日本唯一!繊細な手業が輝く宝石箱

国立工芸館

東京から移転、工芸大国の石川へ

 

国立工芸館は、県内では珍しい国によって運営されるミュージアムである。観光名所の兼六園や成巽閣も近い出羽町に位置し、芝生の公園を囲むようにして県立美術館や県立歴史博物館と隣り合っている。陶磁、ガラス、漆工、木工、竹工、染織、金工、人形、デザインなど明治以降の貴重な作品を多く収蔵している。常設の展示はそれほど多くないが、季節ごとにテーマ展が開かれるので、何度訪れても見飽きることがないのも魅力である。

国立工芸館の前身となる東京国立近代美術館工芸館は1977(昭和52)年、皇居のお膝元である千代田区北の丸に開館した。

2015(平成27)年に北陸新幹線が金沢まで開業すると、九谷焼や輪島塗などの工芸品が有名な石川は「工芸大国」として、これまで以上に注目を浴びることとなった。 特に金沢市は09年、文化と産業が活発な都市を選定するユネスコ(国際連合教育科学文化機関)創造都市ネットワークにおいて「クラフト分野」の登録第1号になるなど、かねてより繊細な手技と伝統が世界に高く評価されていたのである。
工芸館の金沢移転は東京一極集中を解消しようとする政府の方針も追い風となった。20年10月に現在地に開館し、国内唯一の工芸品ミュージアムとして石川県ゆかりの作家はもちろん、日本各地の豊富な資料を保管・展示・修復する重要な役割を担っている。

 

かつての超重要施設を再活用

 

国立工芸館は移転したばかりの新しいミュージアムだが建物は現代では見かけることのない古めかしく重厚なたたずまい。しかも異なる2つの建物がつながったような外観になっているのが特徴だ。実はこの建物はどちらも、かつて金沢城内にあった旧陸軍の施設をリニューアルしたものである。

金沢偕行社

正面入口から向かって右手、管理棟として使われている鮮やかな建物は1909(明治42)年建造の「金沢偕行社(かいこうしゃ)」で軍人が接待や息抜きに使うダンスホールだった。戦後に役目を終え、石川県庁石引別館として使われていた。

第九師団司令部庁舎

来場者が巡る左手の展示棟は1898(明治31)年建造「第九師団司令部庁舎」で、こちらは北陸三県から集まった2万人以上の兵士を統率する超重要施設であった。司令部庁舎も金沢城内から移築された。入場口を抜けて司令部庁舎に足を踏み入れると、当時の要人しか見ることの出来なかった木製の荘厳な階段にいきなり圧倒されること間違いなし。

どちらも古いとはいえ内装は新築のような美しさで、貴重な収蔵品を保管するために求められる温度や湿度管理の厳しい条件を満たしている。ちなみに隣接するレンガ造りの石川県歴史博物館も、もとは第九師団の兵器倉庫。実は東京にあった工芸館も皇居を警護していた旧近衛師団の司令部庁舎であり、工芸館は旧陸軍との不思議な縁があるようだ。

かつて国を支えた重要施設が、人々の営みや文化を支える穏やかな余生を送っていることも感慨深い。

写真提供:金沢市

 

名称 国立工芸館