金沢蓄音器館(金沢市)

レコード店主のコレクション

 

金沢市尾張町にある金沢蓄音器館は、2001年に開館した全国でも珍しい蓄音器をメインにしたミュージアムだ。

館内にはSP盤レコードを中心に約150台の蓄音器が展示され、非公開のものを合わせると約600台を収蔵している。このほか音源のSPレコードは4万枚あるというから驚きだ。そのほとんどは明治時代から昭和30年代までに製造された、電気を使わないタイプだ。

収蔵品は「山蓄(やまちく)コレクション」と呼ばれている。山蓄とは1914(大正3)年に金沢で創業した「山田屋蓄音器専門店」のこと。のちに「ヤマチク」のブランドで2009年まで北陸三県で音響機器、CDショップを展開していた。

きっかけは昭和40年代後半、当時ヤマチクの社長だった八日市屋浩志(ようかいちや・ひろし)氏は、「消費は美徳」と言われ、古いものが捨てられていく風潮に心を痛めた。これではいい音が消えてゆく、残さねばならないとの思いで収集を始めた。

当初は店頭や倉庫でコレクションを公開していたが、次第に注目が高まり、2001年に金沢市がコレクションを譲り受ける形で蓄音器館が開館したのである。

 

贅沢な聴き比べ

 

館内では毎日3回、レコードの聴き比べが楽しめる。浩志氏の長男でヤマチク最後の社長だった典之館長が、軽快な語り口でコレクションを解説してくれる。

蓄音器への愛に溢れた説明には観光客のみならず地元客も多い。「CDに比べたら3分の1以下の6000ヘルツの音域しか再生できませんが、やさしい、ホッとするという声を頂きます」と典之館長。

蓄音器の元祖となるエジソン式から、一軒家が建つと言われたほど高級な有名メーカーの機種を一気に10台以上聴き比べられるのはぜいたくな体験だ。

なかでもソニーの創業者盛田昭夫氏の遺品となる「E.M.G.マークX(テン)b」は目玉コレクションのひとつ。英国製で、音を拡散する直径75センチのラッパ部分をロンドンの電話帳から作ったと言われている。モノラル録音だが、歌声と演奏がはっきりと分離され歌手が目の前にいるような迫力が感じられる。この音色に感銘を受け、金沢市の電話帳でラッパを自作した人も現れたほどだ。現代の高音質な音源にもまったく劣らない音色に、ファンは多いという。

今はCDすら買う機会が減り、スマートフォンで音楽がすぐ手に入る時代になった。
だが、サーッというノイズを含んだ蓄音器の音色は場の空気に溶け込む魅力がある。
「こんな音が、ちょっと前まで街にあふれていたことを知ってもらいたい」
解説の最後、典之館長は来館客へ毎回呼びかけている。

名称 金沢蓄音器館
所在地 金沢市尾張町2丁目11番21号
開館時間 10時~17時30分(入館は17時まで)
観覧料金 一般 310円 団体(20名以上)260円 65歳以上・障害者手帳をお持ちの方およびその介護人210円(祝日無料)※障害者手帳アプリ「ミライロID」の提示でも対象となります。 高校生以下無料  
交通機関 【北陸鉄道バス】金沢駅東口のりば  「尾張町」または「橋場町」下車徒歩3分 【城下まち金沢周遊バス】金沢駅東口のりば  「橋場町(金城楼前)」下車徒歩3分 【金沢ふらっとバス(此花ルート)】金沢駅東口のりば 「彦三緑地」下車徒歩4分 【駐車台数】6台(泉鏡花記念館との共有分を含む)できるだけ公共交通機関をご利用ください。