あの町この町トップナンバー!
金沢の「1丁目1番地」を歩く(前編)あの町この町トップナンバー!
金沢の「1丁目1番地」を歩く(前編)仕事中にこんなことを言われたことはないだろうか。
「あいさつは良い仕事の1丁目1番地だよ」
「ここの寸法を揃えるのが作業の1丁目1番地さ」
1丁目1番地――市役所や駅など重要施設に割り振られることが多い地番であることから、大前提、最初のステップなどの意味で広く使われている。ここ石川県においても例外ではなく、県庁の所在地は金沢市鞍月1丁目1番だ。
ここまで書いていて、ひとつろくでもないことをひらめいてしまった。
「では1丁目1番地だけを巡れば、金沢の代表的な建物を一通り見ることができるのでは?」
日々ネタ切れに悩むライターにとって些細な疑問はまさに原稿制作の1丁目1番地。これ幸いと酷暑の金沢市街へ自転車で繰り出した。
金沢の中心といえばまずいちばんに思いつくのが市役所だ。広い敷地だが市のウェブページや郵便物で所在地を確認すると代表窓口は1番1号。行政の中心である建物として、まさに想像通りといえよう。
ちなみに2002年まで道路の向かい側に石川県庁があった。現在は建物の一部がしいのき迎賓館として残っているが、こちらの地番は「広坂2丁目1番1号」。県の顔がトップナンバーを譲っていた時代があったとは驚きである。鞍月への移転で念願の1丁目1番地を手に入れることになったが、やっと1番だ!と喜んだ県職員はいたのだろうか。
地元に住まうものとして片町といえば繁華街だ。赤ちょうちんが連なり猥雑な空気をまとう町という印象が強いが、この片町の1番手はどこだろうか。スマホに住所を入力すると、すこし意外な場所にピンが落とされた。広坂のトップ金沢市役所からわずか170メートル先。同じ通り沿いにそびえるマンション「プレミスト香林坊」だ。調べれば2016年に竣工しており、1階部分には薬局が入居している。繁華街が有名な片町の1丁目1番地が、静かできれいなマンションとは意外だった。
それにしても名前に「香林坊」と入っているのはややこしい。確かに香林坊交差点の目と鼻の先の立地だが、ここは間違いなく片町なのだから、もう少し胸を張っても良いのではないか。そう思って見渡すと、目の前に「香林坊」と書かれたバス停が立っていて「お前もか」という気分に。
マンション名として片町より香林坊が良いという考えはわからなくもない。にぎやかな繁華街の片町に対し、香林坊はおしゃれなファッション街であるからだ。そんな香林坊の1丁目1番地は地元百貨店の香林坊大和。先述のプレミスト香林坊のほぼ正面にあり、まさにイメージ通りの施設といえよう。香林坊から犀川大橋に向かって街はますます賑わいを見せるが、これは中心街散策の第一歩にふさわしい立ち位置だ。
本題に戻ろう。香林坊を進んだ先は南町。城の東側なのに南町と呼ばれているのは、かつて南側にあった町が江戸時代の大火事で集団移転したためだ。南町といえば銀行や証券会社が軒を連ねる金融街。現在では郊外移転する企業も増えているが、東京の兜町や大阪の中之島のような、きりりとした空気をまとう一帯となっている。
さて、金沢の城下町は小さな街路が曲がりくねっており、街区できれいに分けるのは難しい。このため「丁目」がつかず番地だけの住所も多いのである。南町にも1丁目1番地はないので、代わりに1番1号を紹介しようと思う。それは金沢信用金庫本店である。金融街のトップが信用金庫とはこれまたイメージ通り。やはり1番地には地域の特色が現れるようだ。
近江町市場にほど近く、多くのバスが経由する武蔵町。ここも丁目が付かないが、1番バッターを訪ねよう。やはり香林坊大和と肩を並べる地元デパート「金沢エムザ」だろうか。またもスマホに打ち込むと、なんと該当する建物が見当たらない。正確には武蔵町1番までは存在するが、1号を冠する施設がないのである。しかもこの1番自体、近江町市場や金沢エムザより南側。この区画で一番目立つのはホテルリソルトリニティ金沢である。ウェブページを調べると所在地は武蔵町1番18号。ホテルがあるのは大きな区画なので、土地がまとめられてしまったのだろうか。
ところで先述の金沢エムザは武蔵町15番1号。近江町市場にいたっては武蔵町ですらなく、青草町、上近江町、下近江町、十間町など細切れだ。ここまで比較的イメージ通りの建物が続いたため拍子抜け。36度の気温に市場から漂う生臭さもあいまってなんともすっきりしない気分になってしまった。
しかし、ここで帰るわけにはいかない。この先には絶対に紹介しなくてはならない1番地1号が控えている。踵を返し、再び自転車を漕ぎ始めた。