軸を大事に、心地よい生き方を探してみる
髙橋要さん(合同会社ノカテ)軸を大事に、心地よい生き方を探してみる
髙橋要さん(合同会社ノカテ)山形県出身の髙橋要さんは、2015年の秋、地域おこし協力隊として福井へ移住してきた。
福井市山間部に位置する小さな地区を活動エリアとして3年間を過ごし、任期満了後も福井に定住。
「福井にきて時間が経てば経つほど、自分がどういう人間かっていうのを肩書きで説明するのが難しくなってきました(笑)。自分の中では3つくらいやりたいことやありたい姿の軸があって、それをできるように、そうあれるように暮らしてるという感じです」。
自身の言葉を体現するように、ライティングや編集、まちづくりの支援などさまざまな仕事に取り組みながら、2021年には自身で会社も設立するなど、多方面で活躍する。
そんな髙橋さんが、福井というまちに暮らし続ける理由とはー。
「福井に来る前、地元の山形を出てからは、新潟や京都で暮らしていた時期がありました。もともとは教育の道を志してたんですけど、いろんな場所で暮らす中で、自分は教育という分野に限らず人と関わることがしたいんだなと気持ちを整理できて。自分にとっては地域という暮らしの場を起点にしながら人と関わることが心地よくて、そこに身をおくこと自体が仕事にできるといいなと思ったんです」
おぼろげながら自分のありたい姿を見つけた髙橋さんが次のチャレンジの地として選んだのが、福井だった。
「進路のことを相談した知人が、たまたま今ぼくが住んでいる福井市内の小さな村(殿下地区)とつながりがあって、ちょうどそのタイミングにその村で地域おこし協力隊を募集していたんです。人口も少ない地区だし、高齢化率も市内ではダントツ。でも、地区としてすごく熱心に地域づくりに取り組んでいて、キーパーソンとなる人たちも何人かいらっしゃった。『この地域なら、何かできるかも』という直感があったんです。だから、殿下という地域に来たいという気持ちが先にあって、そこがたまたま福井にあったというほうが正確かもしれないです」。
ひょんな縁から福井と出会うことなった髙橋さんだが、時間が経つにつれ、福井というまちに暮らすことの価値を徐々に感じていくようになる。
「まちづくりやものづくり、デザインといった界隈で活躍しているプレイヤー同士がすごくつながりやすい。意識的にそういう人が集まる場所に顔を出していたということもありますけど、移住して数ヶ月でまちのキープレイヤーたちとつながることができました。自分が拠点にしているのは市内から離れた田舎だけど、SNSなどでつながっていればお互いの状況を伝え合うことができる。殿下に暮らしているぼくのこともみんな面白がってくれて、エリアを超えていろんなことを生み出せそうだなという感覚がありました」
普段の活動は殿下地区を拠点としていたが、積極的に地区外とのつながりもつくることで、活動の幅を広げていった。そのなかで感じていたのは、さまざまな仕事にチャレンジできる機会の多さだった。
「ぼく自身は何か専門的な知識であったりスキルを持っている訳ではないんですけど、協力隊としていろんな活動をしたり成果物をつくったりしているうちに、『ライターやってみない?』とか 『編集やってみない?』っていう声がけをもらえるようになったんです。なんか福井って、そういうことが結構ある気がしていて。できるかどうかっていうよりも、『あの子ならやれるかも』みたいなレベルで声をかけてくれる感じ。人手が足りないとかいろいろな事情があるのかもしれないですけど(笑)、人からもらった声がけを通して、自分自身の可能性を広げてもらったような感覚はありますね。そういう声がけをもらえるところにちゃんといるということも大事なんですけど、福井は割とそれがしやすいと思います。活動や作品なんかを通して『自分はここにいるよ』って声を上げたらちゃんとみんな見てくれるというか。自分は田舎のほうで活動していたので、余計に目立ちやすかったという運の良さもありますけどね」。
地域おこし協力隊としての任期を満了し、すでに福井生活9年目を迎えている髙橋さん。現在はどのような暮らしに身を置いているのだろうか。
「まちなかでの仕事もしてますけど、ここ3年くらいは越前海岸エリアにいることも多いです。福井で出会った仲間と立ち上げた『ノカテ』という会社で、越前水仙の産地の風景を次代へつないでいくために水仙を育てて自分たちで販売するっていう、農家さんみたいなことをしています。水仙自体を売りたいっていうよりは、自分たちが売る水仙を通して、自分たちが惚れ込んだ産地の景色を誰かにつなげていきたいという感じ。もう少しで産地の中に拠点もできる予定です。ノカテとしての活動は、自分の中の大きな軸のひとつですね」。
「それ以外だと、相変わらず殿下地区のみなさんにはお世話になっているし、越前海岸エリアの事業者が集った『越前海岸盛り上げ隊』の一員としても楽しく活動させてもらっています。殿下地区や越前海岸盛り上げ隊のみなさんは家族とか親戚みたいな感覚で、その人たちと過ごす時間をちゃんと持つ(それをないがしろにしない人である)ということも、自分の中では大事な軸です。それを大事にできていたら心地よいし、大事にできていないときはなんかモヤモヤする。暮らしの軸を大事にできているかどうかが、仕事を選ぶときの判断基準になったりしてますね」。
福井で充実した時間を過ごしているように見える髙橋さんだが、「これからもずっと福井にいるか?」という質問に対しては意外な答えが返ってきた。
「『永住』っていう言葉は嘘くさいので使わないようにしてます(笑)。地元に帰ったりとか、別の地域に移住したりとか、そんな可能性も排除するつもりは全然ないです。実際には自分で会社もつくったしいろんな仕事のつながりもあるから、結果として20年も30年も福井で過ごすことになるかもしれないけど。それでも何があるかはわからないから気持ちは常に軽くいたいなと思うし、そういう考えでいる自分みたいな人間が地域の中で活躍するということを面白がってもらえたらいいかなと思います。何かが動くときって、そういうタイミングだってことが自然にわかると思う。動こうっていうより、動かなきゃっていう感覚。少なくとも自分にとってそのタイミングは今じゃないし、まだまだ福井でやれること、やらなきゃいけないことがあると思ってます。その気持ちがあるうちは、福井での暮らしを続けていると思います」。
「さっきも言ったように、何かが動くときはそのタイミングがきっと自然に訪れると思います。でも、待ってるだけでもダメで、迎えにいくようなアクションも必要というか、『このタイミングだ!』って確信を得るために必要なつながりや情報をいかに多く得られるかということが大事な気がします。やっぱり、誰かとの出会いや誰かの言葉が背中を押してくれるっていうことは往々にしてあるじゃないですか。それでいうと、福井は人のつながりが広がりやすいまち。人とつながることで地域の深い情報にアクセスできたりもするし、Uターンの方でも、これまでの知り合いだけじゃなくてUターンの検討を機に新しいつながりをつくってもらうと、自分が住んでいたころの福井とはきっと違う景色が見れると思います。かくいうぼくも、越前海岸エリアならアテンドや人の紹介もできるので、もし機会があればぜひお声がけいただきたいですね。自分自身がもらってきたご縁を誰かにつなぎたいという思いは常に持ってます。みなさんとお会いできるのを楽しみにしています!」