インドで感じた豊かさの本質とは? 福井で実践する心と身体に心地よい生き方。

立田千菜美さん(コンテンツプロデューサー)

海外への興味から県外の大学を卒業後、留学を経てインドに渡った異色の経歴を持つ立田千菜美(たった・ちなみ)さん。インドでは人材会社のスタートアップの立ち上げを経験し、2019年に福井にUターン。現在はウェルビーイングをテーマにしたコンテンツプロデューサーとして活躍している。常に自分の興味や好奇心を軸に、人生の選択をしてきたという立田さん。海外に出たからこそ気づいた地元・福井の魅力とは。

 

世界のリアルを伝えたい

 

福井市で生まれ育った立田さんが海外に興味を持ったのは、小学生の頃。テレビで見た9.11の世界同時多発テロがきっかけだった。

 

「画面越しの惨状に衝撃を受けました。なぜこんなことが起こったのか、周りの大人に聞いても明確な答えが返ってこなかったんです。それなら私が現地に行かなきゃ、という使命みたいなものを直感的に感じました」


日本を飛び出し、世界の現状を発信したい!と、高校を卒業後は県外の大学に進学。大学のプログラムでアメリカに留学し、現地でジャーナリズムを学ぶも挫折の日々だったという。

 

「難民や生活保護など、さまざまなテーマでディスカッションするのですが、『日本ではどうなの?』と聞かれてもうまく答えられなくて。『母国である日本のことをわかっていないのにジャーナリズムなんて10年早い』と言われてめちゃくちゃ悔しかったですね」

 

時を同じくして日本では東日本大震災が発生。アメリカから帰国後、立田さんは炊き出しに参加したり、被災地の託児所で英語を教えたりと災害ボランティアに参加しながら、日本人として何ができるのだろうかと自分自身に問う日々を過ごしていた。

 

エネルギーに満ち溢れるインドへ

 

立田さんが再び海外に目を向けたのは、大学3年生の頃。SNSで見つけた「アジアインド留学」の募集だった。モニターとしてインドで英語を学べるという。人口や経済などさまざまな分野で日本以上に伸びているインドに魅力を感じ、すぐに応募。2ヶ月間のインド留学はアメリカ留学以上に刺激的な日々だった。

 

「インドは汚くて危ないというイメージがあったのですが、私がいたニューデリーは思った以上に閑静な住宅街でした。でも、三つ星レストランのすぐそばにホームレスが物乞いをしているなど、いろんな価値観が入り混じっていて、これまでの固定概念が崩れましたね」


常識が覆るカオスな価値観、一方で満ち溢れるエネルギーや情熱に伸び代しかない勢いを感じた立田さん。「社会人になったら、もう一度インドに戻っておいで。この国は数年後には世界の工場から世界の市場に変わっているから」と、現地の語学学校の教師に言われた言葉を胸に、インドへの再訪を誓った。

 

心と身体を整えたら仕事もうまくいった

 

大学卒業後は国内の企業に就職。数年後のインド行きを視野に入れながら、日本で経験を積んでいた立田さんは、大手日系人材系企業のインド拠点の立ち上げに関わるチャンスをつかみ、約束通り再びインドに渡ることになった。

 

日本人は2人だけ。ほかの社員は同世代のインド人という環境のなか、日系企業に対する人材紹介や育成、採用に携わっていた立田さん。日本ではハードワークをこなしてきた自信があったものの、インドではそんなリーダーシップは通用しないことにカルチャーショックを受けた。

 

「インドでは目標や売上げ以上に“精神的に豊かであるか”を問われました。ある時、『思考と感情と身体を整えることにフォーカスしてみなさい』とインド人のマネージャーからアドバイスを受けて、目から鱗が落ちたような感覚になったんです」

 

異国の地でプレッシャーもあり、体調がすぐれない日も多かったが、アーユルヴェーダを取り入れた食事やヨガをはじめとした適度な運動など、自分の心地よい状態を追求するうちに職場の人間関係も整い、次第に仕事でも良い効果が現れてきた。


「意外かもしれませんが、インド人は人間関係がウェット。仕事中も『今日の調子はどう?あなたの妹さんは元気?』と、プライベートに踏み込んできます。そんな距離感に最初は慣れず、常に一人で抱え込んでいたけど、心と身体を整えることで自分の悩みや弱さも仕事仲間に開示できるようになっていったんです。職場での関係性も目に見えて良好になり、事業も見事黒字化を果たしました」


自分のルーツである福井へ

2019年、事業の関係で日本に帰国した立田さん。インドでの成功体験から、ウェルビーイングの大切さをより多くの人に伝えたいという思いを強くしていた。

 

「予測不可能な社会のなかで、唯一整えられるのは自分。心の豊かさや何があっても絶対に大丈夫というマインドを社会で生きる人たちのなかに生み出せるような体験を作りたいと思いました」

 

そこで、古代叡智(Wisdom)から最先端テクノロジー(Transtech)を統合し、研修プログラムの企画開発を行うスタートアップHuman Potential Lab」に参画。さらに2020年には出産を機に、地元福井に戻ることになった。


「これまで国内外さまざまな場所を訪れましたが、子育てをするなら、自分のルーツである福井だなと思いました。10年ぶりに地元に戻ってきて感じたのは、自然の豊かさや脈々と培ってきた文化、信仰の素晴らしさ。福井の人は当たり前に感じているけど、これって宝の山だと思うんです」

 

現在、2児の母として仕事と育児に奮闘している立田さん。朝起きて窓を開けると見える山や田んぼの雄大さ。その土地で採れた米や野菜を食べる豊かさ。山も海も川も湖も温泉も(!)すぐに行ける近さ。人やモノは都会の方が圧倒的に多いけど、福井だって選択肢は無数にある。そんな暮らしが気に入っているという。

 

仕事はリモートワークがメイン。福井にいながら国内外のクライアントとオンラインでやりとりし、地元での活動の幅も広げている。2023年10月にはスティーブ・ジョブスの13回忌にちなんで、“ZENの聖地”永平寺町で国際カンファレンスを開催するなど、地域の人たちとの協働にも積極的だ。


「福井は完成されていないからこそ新しいことが自由にできる。雇用も機会も自分で作り出せばいい。新しくやりたいことがあるなら、福井はチャンスしかないと思っています」

 

好奇心を原動力に、地元福井でチャレンジを続ける立田さん。心と身体の声に耳を澄ませ、これからも駆け抜けていく。

 

取材・文 石原藍
 

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Zen2.0 in Fukui が永平寺町で行われます

Zenカンファレンス2024 〜Zen2.0 in Fukui 永平寺町〜

日時:2024年10月11日(金)8:25 開場 / 8:45 開始〜17:30終了予定

場所:永平寺町四季の森複合施設「旧傘松閣」 福井県吉田郡永平寺町山9-1-2

参加費:3000円 / 学生は参加無料

https://zen-fukui.jp/