■ 金楠水産株式会社 事業概要
金楠水産は明石にある100周年を迎える会社である。
創業は煮干しの製造からスタート。「釜茹で」技術の応用として地元の名産・明石だこを茹ではじめ、今では看板商品となった。タコ以外にも漁師が獲ってきた魚に手を加えて干物をつくるなど、「水産加工業」を営んでいる。
名産である明石だこ。そのタコで世界を救えると本気で考えている。タコには様々な栄養素が含まれており、身体に良くておいしい。さらにおいしくて健康にも美容にもいい。この魅力をもっとたくさんの人に知ってもらえれば、世界は御多幸で溢れる。金楠水産はそう信じ、100周年を迎えこれから先も美味しいたこを作り続けていく。
■ 家業を継ぐことを意識して築地市場で魚のいろはを学ぶ
4代目・樟陽介さんはもともと家業を継ぐ立場になることを想定していたので、魚のいろはを学ぶため築地市場で働いていた。そこで6年間勉強し、25歳となったちょうど10年前、東日本大震災の頃に会社に戻ってきた。「現在、役職は特にないのですが、タコの買付から製造・販売まで任されているので、たこ匠と勝手に名乗って商品を作っています」
100年続く会社は当初、祖父が干物を製造していた。魚を日持ちさせるために干物を作っていたが、今では「魚をより美味しくする」ことを心がけて商品を作っているのだと言う。
「例えば、水分量や塩加減、その魚に対して何が適切な加工方法なのか見極めることが重要なんです。素材が主役の魚ファースト・タコファーストということですよ」と、樟さんは仕事のこだわりを分かりやすくキャッチ―な言葉で楽しそうに説明してくれた。
■ 外に出て初めて気付いた地元・明石食材の美味しさ
6年間の東京修行時代を過ごした後、明石に戻ってきて地元の魚を食べたとき、樟さんは衝撃を受けたという。「僕は生まれも育ちも明石の人間です。もともと家業で魚を沢山食べてきたこともあり、明石の魚のレベルが高いことに気付いていませんでした。幼いころからその美味しさが当たり前でしたからね」
その中でも別格だったのが明石だこだった。しかし、そのことに気付いても「金楠水産のタコが美味しい」より「明石のタコが美味しい」という認識だったと言う。
名産・明石だこの知名度に頼るだけでなく、金楠水産が作るタコだから美味しいという認知を広めるためにリブランディングが必要だと気付いたのだという。
■金楠水産のリブランディングを目指し、商品力がある明石だこに特化
気付きから生まれた明石だこに特化した商品企画を実現するべく、試行錯誤が始まった。今まで市場流通でしか販売していなかったタコを「金楠の明石だこ」として直接販売に力を入ることに。「タコひとつとっても、それぞれいろいろな食べ方や魅力があります。それを美味しいだけではなくて、いろいろな形で伝えていこうと思っています」
新たな試みとして始めた2回目のクラウドファンディングでは目標金額の4倍の資金を集めることに成功し「茹でタコ、食べ比べセット」商品を開発。「今まで既に茹でられたタコばかりが主流になっている中で、改めて「茹でる」という価値、それをきっかけに新しくタコをリブランディングしていきたい思いから開発しました」と樟さんはいう。
実際に商品販売がスタートしてから、一般の方はもちろん、飲食店の方からも好評を博している。今後はレシピ開発なども行っていきたいそうだ。食材の加工過程でどうしても端材が出てくるので無駄にすることなく、そこから違う商品に変化させるアップサイクルもしていくつもりだという。
■ 100年企業のこだわりは持ちすぎず、凝り固まらない柔軟性を
順調に明石だこの新しい商品価値を上手くブランディングしているように見えるが、どのように行っているのか、改めて樟さんに聞いてみた。
「ブランディングに関しては、僕というより、友人でありパートナーのてとてと夫婦(食のクリエイティブディレクターのゴウキ&ライフスタイルデザイナーのモモコの夫婦ユニット)がすごいです。僕が面白いと思っていることを理解して共感してくれる大切な人たちで、今の事業を話したときに「こんなのやってみたらどう?」と色々な案を提案してくれました」
彼らのアドバイスのおかげで人をワクワクさせる商品づくりが出来ているという。その結果がリブランディングの成功に繋がっているということだ。
「普通、リブランディングと聞くと「包装紙をおしゃれにしよう」とか「ホームページをかっこよく」になりがちだと思います。僕もそのタイプですが、実際はどんな風にすればよいのか全然わからなかったところを、てとてと夫婦が形を作ってくれました。仲間がいてくれることが本当に大きいです」という樟さん。
仕事を任せられることが大事だという。商品と技術のこだわりはあるが、こだわりを持ち過ぎると凝り固まってしまう。ある程度、事業内容や商品化についても任せることで、一緒に作っていくような仲間としてやっていくことが大切なのだと。
「例えば、包装紙をリニューアルしようと話が出ても、昔の方と今の僕たちとで意見はやっぱりわかれてしまいます。先人が「良い」と思うものと、今の僕たちが「良い」と思うものには違いがありますから。でも、そのままだと今までの枠組みから出られないままの状態だと思うのです」
事業者として思ったものをそのまま業者に作ってくださいと言えば、その通りのものができあがる。しかし、それだけでは面白いものはできない。「どんなものをつくるのか」は、いろんな人や仲間に任せたり託したして、変化を加えていくことで新しいものができると樟さんは話してくれた。
■ 会社の展望は個人頼みの加工技術から組織としての仕組化へ
「もともと父がメインに行っていたタコの加工ですが、限られた職人が生み出す体制から、個人に頼らず組織として美味しいタコを作れる会社にしていきたいです」という樟さん。
明石の魚に携わる人たちみんなに言えることではあるが、仕入れる魚の鮮度や味が抜群に良いからというシンプルな強みが事業の強みでもある。恵まれた資源を生かすには食材の良さを伝えることが課題であり、リブランディングが重要だと言える。
やはり100年の間、魚と向き合い続けてきた歴史が実績を作ってきたこともあり、新しいことにチャレンジできるのもその実績があってこそである。
■ コロナ禍でできなかったイベントの実現を
昨年はできなかったイベントも実現していきたいそうだ。エンドレスタコナイトという永遠にタコを食べられるイベントや、タコだけのコース料理を出すレストランなど、企画はすでにあるという。「日本で開催した後に、そのイベントを海外でも開催してみたいと思っています。海外のタコを茹でてみたい願望があります。海外のタコを、僕らが納得行くレベルのタコまでもっていくのが面白そうです」
その行く末にたこやき屋さんができたら面白いと思いますと笑って応えてくれた。