分の1、最大100万円 改修費補助金との重複利用不可、子育て世代は補助上限金額を150万円に引き上げ
空き家改修費補助金 市の空き家バンク登録物件を改修する買主・借主・貸主 経費の2分の1、最大100万円 購入費補助金との重複利用不可、子育て世代は補助上限金額を150万円に引き上げ
移住定住促進補助金 市内の賃貸住宅に入居するU・Iターン者がいる世帯 3年間家賃が最大半額 上限額は1年目3万円/月、2年目2万円/月、3年目1万円/月、世帯員にU・Iターン者でないものが1人以上いる場合は上限額を半額とする
耐震診断・耐震改修工事費の助成 昭和56年5月31日以前に工事着手された一戸建ての木造住宅 現況図面がある場合は自己負担なし、ない場合や現地調査を行う場合は自己負担5千円で耐震診断を受けられる  
住宅耐震改修工事費補助金 昭和56年5月31日以前に工事が着手され、かつ耐震診断で評点1.0未満と診断された一戸建ての木造住宅を耐震補強計画に基づき、評点1.0以上にする耐震改修工事を行う場合 工事費を10/10定額補助、上限200万円。  
その他:珠洲市住宅等太陽光発電システム設置費補助金、珠洲市木質バイオマスストーブ購入費補助金、珠洲木材利活用建築物助成事業費補助金

家を買ったり新築したりするときの補助も手厚いが、賃貸の家賃が最大半額となる移住定住促進補助金の存在は大きいだろう。

最近地震に見舞われることも多かった地域だが、古い家でも耐震工事に積極的な補助が設定されている。

 

珠洲に移住すると、家以外にちょっと変わった機会も得られる。

「若者定住促進支援事業の中のひとつなのですが、年に2回(8月と2月)に開かれる市長との意見交換会~しゃべり場すず~に出席できるんですよ」と森田さん。

40歳以下に限られるがU・Iターン後1年以内に就業した人や、市内の新卒者が集い、まちの未来を直接議論できる面白い場が用意されている。

緊張してしまうのではないかと思われるかもしれないが、終始なごやかな雰囲気で、意外にも参加者から好評だという。この事業ではほかにも市内の商店街で使える共通商品券3万円分が用意されている。

市長から住民まで、街中があなたの引っ越しを祝ってくれるような気分になれるかもしれない。

最後に、珠洲への移住が向いているのはどんな人か、森田さんに聞いてみた。

「どなたでも大歓迎です、来てからの目標があるとスムーズに進みますね」

森田さんも、今では周囲の人に助けられて充実した毎日を送っているという。

就職も移住も、相互の理解があってこそ。

奥能登への就職が決まった際は、ぜひ「すず里山里海移住フロント」を訪れてみてはいかが。

自治体名 珠洲市
人口(2023年11月時点) 12,610人 (市では本州最少)
面積 247.20平方キロメートル(石川県全体の6%)
医療 18(総合病院1、診療所17)
教育 15(保育園3、小学校7、義務教育学校2*、中学校2、高校1)*義務教育学校は小中一貫の学校を指します
公共交通機関 鉄道なし、市営バス「すずバス」(市内)、北鉄奥能登バス(能登町方面)、北陸鉄道珠洲特急バス(能登空港・金沢方面)
金沢からの所要時間 自家用車で約2時間半、珠洲特急バスで最速2時間55分

珠洲市

能登半島の北部に位置し、豊かな自然環境と歴史的風情を併せ持つ。日本海に面しており、美しい海岸線や新鮮な海産物が魅力的となっている。かつて全国の食卓を彩った焼物珠洲焼の産地であり、熱狂的な「能登のキリコ祭り」など文化や歴史が息づいている。観光、食、文化を堪能することができる地域として県内外多くの観光客が訪れる。

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