地域と医療をつなぐ架け橋に
加藤瑞穂さん(看護師/保健師/コミュニティナース)地域と医療をつなぐ架け橋に
加藤瑞穂さん(看護師/保健師/コミュニティナース)笑顔がすてきな加藤瑞穂さんは、福井市を拠点にフリーランスのコミュニティナースとして活動している。「コミュニティナース」とは、暮らしの身近な場所にいて、地域の住民と関わるなかで自由で多様なケアをする人のこと。医療資格は必須でなく、「人とつながり、まちを元気にする」実践のあり方をさす。加藤さんは看護師や保健師の経験を活かして、地域と医療をつなぐ架け橋になっているのだ。
「医療と日常の暮らしをシームレスにつなぎたい」という加藤さん。そもそも、どうして看護の道を選んだのだろうか。
「保健師として地域を動きまわっていた祖母の存在が大きかったです。私の母は徳島県出身で、毎年長期休暇には徳島の祖母の家に遊びに行っていました。祖母の家には地域からの感謝状がたくさん飾られていて、地域に貢献している人なんだなって、少しずつ祖母に憧れを抱くように。祖母は今でいうコミュニティナースのような活動をしていたんだと思います。そして高校2年生の進路選択のときに、『祖母のようになりたい』と、地域看護の道に進むことを決めました」
加藤さんは、看護師と保健師の資格がとれる福井医科大学(現:福井大学医学部看護学科)へ進学。卒業後は、福井大学医学部附属病院などで看護師として勤務。その後、自治体の保健師として母子保健健診やがん検診業務を兼務しながら、2017年には看護師の仲間と一緒に訪問看護ステーションを立ちあげることに。
訪問看護では、毎日数件の利用者さんのおうちを訪問し、健康状態に応じたサポートを行った。さまざまな在宅ケアや看取りを行うなかで、加藤さんは「病気そのもののケアだけでなく、その人の暮らしや大切にしているものも支えたい」と思うようになった。
「利用者さんの願いは、『学校に行きたい』『会議に出たい』など、地域の暮らしのなかにありました。看護師として地域にとびこむなかで、『どうして看護師は“病気になってから”しか出会えないのだろう?』と疑問に思うようになったんです」
病院にいる看護師や訪問看護師がケアの対象とするのは、病気になった人たち。つまり、既存の医療のしくみでは、看護師が病気になっていない人にタッチすることは難しい。また地域にとっても、予防医療と言われるわりには、健康のことを気軽に相談できる医療従事者が近くにいないのも課題だった。
そこで、「病気になってから患者と看護師として出会うのではなく、暮らしのなかで人と人として出会うことで、その人らしさをより大切にできるケアができるはず」と加藤さんは考えるようになった。
そんなあるとき、知人から「コミュニティナース」という言葉を教わった加藤さん。調べてみると、奈良県で開催されている「奥大和コミュニティナース養成講座」の存在を知ることに。コミュニティナースの活動が「祖母が地域で実践していたことに似ている!」と感じた加藤さんは、2019年に講座に参加。医療に対して同じようなマインドを持った仲間たちと出会い、それぞれの地域で実践している活動をブラッシュアップ。今でも、養成講座の同期とは互いの活動を共有しあっているのだそう。
養成講座を経て、『コミュニティナーシング×訪問看護』の活動を続けているうちに、加藤さんのなかで、もっと地域で当たり前の場所にとけ込んでみたいと思いが募っていった。そして縁あって働くことになったのが、コミュニティナーシングの実践を試みる福井市の「まあるカフェ」だ。
まあるカフェでは、暮らしのなかで出会えるコミュニティナースとして、地域住民や大学生とのコラボ企画やフリーマーケットの開催など、地域の日常に寄り添った活動を行った。また、カフェの店員として、メニュー開発や調理などのこれまで経験したことのない仕事にもチャレンジした。
そして、2023年9月には独立。フリーの看護師・保健師・コミュニティナースになった。
現在、加藤さんのコミュニティナースとしての活動は多岐にわたる。企業への訪問や大学・行政とのコラボなど、既存のしくみに看護やコミュニティナーシングのエッセンスをプラスすることで、暮らしのなかでの看護の可能性を広げている。
▲福井のまちなかが舞台の市民大学「ふくまち大学」では、「まちの健康学部 まちのコミュニティナース学科」として加藤さんが先生を務める。医療の資格をもたない人に向けても、コミュニティナースの活動を発信する機会に
▲がんに関わる人ならだれでも足を運べる予約不要のサロン「がんコミ!」を立ち上げ、これまで病院のなかでしか開催されていなかった相談支援の場を、カフェなどのリラックスできる場で提供している
これから加藤さんが福井で取り組みたいことについて伺った。
「ライフステージに応じて多様に働ける看護師のしくみを作りたいです。看護師の仕事自体は好きだけど、今の働き方に違和感を感じている方や、資格はあるけど看護の現場から離れている方が福井県内には一定数いるはず。そういった方が活躍できる場を作りたいですし、『こんな働き方もできるよ』と選択肢を示したいです。
また、これからの社会は地域全体でケアを行っていく時代になると思います。看護の資格がない人でも予防医療に関わっていけるしくみも作っていきたいです」
めざすのは、「暮らしのなかでの看護の可能性の最大化」。「看護×⚪︎⚪︎」の化学反応がおこることで、地域と医療が混ざりあい、まちが元気になるのかもしれない。
最後に、福井での暮らしを検討している方に向けてメッセージをいただいた。
「福井では、なにかにチャレンジしたいと思ったときに、賛同して力を貸してくれる人が多いし繋がりやすいと感じます。それに、同じ思いをもって動いている行政職の人とも出会うことができるので、やりたいことがある方にはおすすめしたい地域です。
福井は山も海も川も近くて、人や自然が豊かです。食べ物が美味しいし、のびのびと過ごせるので気に入っています。今生きているなかで余白がほしい人や、生きづらさを感じる人には深呼吸できる場所になるかもしれません。
あとは、元気でかわいいシニアが多いのも魅力だと思います(笑)ぜひ一緒に医療や看護をおもしろくしていきましょう! 」
取材・文 ふるかわともか