ママのつながりをサポートして、あわら市の暮らしを楽しく

野尻ともこさん(子育てコミュニティCheers代表)

愛知県出身の野尻ともこさんは2014年に結婚を機に福井へ移住。福井市で数年過ごしたのちに、夫の出身地であるあわら市へ引っ越し、現在は家族4人で暮らしている。

2人の男の子を育てながら、県外出身の女性を支援する団体「福井に住む県外女子チームZUK」の初期メンバー、あわら市の子育てコミュニティ「Cheersママコミュニティ」の主催者として、積極的に活動。「とにかく福井で友達がほしくてたまらなかった」と話す野尻さんに、コミュニティを運営する原動力を聞いた。

 

結婚をきっかけに愛知から福井へ移住


2014年に結婚と同時に福井に移住した野尻さん。住み慣れた愛知を離れるのには、少なからず決心が必要だったそうだ。

「愛知での仕事や暮らしが好きだったので、なかなか福井への引っ越しに踏み出せずにいました。とはいえ、遠距離恋愛を長く続けていた現在の主人との結婚を考えていましたし、『いつまでも迷ってはいられない』と移住を決心しました」

福井では運よく移住前に勤めていた会社の支店で働くことができ、引っ越し後はすぐに仕事をスタートさせた。しかし、知り合いがほとんどいない福井の暮らしになかなか馴染めず、2〜3カ月に1度のペースで愛知に帰る生活が1年ほど続いたという。

「福井でも友達を作りたいと思って、Facebookで楽しそうなイベントを見つけては積極的に参加していました。でも、なかなか打ち解けて話せる人には出会えず、さみしさを感じることも多かったです」

 

県外出身の女性の暮らしに寄り添う「移住サポーター」に

福井での生活に前向きになれなかったものの、福井生活の備忘録として、Facebookにレストランで食べたランチや立ち寄ったカフェの情報をアップしていた野尻さん。それを見た愛知の友人たちから『福井っていいところ! 行ってみたい』とたくさんのコメントをもらったそうだ。

そんな時、知人の紹介で移住者としてインタビューされることに。

「福井に住んでいる人は『地元にはなにもない』と言いがちですが、わたしも、わたしの投稿を見た愛知の友人も、そんな風には少しも感じていません。インタビューを受けたときに、そのエピソードを思い出して『ないものに目を向けるのではなくて、今あるものを伸ばしていくのがいいと思う』と答えました」

この記事が県の職員の目にとまり、『前向きな発言が素敵』と県の移住サポーターを任されることになった野尻さん。
記事をきっかけに、福井の友人の輪が広がっていった。

さらに野尻さんは県外出身の女性をサポートする団体「福井に住む県外女子チームZUK」の初期メンバーに抜擢。移住の支援をしたり、メディアで福井の暮らしを発信したり、精力的に活動に取り組むようになるなかで、心境にも変化があらわれていった。「自分と同じように他県から来た人と悩みを共有したり、アドバイスしあったりして、さみしい気持ちが薄れていきました。福井の生活がどんどん充実していくターニングポイントでしたね」と当時を振り返って笑顔を見せる。

 

「ママ友がほしい!」を原動力に子育てコミュニティを作る

2人目の子どもの出産を機に、2019年福井市から夫の地元あわら市に移り、家族4人での生活をスタートさせた野尻さん。新しい土地で子育てに奮闘するなか、「育児の悩みを話せるママ友がほしい」と近所の子育て支援センターに通うようになった。

「福井市にいたころの友人と会いにくくなってしまって、あわら市でもママ友がほしい!と切実に感じていました。支援センターでよく顔を合わせるお母さんはいましたが、連絡先を交換したり、センターの外でも遊んだりする仲にはなれず。

子育てサークルを探すも、あわら市では見つけられなかったので、『じゃあ自分が作ればいいか』と次男の育休中に、ママコミュニティ『Cheers(チアーズ)』を立ち上げました」

Cheersは「福井ママが繋がるきっかけづくり」をテーマに掲げ、SNSで子育て情報を発信したり、イベントを開催したりして、母親たちのゆるやかなつながりを作っていった。野尻さんがたった1人で始めた小さなコミュニティは、徐々に参加人数を増やし、活動の幅を広げていく。運営は3名体制になり、2023年3月には「ふくい女性のチャレンジ賞」を受賞した。

 

念願のハロウィンパレードを実現

野尻さんにとって一番思い出深いイベントは、2023年にCheersとあわら市が共催したハロウィンパレード。パレードはJR芦原温泉駅の駅ビル「アフレア」で開催され、120人以上が参加するにぎやかな催しとなった。

「実は、Cheersの活動を始めたころからずっと『いつかハロウィンパレードがやりたい』と思っていたんです。仮装をした子どもたちが集まって、親子で歩いたら楽しいだろうな、と。コミュニティの活動で関わる人たちにも『ハロウィンパレードがしたいんです』とことあるごとに話していました(笑)パレードはCheersのひとつの夢でしたね。

その夢が叶ったのが、アフレアのイベントだったんです。自分たちだけでは実現できなかった規模の大きな企画でドキドキしましたが、市内外からたくさんの親子が集まってくれて幸せな気持ちになりました」

ほかにも、2024年4月には「道の駅 蓮如の里あわら」の周年イベントでお菓子まきの大役を務めるなど、着実に活動を続けてきたCheersは市からの信頼も厚い。今後も地域やまわりの人たちを巻き込み、さらに輪を広げていくことだろう。

 

子どもたちが育っていくあわら市での暮らしを楽しく

Cheersを立ち上げたきっかけは、子育て中の母親同士のつながりを作ることだったが、最近はあわら市の地域課題に目を向ける機会も多くなってきたそうだ。

「息子たちを育てているなかで、この子たちの暮らしの拠点になるあわら市が元気な地域じゃないと、将来残念な思いをさせるかもしれない、と考えるようになりました。

そのためには、わたしたち親世代が今から『楽しいまち』を作っていかなきゃ、と思って。今はそれが活動の強いモチベーションになっています」

 

今後もパレードのような大規模イベントに引き続きチャレンジしつつ、「参加者同士がじっくり関わり合えるような、横のつながりが生まれる仕掛けも作っていきたい」と前を見据える。

「大きなイベントは盛り上がりが感じられて楽しいですが、参加者一人ひとりとの交流が薄くなりますよね。Cheersとしては、来てくれる人と密に接したいし、来た人同士が次につながるような時間を過ごしてほしいという気持ちも大切にしています。

わたしは初めて会った人にも『仲良くしてください!』ってガンガンいっちゃうタイプなのですが(笑)、イベントに参加しても、自分からは話しかけられない人も少なくないはず。そういう人のフォローができる主催者でありたいですね。

横のつながりがじんわり広がって、『ちょっと外に出てみようかな』とか『新しいこと始めてみようかな』と思う人が増えれば、あわら市での暮らしが楽しくなっていくと思います。小さなコミュニティなので、企画できるコンテンツやリソースは限られているけれど、丁寧にときに大胆に、来てくれる人を大切にしながらこれからも活動を続けていきます」

 

取材・文 虎尾ありあ

Cheers https://www.instagram.com/cheers_fukui/