「勉強は辛い」をぶっ壊す! KOGE先生が伝えたい学びの先にあるもの
古家一隆一郎さん(KOGE塾 塾長)「勉強は辛い」をぶっ壊す! KOGE先生が伝えたい学びの先にあるもの
古家一隆一郎さん(KOGE塾 塾長)子どもが勉強しない、いつもスマホを見てばかり…。そんなお悩みを持つ保護者は多いのではないだろうか。ところが、「5分も机に向かわなかった子どもが5時間続けて勉強するようになった」「数ヶ月で5教科の成績が100点以上アップした」と驚くような成果をあげている塾が注目を集めている。
福井駅西口から徒歩5分の場所にある「KOGE塾」は、小学生から大学受験を目指す高校生が通う学習塾だ。オンラインで受講する生徒も多く、北は北海道から南は鹿児島まで全国各地に在籍している。
塾を主宰する“KOGE先生”こと古家一隆一郎(こげいち・りゅういちろう)さんは、兵庫県尼崎市出身。子どもと関わる今の仕事は“天職”だと語る古家一さんだが、中学時代は自他共に認めるやんちゃな生徒だった。
そんな古家一さんが勉強に目覚めたのは、中学2年生の頃。
「やんちゃしてた仲間の一人が、『◎◎高校に行きたいから』と急に塾に行き出したんです。それまで成績は僕の方が上だったのに、彼が数学のテストで80点を取ってはじめて負けてしまって。やんちゃなのに勉強もできたらかっこいいなと思い、僕も塾に行き始めました」
一番早くに塾に行き、誰よりも遅くまで残って塾で勉強する。そんな生活を3カ月ほど続けて臨んだ中3最初のテストで、なんといきなり学年3位という驚異的な成績を残すことができた。
「成績が上がり褒められるのが嬉しくなって。大学進学も視野に入れてしっかり勉強してみようと思うようになりました」
とはいえ、好き嫌いがはっきりしている古家一さんは、高校入学後も嫌いな授業は抜け出して図書館にいることが多かったそうだ。その時に読んでいたニュートンの物理理論の本をきっかけに物理と数学が好きになり、高校で習う単元をあっという間に習得。得意な物理に関しては、先生の代わりに授業をしたこともあったという。
得意科目を武器に挑んだ大学受験だったが、第一志望は残念ながら不合格。滑り止めで受けた福井大学工学部はほぼ満点の成績で特待生として合格した。ところが……。
「行きたい大学ではなかったので、かなり落ち込みましたね。浪人するか迷いましたが、受験期は起きている間ずっと勉強する生活だったので、1秒も無駄にせず勉強をやりきったと後悔はなかったんです。受験を通して今後どんな困難なことがあっても乗り越えられるという自信は得ることができました」
福井での学生生活がスタートして、最初に古家一さんが始めたのはアルバイト。居酒屋や家庭教師などいくつかのバイトを掛け持ちしていたが、なかでも特に楽しかったのが個人塾の講師だった。
「県内の進学校に通う高校生に向けて数学を教えていましたが、教えることだけでなく子どもたちと関わることが楽しいなと思いました。アルバイトで週5、6日働き、大学以上に打ち込んでいたのですが、コロナ禍でバイトに入れない日が増えていったんです」
そんなある日、地元の友人からある相談を受けた。高校生の弟が部活動で毎日帰宅が遅く、塾に行く時間がないという。「暇だしオンラインでよければ勉強を教えるよ」と、軽い気持ちでオンライン授業を始めることになった。
「画面越しでしたがすごく楽しくて。ひたすら授業をしていたら、3ヶ月後には生徒が8人くらいになっていました。どうやら授業を受けた高校生が『ヤバい先生がいる』といろんな人に話していたみたいで(笑)」
古家一さんの評判は広まり、生徒の数が増えていくと、保護者からも思わぬ反応があった。
「ある日、高校生のお母さんから連絡をいただいたんです。『息子の成績が上がっているので、お金払わせてください』と。当初は個人的に支援したいという思いからボランティア感覚だったのですが、お金をいただくのであれば開業しようと、『KOGE塾』を開校することになりました」
開校後、まずはInstagramで勉強のコツや成績の上げ方など受験生や保護者が興味を持ちそうなコンテンツを発信し、少しずつ生徒数を増やしていった古家一さん。「オンライン塾を起業した大学生」は注目を集め、県内のメディアでも多数紹介されたことから福井の生徒を対象に対面授業もスタート。開校2年にして生徒数は約100名にまで達した。
KOGE塾のモットーは「5分机に向かえなかった生徒を5時間以上笑顔で勉強できるようにすること」。塾そのものを楽しい空間にすることで「KOGE塾に行って勉強したい」と思える環境作りに力を入れている。授業は少人数制で生徒がしっかり理解できているかを重視。先生というよりも頼れるお兄さんのような身近な存在で、一人ひとりに合った学習方法のアドバイスも行っている。
さらにKOGE塾ではほとんど生徒が、授業以外の日も教室に通うという。教室を訪れると、小学生から高校生まで同じ空間で静かに自習しているが、休憩時間になった途端、学年の壁を超えて賑やかな様子。再び自習時間になると、水を打ったかのように静かにそれぞれの勉強に戻っていく。
「最低限のルールを守るからこそ自己成長を実感できる。それが勉強においても楽しさにつながっていると思います。小中高生が同じ空間で自習するので学校とは違うコミュニティが生まれてみんな仲が良いですし、小学生のわからないところを中高生が教えていることも多いですね。今まで家で1時間も勉強しなかった子が、塾だと7〜8時間勉強するようになるので、成績も当然上がります」
成績アップは塾として当然のこと。しかし、勉強だけでなく、その先の人生や“人”としてどうありたいかもKOGE塾では大切にしている。勉強を通して人との絆を育む「合宿」や、「お金の授業」「地域を学ぶ授業」といった既存の教育カリキュラムでは学べない「特別授業」に力を入れているのも大きな特徴だ。
古家一さんは現在24歳。まさか大学在学中に起業し教育に携わっているとは、福井にやってきた当時は思いもよらなかったはずだ。
「希望する大学ではなかったし、田舎だし寒い。はじめて福井にやってきた時の印象は最悪でした(笑)。でも住んでいて感じたのは、何もかもが十分に揃っていないからこそ、そこでどう楽しみを作るか。子どもたちにとっても、一から新しい楽しみを作っていけるクリエイティビティを刺激される環境だと思います。
また、福井で起業して感じたのは、都会よりもチャンスが転がっていて目立ちやすいということ。アクションを起こせばメディアが取り上げてくれるし、行政をあげて若者への応援が盛んなので、都会よりも圧倒的にスタートダッシュが切れる。そんな場所はなかなかないと思うんです」
今後やってみたいことをたずねると、「2年以内に飲食店を始めたい」と意外な答え。
「駅前で塾をしていると生徒たちが、コンビニで買ったごはんやジャンクフードばかり食べているのが気になって…。塾から近い場所に学生をターゲットにしたお弁当屋さんを作りたいと思っています。栄養満点でおいしいごはんを食べながら、勉強やおしゃべりもできる場所。子どもたちにより良い環境を作り、今度は僕が子どもたちを応援していきたいと思います」
取材・文 石原藍