通好み、グルメな駅前と、石畳の夕暮れ

繁華街スケッチ(1)金沢市の金沢駅前三和商店街

 

きらびやかなネオン街は街の顔。
新しい町で暮らすなら有名観光地より、仕事帰りの一杯のほうが気になる。そんな方のためにイシカワズカン記者が県内各地の繁華街に足を運び、写真つきで紹介する連載企画である。
記念すべき第1回は金沢駅からほど近いグルメストリートを歩いた。
 

 

金沢駅前のオフィスで打ち合わせを終えると、もう日が傾いていた。世界一の美しさという鼓門(つづみもん)の前は、今日も記念撮影の観光客で賑わっている。間欠泉のように吹き上がる水時計に目をやると、定時まであと2時間もなかった。平日のこの時間に駅前を歩いているのは少し珍しい気がするし、少し散歩でもしようか。駅に押し寄せる下校中の学生たちを横目に、ゆっくりと裏通りへ足を向けた。

金沢駅兼六園口(東口)側にある金沢駅前三和商店街は、近年急速に賑わいを見せている地域だ。金沢には片町、香林坊という一大歓楽街があるが、いずれも駅からバスで15分ほど離れている。鉄道やバスを使う通勤客、新幹線を降り立ったばかりの観光客にとっては駅前のほうが都合がいいから、最近は居酒屋やバーの開業が相次いでいるのだ。

県内最高130メートルの威容を誇るホテル日航金沢の豪華なファサードを通り過ぎ、本町2丁目の交差点を斜めに折れると、駅前とは思えぬしゃれた石畳の商店街が現れた。寿司にステーキ、焼鳥。生けるものなら何でも食べられそうな店の並びである。もう1時間ほどで開店するのだろうか。前掛けをした料理人たち、Tシャツのスタッフが慌ただしく店先と厨房を行き来している。魚を入れたスチロールの箱が積み上がり、ビールケースを満載したトラックがガチャガチャと瓶を揺らす音を立てた。

「ただいま!」

黄色い帽子の小学生の女の子が、居酒屋の店先にいた女に駆け寄り、そのまま薄暗い厨房へ入っていった。漫画に出てきそうな商店街の風景に、思わず頬がゆるむ。

「手洗うんやよ!」

はちまきに黒いTシャツの女が、拳の入った歯切れ良い口調で娘に呼びかけた。

酒や旅行に詳しい人なら伝わると思うが、観光地の駅前繁華街については賛否両論がある。土地勘のない観光客でも訪れやすいことから名物グルメやお土産の押し売りが繰り広げられ、節操がないからだ。

しかし、結論から言えば、この三和商店街は実に通好みというか地元目線の店ばかりである。老舗のステーキハウスや寿司店は店構えからして厳かであるし、連なる居酒屋やバーも名産品のアピールは控えめになっている。いや、控えめというか少し下手なのではないかと不安すら覚えるほどだ。たとえば能登のイカをメインにした店の看板は白地に黒抜きで「イカの店」と書いただけである。いいから食え、噛めば噛むほど味が出るぞとイカを体現したような割り切り方である。

1本の道といくつかの枝分かれを行ったり来たりしていると大通りへ飛び出してしまった。ここが本町の終わりである。新装開店するというラーメン店の前を通ると、神妙な顔でスープを舐める店主とガラス越しに目があった。

駅へ戻り、バスに乗って帰ろう。来た道を戻っていくと、先ほどの母子の居酒屋はすっかり開店準備が整って、のれんを掲げるばかりになっていた。キンキンとガラスの音がする。薄暗い店内にそっと目をやると、あの女の子が水滴だらけのオレンジジュースの瓶をくわえたまま、不思議そうに首をかしげていた。

所在地 金沢市本町、芳斉
アクセス 金沢駅、六枚町バス停よりそれぞれ徒歩5分。コインパーキング多数あり。