息子の成長に寄り添う、暮らしの舵取り

野尻家

家族が増えるタイミングで暮らしをシフトさせる家庭は多い。今回は結婚を機に愛知から福井に移住し、夫婦2人のアパート住まいから家族4人の一軒家住まいへ暮らしを移行させた野尻家を紹介する。

あわら市の田んぼや畑が広がるエリアに家族4人で暮らす野尻家。結婚、出産、小学校入学とライフステージに合わせて住まいや働き方を柔軟に変化させ、家族4人の心地よさを模索している。妻の野尻ともこさんに、暮らしのなかで大切にしているポイントを聞いた。

 

「帰ってきたくなる家」を形にするハウスメーカー選び

お家におじゃますると、ほんのりブルーの色味に北欧風の模様がほどこされたキッチンタイルが目を惹く。ほかにもペンダントタイプのテーブルライトや、白地のバーチカルブラインド(カーテンと同じように左右に開閉する縦型のブラインド)など、リビングには野尻さんの「お気に入り」がちりばめられている。

 

「子どもが生まれたら、一軒家を建てようと決めていました。家を建てるということは、この先ずっと暮らす場所を作るということ。一生住む家だから、住人のわたしたちがウキウキする空間を作ろうと主人と話していたんです」と野尻さん。

まずは大規模な住まいフェアに行き、ハウスメーカーごとの特徴をつかむところから家づくりがスタート。そのなかから3つのメーカーに理想の家事動線や設備を伝えて設計図を描いてもらい、予算内でバランスよく要望を形にしてくれた1社に決めた。

ハウスメーカーとの打ち合わせを進めながら、店頭やSNSでお気に入りのインテリアを見つけると、写真に納めたりメモをしたりして、家づくりの参考資料としてストックしていたそう。

 

「家に帰ってきたときに『今日も帰ってきてよかった』と思えるオシャレな佇まいだったり、料理をしながら『このキッチンが好きだな』と思えるようなタイルだったり、そんな要素も取り入れてプランニングしてもらいました」

 

床暖房よりメリットが多い「床下冷暖房」を選んだ理由

部屋を見渡すと、野尻家のリビングにはエアコンがないことに気づく。その代わりに床に通気口のようなものが。通気口の正体は、床下冷暖房。床下冷暖房は、床の通気口を通じて冷風や温風を出して部屋の温度を管理する空調システムで、よく耳にする床暖房とは異なる設備だそうだ。

「寒さが厳しい福井の冬。床暖房を入れたいと業者さんに相談したら、『床下冷暖房はどうか』と提案してもらいました。延べ床面積では、床暖房よりコストパフォーマンスが高い点と、床暖房よりも部屋全体を暖める機能が優れている点が決め手で、床下冷暖房を設置しました」

壁にエアコンがなくて部屋がスッキリすることや、顔に直接風が当たらないことも気に入っているポイントだという。床下冷暖房は、湿気の多い福井県の夏の蒸し暑さや冬の底冷えにうってつけの空調設備なのかもしれない。

 

ほかにも、洗濯物を干すためのサンルームを設けることも雨が多い福井県ならでは。愛知出身の野尻さんは福井に来て初めてサンルームという言葉を聞いたそうだ。

「アパート探しをしているとき、間取り図にサンルームという部屋があるのを見て、『このスペースはなんだろう』と不思議に思っていました。実際に福井に住んでみて、洗濯物が乾きにくいと痛感。新居でもサンルーム用に南向きの小部屋を設けました」

 

長男の小学校入学を機に在宅での働き方を選択

野尻家の長男は現在小学1年生。野尻さんは、子どもが小学校に入学するタイミングで長く勤めていた派遣会社を退職。現在は在宅でライティングやSNS運用の仕事に携わっている。

「息子たちと向き合う時間を増やしたくて、家で仕事ができる働き方を模索していました。外で勤めていると、退勤して、園に迎えに行って、ご飯を作って、家事をしてと、夕方以降の時間はバタバタ。子どもが話しかけてきても、話半分でしか聞けていませんでした。兄弟それぞれとじっくり関わる時間も少なくて、2人ともさみしい思いをしていたんじゃないかと思います。

今は、家で仕事ができるようになり、14時過ぎに帰ってくる小学1年生の長男と一緒に宿題をして、その日学校であったことを話しています。それから次男を園に迎えに行って、次は彼の話を聞いて、という感じですね」

小学校進級を区切りに働き方をシフトした背景には、変化が大きい時期に寄り添いたい気持ちと、いつか自分から離れていく男の子の子育て期間を大切にしたい気持ちがあったという。


「小学1年生は子どもにとって変化が大きい時期。これまでと違う環境で、新しい体験や知識を吸収して帰ってくる。本人も知らないうちにものすごくがんばって、心も体も一生懸命だと思うので、こちらが余裕をもって見守って、ケアしていきたいと思うようになりました。

それから、小学校高学年にもなれば男の子は母親から離れていくし、もう少ししたら手も繋いでくれなくなるかもしれない。そう考えたら、そばにいられる時間は限られているんだろうな、と思ったんですよね。この数年は近くでじっくり過ごしたいなと、そんな気持ちも働き方を変えるあと押しになりました。

家で仕事をして子どもたちと話す時間が増えた分、小さな変化や心の揺らぎに気づけるようになったと思います。在宅で働くのは仕事量や時間の管理が難しいと感じることもありますが、今のわたしにとっては在宅に重きを置く働き方がベストだと思っています」

住まいや働き方をシフトさせて家族に向き合う野尻さん。ライフステージの変化を前向きに受け入れ、家族や自分の「今」を大切にしながら暮らしている姿が印象的だった。

 

取材・文 虎尾ありあ