中小企業を支援するには起業しかない
「中小企業のお客様が苦しんでいるのに、私は何もできない。会社員時代、2度ほど苦い経験をしたことがあります。それがコンサルティング会社の起業のきっかけになりました」
代表取締役の川原拓馬さんは、もともと中小企業に興味があり、大学生時代には経営コンサルタントの国家資格である「中小企業診断士」を取得。新卒で商工中金に入社したのち、より一社に深く入り込んだ本格的な経営改革に取り組みたいと考え、大企業向けのコンサルティングを行うファームに転職した。
そんなとき、銀行員時代のお客様から「経営が厳しく、自分だけではどうしようもならないので手伝ってくれないか」と連絡があった。
「話を聞いてみると、財務活動に大きな間違いがありました。銀行員時代にとてもかわいがっていただいた社長だったので、もっと早く相談してくれたらこのような事態を防げたのに……と非常に悔しい思いをしました」
その後、つき合いのある税理士から別の企業の相談があった。「お金を払うから、とにかく助けてほしい」と言われたが、当時はコンサルティングファームに勤務していたため、副業はできなかった。
「起業しないと、このような会社のお手伝いはできないのか。自分の会社であれば、成功報酬型など報酬体系を自由に設計できるのに……」
そんな「中小企業を助けたい」という熱い想いが、川原さんに独立を決意させた。
「成果」と「視座」を意識したコンサルティング
2012年10月、大阪市淀川区にオフィスを構え、関西エリアの中小企業を中心に、財務系コンサルティング・M&Aアドバイザリー・補助金などの制度活用支援の3つの事業を軸としたコンサルティング会社を設立した。川原さんには、当時から今も変わらずに大切にしていることがある。1つは、利益やキャッシュフローという成果を出すことだ。
「いくら経営者に寄り添っても、利益が出なければ、良い社員に長く勤めていただくことはできません。もちろん、外部機関からの支援も受けられないため、新しいチャレンジもできなくなります。会社の利益を出さなければ、私たちの存在価値はないと思っています」
きれいごとを抜きにして、会社には利益や資金が必要。そんな当たり前のことを忘れないようにしているという。
もうひとつは、社名の由来にもなっている「視座(シザ)」を意識すること。ちなみに視座とは、物事を視る角度や高さを指す言葉だ。
「コンサルティングでは、企業と一体となった支援が求められます。その一方で、お客様と違う視座を持ち、大所高所から企業を見ることで、付加価値の高い提案ができる側面があります」
外部だからこそ、客観的な視点で、お客様が気づいていない課題や強みを見つけ、よりよい方向へとサポートしていく。これがコンサルティング会社の役割であり、企業の発展や地域の活性化へとつながっているのである。
プロフェッショナルに徹する
メイン事業のひとつである補助金制度活用支援では、制度を解説する募集要項が100以上に及ぶことがある。なかにはYouTubeや勉強会を視聴したのみで説明する人もいるが、川原さんはページの端から端まで、何度も繰り返して熟読し、わからないことがあれば、すぐに事務局に確認するそうだ。
「お客様への提言を間違えたくないので、完璧に理解するための努力は惜しみません。私自身、プロ意識を高く持っていますし、従業員も傍から見ていて感心するほど、しっかりと仕事に取り組んでいます」
川原さんは当たり前だと言うが、お客様から驚かれたり、同業者から問い合わせを受けることも多いそうだ。
また、新型コロナの影響でオンライン化が加速するなか、お客様の経営改善のスピードアップに貢献するため、動画コンテンツを使ったコンサルティングや仕組みづくりに力を入れている。社外に対しては、補助金制度や事業計画書作成方法を解説する講座などの動画を自ら制作して最新情報をリアルタイムに発信。社内でも教育の一環として、マニュアル資料とあわせて動画を積極的に活用している。オンライン講座により、既存顧客以外の中小企業や個人経営者も役立ち、徐々に反響も増えているそうだ。
会社が変わっていくダイナミズムを実感
世の中には、手助けを必要としているが、コンサルティングを活用できない中小企業がいまだに多く存在する。そんなお客様にアプローチできることが面白く、やりがいを感じていると川原さんは語る。
「大企業の経営方針を変えるのは大変ですが、中小企業の場合、経営者に直接働きかけることができ、自分の提案で明日にでも会社が変わる可能性があります。そんなダイナミズムを得られることが魅力です」
では、今後の事業展開についてはどのように考えているのだろうか。川原さんにはチャレンジしたいことが2つあるそうだ。
「1つは、ノーコード・ローコードのビジネス開発です。今はITの技術革新により、コストや時間をかけず、容易にシステム開発ができる時代になりました。DXというと構えてしまうかもしれませんが、手書きや二重入力、複雑なエクセルでの業務が残っている企業が多くあります。そんなお客様向けに効率化や生産性向上を推進する事業を立ち上げたいと考えています」
企業にとって生産性は、利益に直結する重要なポイントであり、川原さん自身もこだわって自社の経営に取り組んでいるそうだ。
もうひとつは海外進出だ。お客様には海外に生産拠点を設けたり、自社製品を販売する企業も増え、海外事業の可能性を肌で感じているという。
「少子高齢化を迎えた日本だけでは、ビジネスは厳しい環境にあります。日本企業の海外展開、さらに日本市場でビジネスを考えている海外事業者の支援ができたらいいと思っています。私自身、アメリカ、ラオス進出企業のお手伝いをした経験があります」
「頑張っている人が、報われる世の中であって欲しい。コンサルティングは、そんな企業や経営者の方々のお手伝いができる仕事だと思っています」と力強く語る川原さんからは、事業にかける情熱と使命感がひしひしと伝わってきた。
これから求める人材について
最後に、これから募集したい人材について聞いてみた。
――補助金担当者は、募集していますか。
現状では、採用する意向はありません。現在、外部のプロライターさん10人程に業務を手伝ってもらっています。補助金の申請書は、聞いた内容をそのまま書くのではなく、審査項目を踏まえた上で、審査員に書面で正しくわかりやすく伝える必要があります。これは高度スキルであり、弊社の仕事以外でも多様な経験を積んでいる外部のプロフェッショナルとチームを組むことが最適であると考えているからです。一方で、制度の理解やお客様とのやりとりは責任が大きい業務であり、社内で行っています。
――M&AとDXに関する人材募集は?
DXに関しては、少しプログラミングができる方が理想ですが、パソコンに抵抗がなく、学習意欲が高くてアイデアを出してくれる方であれば大歓迎です。特に弊社は、40歳前後代が中心なので、若い年代や女性、海外ビジネス経験者など、社内のメンバーとは異なる経歴や個性のある方に来ていただき、チームの幅を広げていきたいと考えています。
――会社として、大切にしていることは何ですか。
一人ひとりが自立していること。できる限り管理を減らしたいという考えです。業務の相談には乗りますが、こちらからあれこれ指示することはほぼありません。私自身、管理するのもされるのもあまり好きではないので、自立と自由を重んじる社風は大切にしていきたいと考えています。