米村家に学ぶ、空き家改修と古民家暮らしのリアル

移住の際に欠かせないのが「住まい探し」。新築を建てたり、マンションを借家するなど様々な選択肢がある中で、今回紹介したいのは「古民家暮らし」だ。古い家が多く残る福井県では高齢化と共に空き家が増えており、古民家の空き家を改修をして住むパターンも多く見られる。今や雑誌やテレビで取り上げられるようになった「古民家暮らし」に憧れを抱いている人も多いかもしれない。しかし、そのリアルな姿を知る人は少ないのではないだろうか。

 

今回取材に協力してくれたのは、2021年3月に東京から福井県池田町へ移住してきた米村一家。米村家は自分たちで古民家を改修しながら暮らしている。「池田に移住したいというより、この家だったら面白いことができそうだなと思って移住を決めました」と言うほど、米村さんにとって大きな存在だった一軒の古民家。一体、どんな出会いだったのだろうか。空き家改修を経験し、古民家暮らしを実践している米村家の米村智裕(よねむらともひろ)さんに、古民家暮らしのあれこれを詳しく伺った。

 

住まいの入り口 たまたま出会った池田町の古民家

 

米村家が東京から移住するきっかけは、2020年のこと。震災やコロナで漠然と募る東京暮らしの危機感などから、地方への移住を考え始めた。インターネットで智裕さんの出身地である九州や妻の真理さんの出身地である福井の住まい探しをしている中で、池田町もチェック。町の公式ホームページや空き家バンクを通じて町営住宅の情報収集や目ぼしい空き家をピックアップした。

2020年12月の真冬、現地を訪れて出会ったのが、今の古民家だった。築70年、木造2階建ての古民家に入ると、囲炉裏があり、25畳分の板の間が広がる。元々は大工さんが自分の家として建てたという、立派な家だ。

「この家を内覧した時に、部屋の壁を見て『ここは劇場になるな!』とか、『屋根裏はアトリエっぽい』などインスピレーションを受けました」もともと芸術のバックグランドを持つ智裕さんは、かねてから地方における芸術振興に関心があったそう。「実際に家を見たことで、最小の文化拠点みたいなアイディアが降ってきました」。

 

他にも魅力的だったのは立地と価格。米村家が住む古民家は、町の中心地に位置し、スーパーや役場、診療所、学校などあらゆる施設へのアクセスが良い。また、大家さんと話し合い、なんと家を無償譲渡してもらえることになった。

 

「素人目に見ても、この家の造りはすごいと思いました。この家が持っている潜在的な力を感じたし、これを潰しちゃうのももったいないなという気持ちがありましたね。『活用しなきゃ』という使命感もあったかもしれない。僕の場合はこの家の面白さに惹かれたことで、移住そのものに興味を持ったのだと思います」米村家と古民家の出会いが、池田移住の決定打となった。

 

DIYの教訓は「家族間の共有」

 

「古民家に憧れたというよりも、良い家だなと思ったのがたまたま古民家だった」という米村一家は、いわば空き家改修の初心者。水回りなどはプロに依頼し、他は自分たちで改修することに。当初住めるような状態ではなかった古民家を改修するために、最初の2年間は近くの町営住宅で仮住まいをしながら、古民家へ通った。いちから道具を揃え、家の構造も勉強した。

 

家を掃除し、床板剥がし、壁を壊すなど地道な作業を続けていく。床板を剥がすと、床下の土台となる木が腐っていたなど、ひとつ改修を進めると同時に問題が発生することも多かった。

 

「ちょうど木材がすごく高騰した時期だったこともあり、想定よりお金も時間もかかりました。」と振り返る。

さらに大変だったのは、家族間の共有だ。妻の真理さんがフルタイムで働き、夫の智裕さんが古民家改修を担当するスタイルをとっていたため、互いの状況や苦労を理解するのが難しかったという。

 

「古民家改修の大変さが伝わりにくく、『なんで私だけこんなに働いているんだろう』っていうフラストレーションがずっとありました」と真理さん。「この人は稼ぐ人、この人は家事をする人と、役割を決めすぎると、相手の状況がわからないので、少しでも互いの役割を分担できる関係がいいなと思いました」と、当時の教訓を共有してくれた。

 

しかし、大変なことばかりではない。「ものづくりの楽しさみたいなものは、やっぱりありますね。現場を見ながらその時のアイデアや思いつきで変えていけるのも古民家改修の面白いところ。そもそも自由度がちがう。東京にいたころは、自分で自由に家をつくるなんて発想はなかったです」

こうして約2年の月日をかけて、古民家を住める状態まで改修し、2023年3月に米村家は町営住宅から古民家へ移った。

 

「最小の文化拠点」としての家 暮らしながら手入れする

 

米村家が住んでいる古民家は、もうひとつの側面も持っている。それは内覧時に思い描いた「最小の文化拠点」としての家だ。米村さんは古民家を「うみのいえ」と命名。「みずから生きる、みずから創る」をテーマに掲げ、セミパブリックな場としても運営し、暮らしのなかで実践している。


例えばお風呂もそのひとつ。エネルギー自給をしたいという想いから、うみのいえでは五右衛門風呂をあえて選んだ。「木材の方が石油よりも自力で入手しやすい」と米村さん。古民家をもらった際についてきた山の木材を使って、エネルギーも自給しようという企てだ。お風呂のほかに、庭には鶏小屋を建てて卵の自給自足をしている。



油絵作家さんが真冬にアーティストインレジデンス。窓から見える景色を描く

 

また、「うみのいえ」ではアーティストインレジデンスを精力的に行っており、演劇家や油絵作家、ハープ奏者、映画制作チームなど様々な人が芸術活動を行う拠点として育んでいる。

 

さらに2024年春には、美大生を集めて、アトリエの改修を行った。「アトリエの着工は、大きな出来事。約4年前に構想したことが、芸術家の卵たちと一緒に具体的な形にできている」と嬉しそうに語る。

 

古民家改修には、終わりがない。暮らしながら必要に応じて身の丈に合った手入れをしていく。それも古民家暮らしの大きな醍醐味だ。 運命的な出会いを果たした米村家と池田町のとある古民家。家は、その家に必要な人を呼ぶのかもしれない。大変なことも多いが、自由に手入れできるからこそ、アイディアを実装していける自由とものづくりの喜びが通奏低音のように鳴り響くインタビューであった。福井での家を探す際は、まず各自治体の空き家情報をクリックしてみてもいいのかもしれない。

 

取材・文 川上まりこ