鉄路は消えてもターミナル

道の駅すずなり(珠洲市)

 

お祭り騒ぎの秋

 

1964(昭和39)年の秋は日本中が大騒ぎだった。10月1日に東京〜新大阪間に東海道新幹線が開業、ほどなくして同月10日から東京五輪が華々しく開会したのである。

戦後復興の象徴として語られるふたつの出来事の影で、能登半島最北端の珠洲市でもビッグイベントがあった。国鉄能登線の全線開業である。

 

金沢から北へ北へ工事が進められた能登半島の鉄道は、明治時代後半に七尾、昭和初期には輪島まで到達していたが、珠洲には長らく鉄道がなく、不便な状態が続いていた。

戦後になってようやく建設が始まった能登線は、1961年に宇出津、1963年に珠洲市の隣町だった松波(ともに現在の能登町)までじわじわと延伸。

そして1964年9月30日、ついに珠洲市にも列車がやってくることになったのである。開業日翌日の新聞によれば、珠洲市内は一面祝賀ムードに包まれ、駅前には秋祭りのキリコ(奉燈)や山車(やま)が引き出されて文字通りのお祭り騒ぎになったそうである。

 

能登線は国鉄からJR、そして石川県と自治体が支援する「のと鉄道」へ移管され、2005(平成17)年に廃止されるまでの約40年間、奥能登の大動脈であり続けた。珠洲市内最大の駅として開かれた珠洲駅の跡地に立つのが、現在の道の駅「すずなり」である。現役当時は駅舎と車庫が併設された能登最北の鉄道ターミナルだったが、2010年にバスターミナルと観光案内所、売店を併設する現在の姿に生まれ変わった。現在も金沢行きの特急バスや、宇出津方面の路線バス、無料の珠洲市営バス「すずバス」などが発着し、交通結節点としての存在感は大きいままだ。広場には当時のプラットホームとレールの一部がそのまま残され、鉄道駅だった頃を偲ぶことができる。

2005年、能登線廃止直後の珠洲駅(筆者撮影)

 

珠洲生活の一歩目に

 

道の駅すずなりは、お土産販売コーナーと、バス待合所を兼ねた観光案内窓口が揃っている。道の駅といえば観光客向きのイメージが強いが、地元の農家が手掛けた山菜や季節の野菜、果物も並べられ、珠洲に暮らす人にとっても目が離せないスポットになっている。硬い生地にあんを包んだ名物の「太鼓饅頭」は、市内に点在する各菓子店の商品が揃っているので食べ比べてみても面白そうだ。

 

道の駅を運営するNPO法人すずなりは市内各地のウオーキングイベントを開催するほか、冬には名産のアンコウを主役にした「珠洲あんこう祭り」など、地元の魅力発信に努めている。イベントには観光客だけでなく、住民の参加も多いという。

珠洲市は人口こそ少ないものの市域は広く、町々に独自の文化が息づいている。道の駅すずなりはこれから住む人にも、もう住んでいる人にとっても、新たな暮らしの出発駅になること間違いなしだ。

名称 道の駅すずなり
住所 珠洲市野々江町シの部15番地
開館時間 8:30〜18:00(3〜11月)9:00〜17:00(12〜2月、年末年始変更あり)
駐車場 あり
電話番号 0768-82-4688
ウェブサイト https://notohantou.jp/