Uターンで「私がしたいこと」を叶える

柴﨑美穂さん(SHIBA COFFEE店主)

働き方が多様化する中で、個人事業主になることを考える人も多いかもしれない。福井県の調査によると、県内の個人事業主の割合は全国14位と平均よりもやや高めだ(令和4年福井県経済センサスより)。2019年に福井へUターンした柴﨑美穂さんも、カフェ「SHIBA COFFEE」を営みながら、さまざまな仕事を掛け持ちする個人事業主のひとり。SHIBA COFFEEを始めたきっかけや、今の働き方を選んだ背景は何だったのだろうか?

 

SHIBA COFFEE誕生秘話

福井県越前市出身の柴﨑さんは、高校卒業のタイミングで専門学校進学のため京都へ。学校では医療事務を学び、卒業後は京都の病院に就職した。働き始めて7年目を迎えようとする頃、転職を考え始めるも「このままでいいのか現状に満足していないけど、これといってやりたいこともない」と悩んでいたという。

 

そんなある日、京都の古本屋が主催する「世界文庫アカデミー」という週末学校の情報を目にした。作家や歌手、雑誌の編集長、絵本書きなどを講師として呼び、その人たちの生き方や働き方を聞くという内容にワクワクした柴﨑さんは、面接を受けることに。しかし、やりたいことがないまま面接を受けるわけにもいかないと、自分のやりたいことについて考え抜いた結果、カフェ好きであることに気づいた。

 

「 コーヒーを淹れたことも、お菓子を作ったことも、カフェでバイトしたこともなかったけど、カフェは好きでよく行っていました。でも、ずっとカフェのお客さん側であることが悔しくて。『いつか カフェの店員側に行きたい』と憧れてたんです」

 

平日は医療事務の仕事をしながら、世界文庫アカデミーに参加。誰かが「こういうことをしたい!」と言ったらみんなが賛同し、「いつやるの?」と具体的に決まっていく。柴﨑さんにとって、アカデミーは刺激的な実践の場だった。

柴﨑さんが、初めてコーヒー屋をすることになったきっかけも、そんなアカデミーの空気感の中で生まれた。アカデミーの校長がイベントを開催することになり、そこでコーヒーを出す人を募集したのだ。

 

「やったことがなかったけど、やりたいです!って手を挙げました。実際にイベント当日は忘れ物や失敗が多かったし、めっちゃ緊張したけど、楽しかった。やりたいことやってる!って感覚でした」と柴﨑さんは当時を振り返る。

 

この時のコーヒー出店が、SHIBA COFFEEの原点だ。屋号を悩んでいると、校長から「覚えやすくてキャッチーだし、SHIBA COFFEE良いじゃん!」という一言が。こうして、SHIBA COFFEEが誕生した。

その後、医療事務の仕事を続けながらカフェで働き始め経験を積むことに。「人とちがうことがしたい」と考えていた柴﨑さんは、当時珍しいとされていた、「お店を持たずに出店するスタイル」をとった。定期的にイベント出店を繰り返すうちに、コーヒーだけでなくお菓子づくりにも挑戦するようになっていった。

 

福井へUターン、舞い込んでくる仕事のご縁

京都で働きながらも、いつか田舎でカフェをやることを思い描いていた柴﨑さん。そこで2019年5月、実家がある福井にUターンしたが、福井では「就職したいと思っていなかった」と言う。

 

「会社勤めはもういいかなって。会社だと私の代わりがいるから、面白くない。私にしかできないこと、私のしたいことをしようと思ったんです」約10年間地元から離れていたため、まずは繋がりを求めてイベントや飲み会に積極的に参加した柴﨑さん。福井で広がった人脈から声がかかり、イベントの事務局や、ゲストハウス、老舗漆器店で働き始めることになった。「仕事を覚え人間関係ができていくなかで、どの仕事も少しずつ、私にしかできない役割を見つけていけたように思います」。

 

こうして多くの人に出会っていく中で、ある日柴﨑さんにチャンスが訪れる。鯖江市の複合施設「PARK」の運営者から「何かやってくれない?」と声をかけられたのだ。「以前からいろんな人に「出張のコーヒー屋さんをしています」と伝えていました。とはいえ自分から動くよりも人から求められる方がやる気になれるので、声をかけてもらえて良かったです。当時はコロナ禍もあり店を持つことに疑問があったので、間借りでできるスタイルも理想的だなと思いました」

 

2020年8月、PARKで「SHIBA COFFEE」の営業が始まった。現在、柴﨑さんはSHIBA COFFEEのほか、老舗漆器店とデザイン会社で働いている。「ジャンルはさまざまですが、どの仕事も私だからこそできる役割がある」と語る柴﨑さん。Uターン時に思い描いていた働き方を、着実に叶えている姿はとても素敵だ。地方だからこそ、濃い人間関係が築かれ、ご縁が舞い込む。「私がしたいこと」の舞台に、福井を選んでみてもいいのかもしれない。


SHIBA COFFEE https://www.instagram.com/shiba_coffee/

取材・文 川上真理子