木材屋流、すみよい地球のつくり方

水口悟佑さん(水口木材)

福井市の西方地区に拠点を構える水口木材株式会社は、昭和35年の創業以来、地域に根差した木材の製造・小売業を営んでいる。3代目の社長を務めるのは水口悟佑(ごう)さん(写真中央)。就任以降、本社の改修や、社員教育、環境に配慮した事業構築に邁進している。

 

水口さんは「今住んでいる地球は、わたしたちの子孫からの借り物。地球の環境を守ることが自分の使命」という信念をもとに、自社で出た廃材で炭を作る「SUMIKA PROJECT」を立ち上げた。プロジェクトが生まれた背景や、「SUMIKA」をキーワードに広がり続ける可能性について伺った。

本社を地域に開かれたコミュニティスペースに改修


水口さんが3代目の社長に就任したのは、2017年11月。「その年の8月に突然『来月から社長になってほしい』と前社長である父から話がありました。当時は役職もなく、従業員として働いていましたから、まさかこのタイミングで自分が社長になるなんて思ってもいなかったです。あまりに急だったので、2カ月猶予期間をもらって社長に就任しました」

 

就任後、水口さんは3つの軸で会社の改革に取り組んだ。1つ目は本社の改革、2つ目は社員教育、3つ目は新事業の立ち上げだ。「当時の本社はお客様が来ても堅苦しい感じがありました。広い部屋に机が並べて置かれていて、そこに私の祖母がぽつんと一人いるだけで、スペースを持てあましている状態。事務的で、人気のない場所をもっといろんな人に役立ててもらえる親しみやすい空間にしようと本社の改装を行いました」

 

そこで水口さんは広い空間を3つに仕切り、本社オフィス、コワーキングスペース、コミュニティスペースを設けた。従業員のためのオフィスとして使うだけではなく、社外の人が利用できる開かれたスペースに生まれ変わった場所が、現在の水口木材の本社だ。

 

「本社がある西方地区は子育て世帯がどんどん増えています。わたしと妻もまさに子育て中で、小さい子どもがいるそばで仕事をする機会が多かったんです。そこで、コワーキングスペースは親が子どもと同じ空間で仕事ができるようにとの思いで作りました。コミュニティスペースでは親子向けのヨガやリトミックなどのイベントをしたり、打ち合わせをしたり、いろいろな用途で使えるようにしています」

 

床や壁に木がふんだんに使われているのは、木材屋ならでは。子ども食堂や夏休みの宿題をするイベントなど子育て中の親のニーズをくみ取った催しが行われている。

 

デフレマインドを脱ぎ捨ててインフレ社会で光る企業へ

水口さんが2つ目の改革として行ったのが社員教育。ちょうど2017年は世界的にデフレ経済からインフレ経済に転換する時期に重なっていた。「良いものを安く買い叩く」というデフレ経済のマインドで商売をしていては木材屋として生き残っていけなくなると、自社の社員に「お客様が納得していただける付加価値を届ける」ことの大切さを伝えた。

 

「現に今の市場では、質の良い木材が入手しにくくなっています。安く買い叩くことをしていては、取引先に相手にしてもらえなくなり、いずれはビジネスを続けるのが難しくなる。そういった状況になることが予測できていたので、社員教育に力を入れて会社全体で意識改革しようと心に決めました」

 

廃材を炭に変える「SUMIKA PROJECT」

 

3つ目の改革は環境に配慮した事業に取り組むこと。SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が国連で採択された2000年頃から、水口さんは「地球環境に寄り添った仕事がしたい」という思いを持っていた。

 

例えば、丸太を製材する過程では毎回大量の廃材が出てしまう。丸い幹を四角い柱の形に成型するために切り落とした外側の部分は、廃材としてチップ業者に渡すのが一般的。まったく無駄になるわけではないが、水口さんはほかの使い道がないかと模索していたという。

 

「木材屋を営む過程で廃材やおがくずが出たときに処理業者に渡すのは、果たして本当に環境に配慮できていると言えるのか、自分たちで活かせる手立てはないのか、と考えていました。そんな時に思いついたのが、炭を作ることだったんです」


水口木材が扱う木の種類は杉やヒノキなどの針葉樹が多い。広葉樹に比べて針葉樹の炭は、軽くて内部に気泡が多い特徴がある。調理の燃料として使用するには、火力が強すぎること、燃え尽きるまでの時間が短いことから不向きだった。

 

そこで水口さんが着目したのが土との相性だ。炭が持つ浄化作用、気泡が多い構造、もみ殻燻炭(もみ殻を炭にしたもの)が土壌改良に使われていることからヒントを得て、炭を土に埋めて農業に役立てるアイデアにたどり着く。炭、つまりは炭素を地中に埋める行為は、まさに「カーボンマイナス」。脱炭素社会実現の糸口となる画期的な発想だった。

各所から注目される「SUMIKA」の技術


炭の可能性を強く感じた水口さんは、これらの構想を「SUMIKA PROJECT」と命名し、2020年の福井県ビジネスプランコンテストにエントリー。“地球を澄んだ環境に、住みよい環境に”、の思いが込められたプロジェクトは見事グランプリを受賞した。

 

未利用材を炭化する事業は、「SUMIKA PROJECT バイオマス研究開発所」として、水口木材の新事業となった。現在水口木材で使われている製炭炉(せいたんろ=炭を作る装置)は約6時間の短い燃焼時間で炭が作れるという。

 

所長としてこのプロジェクトを運営しているのが松並輝昌(写真左)さんだ。プロジェクトのことを知った松並さんは「どうにかして自分もプロジェクトに携わりたい」と、勤めていた会社を辞めて水口さんにSNS経由でメッセージを送った。松並さんは「もともと環境保全活動に興味があったわけではなかったのですが、社長の『地球に寄り添った仕事がしたい』という熱意に惹かれて、どうしても一緒に仕事がしたいと思った」と話す。

 

炭化の技術は国内のさまざまな事業所から注目されており、その革新性が評価されている。解体で出た木材の処理に悩む解体業者、街路樹の剪定で出た大量の枝の処理に苦戦する地方自治体、さらに近年では山地の間伐材の画期的な利活用法を求める海外からの視察もあるという。SUMIKAの輪は確実に広がりを見せている。


実際に製炭の現場を見学させてもらうと、製炭炉はトラックの荷台に乗るほどの大きさで、想像よりもコンパクトだった。現地に製炭炉を運んで使用する用途を想定してのサイズだという。たとえば間伐材であれば山の近く、解体の廃材であればその現場付近に設置して省スペースで炭作りが可能だ。大量の炭の材料を遠方まで運ぶ手間はない。

 

さらに、製炭炉には排出される煙を二次燃焼する仕組みが設けられている。つまり、煙突から出てくる煙は無味無臭で、近くに民家があっても問題なく使用できる。使用場面を想定した緻密なこだわりからは、「場所や用途が限られたシステムでは環境保全は成功しない」という開発者からのメッセージを感じる。

 

「環境保全を追求することは、木材屋だからこそできる自身の使命だと感じています。SUMIKA PROJECTを、製材業と小売業に並ぶ水口木材の3つ目の柱に育てていくつもりです」と話す水口さん。その言葉には、子どもたちの未来を背負うリーダーとしての覚悟の強さがにじんでいた。

 

取材・執筆 虎尾ありあ

 

水口木材株式会社 https://mizuguchi-wood.co.jp/