県外から石川県の大学に進学し、大学在学中に起業。今は仲間たちと共に限界集落で暮らし、取り組むのはSDGsをゲームで学ぶ教育事業。そんな未来の価値を地域の企業と高める取り組みをしている若き起業家のお話を聞きに行った。

待ち合わせ場所のテーブルにはカラフルなカードが並べられていた。
「これはSDGs（持続可能な開発目標）、こっちは選挙を学べるゲームです。他にも、サーキュラーエコノミーや生物多様性について学べるゲームもあります。」2021年にスタートしたばかりのベンチャー企業「LODU（ロデュ）」の島田高行代表（25）＝トップ写真右＝だ。同社は社会課題を題材にしたカードゲームを軸に、教育や企業研修、コンサルティング業などを手掛ける。一見すると難しい問題もゲームで楽しく考えることができるため、現場での評判は上々だ。「未来を変えるにはワクワクする体験が一番」と胸を張る彼にお話を伺った。

大学時代に「手応え」

島田代表と社員４人は金沢工業大学を卒業した同級生で全員が石川県外出身。SDGsについて学ぶ学生団体で活動するうちにゲームの制作を思いついた。在学中は手製のカードゲームを地元の小中高校で試して改良した。製品化を目指すクラウドファンディングは１週間で達成、最終的には目標の３倍の金額を集める反響があった。手応えを感じた島田代表は大学卒業直前に同級生に声をかけて起業を提案、大学院で学びながら慎重に準備を進めた。「きっと何か始めるだろうなという気配はあったので、会社の立ち上げに誘われた時は二つ返事でした」と執行役員で製品デザインを担当する蟹谷慧さん（24）は振り返る。メンバーは学生時代から役割分担がはっきりしていて喧嘩になったことはないという。「風通しのいい組織だと思う」と話す島田代表は楽しげだ。

限界集落で集団生活　コツはあいまいにしないこと

　会社のオフィスは白山市河原山の古民家だ。手取川上流の谷に広がる50戸ほどの限界集落にあり、社員全員で共同生活をしている。自然豊かだが高齢化が進み、現在の人口はわずか120人ほど。会社では縁もゆかりもない土地で最先端の仕事に取り組むため、住民との対話に力を入れているという。はじめは疎外感を覚えることもあったが、自分たちの素性を丁寧に説明することで今ではすっかり溶け込んだ。対話のコツは「あいまいにしないこと」だ。集落では草刈りや水路掃除など毎週のように行事があり、全てに参加すると会社が回らない。平謝りしてもいいが、島田代表はあえて会社の状況を住民にしっかりと説明することで理解してもらう。「常に本音で説明することで、自分たちが本気であることが伝わる」。意見を伝える時は地域のキーマンを通すなど、コミュニティーの慣例も大切にしている。

石川県はサステイナブル　

　SDGsをテーマにしたカードゲームは大手建設会社の金沢支社など、県内に所在する企業で研修に使われている。学生団体からの人脈を生かして営業を続けているという同社には、石川の企業はどう映っているのだろうか。
「威張ったり横柄だったりする悪い人はいない」と島田代表。しかし謙虚なあまりに自社の魅力に気付かない企業も多い。SDGsを例に取ると、石川県内には自然を維持する林業、廃材を使った新素材開発やアート活動などを熱心に行う企業が多いが、情報発信がないため「そんなこともやっていたんですか」と驚くことがあるという。欧米では環境問題への意識が高く企業の姿勢が人材確保に直結する時代。既に実践している活動を伸ばして上手にアピールすることが課題になると島田代表は指摘した。

ルール作りから生まれる新しいコミュニケーション

　ゲームはプレイヤー全員が平等な立場でプレイできるため、教育や研修でも押しつけではないコミュニケーションが生まれるのがメリットだ。上下関係に縛られない議論や体験を積み上げていくことで、今後の行動やキャリア選択に働きかけることができる。
　現在は小規模な同社だが、将来は規模を広げ世界にゲームを届けるのが目標だ。単に販売で終わらせず、教材としての利用を継続的にサポートするサービスも構想中。カードゲームは内容を書き換えることができるため、販売先企業の得意分野をスキルとして記したり、地域で身近な動植物を登場させたりすることもできるという。「ゲームで遊ぶときのように、率先してルールを作り、運用していく能力がこれから必須になる」と島田代表は断言する。実際には膨大な時間がかかる社会問題の解決も、ゲームで「ミニ体験」ができる。薄暗いニュースばかりが聞こえてくる昨今、カードゲームはまさしく変革の切り札になるのかもしれない。